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読書の記録です。

「ソロモンの偽証」

宮部みゆき/新潮社

クリスマスの朝、校庭に降り積もる雪の中から1人の生徒の死体が発見される。当初は自殺だと思われたが、噂がひとり歩きし始めた頃、1通の告発状がこれは殺人だと告発する。噂やワイドショーの報道に振り回される生徒たち。もう、大人たちには任せておけない。真実を明らかにするため、生徒たちは立ち上がる。

3部作構成で、合計約2100ページの超大作。宮部さんの本って、ぶっといのが普通みたいになってますよね。「理由」を初めて読んだときは、「なんてくどい本なんだ!」とびっくりしましたが、だんだんくどさに慣れました。そんなわけで、構えてたほどひっかからずに読めました。
話の内容も、中学生の自殺の真相を突き止めるというシンプルなものに、まわりの人間模様を肉付けしたもので複雑ではありません。
1990年・バブル期の終盤の日本が舞台です。なぜに20年前?と思ったのですが、携帯電話とネットの普及の影響を排除するためかなと思いました。携帯の通話記録を調べたら、一発で真相わかっちゃいますもんね。笑。ネットがあれば、図書館で調べ物する必要ないし・・・。特に野田くんのやばい調べ物。
自殺した柏木卓也は、クラスでも浮いた存在だった。不良たちと衝突してからは、自殺するまで不登校の状態が続いていたが、クラスメイトが彼のことを気にかけることはなかった。しかし、彼の死は殺人であるという告発状の存在が明らかになり、状況は一変する。もうひとりのクラスメイトの死。事故。放火事件。学校の秩序が乱されていく。クラス委員の藤野涼子は、進級と同時に当時のクラスメイトに学校内裁判を開くことを提案する。紆余曲折の末、メンバーが決まり、開廷に向けて準備が進められる。開廷は夏休みの5日間。涼子は検事として、弁護役は柏木卓也と塾で接点があったという他校の生徒、神原和彦が務めることになった。そして開廷。被告人は、フダ付きのワル・大出俊二。証人は大人から中学生まで、様々な人が事件について証言する。そして裁判は、最終的にある人物の嘘を暴きだす。
この偽証っていうのは、三宅樹里のことかなと思っていたんですが・・・。もっと全体的な、学校とか社会とか、そういうものの嘘を指しているようです。神原君が一枚かんでるのは、想像がつくけど、こんな核心部分にいたとは・・・。俊二が怒るのも無理ないよな、と思いました。話は戻りますけど、樹里が思いの他糾弾されなかったのが意外。ある意味、彼女も被害者ではあるのですが、松子が亡くなったあたりの心理描写は結構えげつなかったようなー。神原君が早くゲロしなかったのが一番の原因だけど、それに乗っかったのも十分悪いやんと思います。
なぜ、生きなければいけないのか?こんなに退屈な世の中で生きる意味ってなんなの?
非常に難しい問いですが、柏木君の真の悩みはここにはなかったんじゃないかと思います。彼は孤独だった。本当は友達が欲しかった。特別な存在になりたかった。だけど、誰も見向きもしてくれなかった。退屈な世の中。だけど、本当に退屈なのは自分なんじゃないか?柏木君は怖かったんだなあ。人間関係に飛び込んで傷つくのも、特別じゃない自分を再確認するのも。
たった一人の友達が自分のもとを去ろうとしている。寂しくて絶望して、そして飛び降りた・・・のかな?と想像していました。まあ動機はどうであれ、柏木君の言動はひどいものだし、自殺だってするべきではなかった。生きてる以上、人間いつかは死ぬんだから、そんなに慌てて死ななくってもいいじゃない。って、おばちゃんは思いますよ。
・・・ある程度の真相は掴めたけど、結局、クラスメイトは自分の自己満足だけで(やりとげたぞ!っていう)、柏木君の心の闇に思いを馳せた人っているのかな。自業自得とはいえ、ネタにされただけの柏木君もかわいそうな気がする。
途中までカッコ良かったんですけどね、藤野検事。最後はピエロでしたね・・・。エピローグの健一の20年後とか蛇足やん!と思いました。もったいない・・・。


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