「弱法師」
かなわぬ恋こそ、美しい。能をモチーフに現代の不可能な愛のかたちを描く、著者初の中篇小説集。
「弱法師(よろぼし)」は、能の曲目で盲目の乞食、俊徳丸の物語だそうです。ということは、表紙の能面は、盲目の少年を表したものなのかな?ネットで能面見たら、めっさ怖かった・・・!夢に出てきそう・・・!
では、各話ごとの感想を。
「弱法師」。医師の鷹之は、治療が困難な脳腫瘍の患者・朔也と母の映子に出会う。親子に魅せられた鷹之は、彼らと共に生きることを選ぶが、朔也の病状は悪化してゆく・・・。映子さんの妖艶さよりも、朔也の危うげで儚い脆さのほうが恐ろしかった。無機質なんだけど、粘着質・・・?獲物は、捕らえたら離さない!ゴキブリホイホイのような子だねえ・・・。絶望しているのに美しいのは、海に降る雪のせいだろうか。
「卒塔婆小町」。作家の高丘は、墓地で1人の老婆と出会う。老婆は、業界で伝説と言われた作家、深町遼の担当編集者だった。深町さんのストイックさは、いいなあと。だから、ここまで熱烈に愛される百合子さんが、うらやましい~。女性しか愛せない彼女が、彼にそこまで肩入れしたのは、性別を越えた愛があったんだろうなあ。決してバイセクシュアルに目覚めたわけではないと思いたい!笑。
「浮舟」。父と母、そして叔母。3人の間には、過去に何があったのか。母の死をきっかけに、過去が明らかになる。一番好きな作品。薫子おばさんが男前でねえ。かっこよかった。だから、薫子さんと母が昔恋人同士だったと聞いても、まったく違和感を感じなかった。寝取るのも、どっちも好きっていうのも、心を奪っていくのも、みんなずるい。3人ともずるいことしたんで、おあいこだな、と勝手に決着をつけた。1人の人をずっと好きでいるって、どういう気持ちなのだろうと思うと、甘く苦しい心地がした。碧生もこんな気持ちだったに違いない・・・。
静かで、美しい言葉が散りばめられている物語。しかし、怖いです。輪郭は見えないけれど、そこに潜むなにかが、怖い。
「でも、わたしはいつもあなたのそばにいる。」
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