「錨を上げよ」
戦争が終わってちょうど十年目、いまだ空襲の跡が残る大阪の下町に生まれた作田又三。激動の昭和の時代、生まれながらの野生児・又三は、人生という荒海を渡っていく。いざ、海図なき嵐の海へ。さあ、錨を上げよ!
話題の百田さんの本を1冊読んでみたいと思ってたんです。題名がカッコいいなあと思って選んだんですが、外しました。上下巻1200ページの本を外すと、結構きついです。これが、半分のボリュームだったら、「まあ、こんなもんか」と悟るか「おもしろくなかった!」と怒るかだったと思うんですが、今回は「やっと終わった・・・」という安堵と疲労感を感じました。文句があるなら読むのをやめるというのもひとつの手なのですが、運よく(わるく?)図書館の次の予約が入っていなかったので延滞してえっちらおっちら読んでました。
そもそも、「錨を上げよ」という題名なのに、表紙が船ではなく流木なのは何故かと思っていました。読んでる途中で、だんだん気がつくのですが、主人公の作田又三という男は、目的も持たずすぐに怠け、ケンカっぱやく、女には振り回され、流れ流されてきた人なのです。なんで題名を「流木」にしなかったのか、そしたら騙されなかったのに!と思わずにいられません。
主人公に共感を得るところも親しみも何も感じなかったのですが、この物語は何を伝えたいのかなあと思ったときに、若者に対して「型にはまるな、道を踏み外すことを恐れるな」と伝えたいのかなと思ったのですが、物語の後半になって「これは一人の男が愛を探し求める物語ではないか」と思いなおしました。最後まで読んで実際そうだったんだろうなと思いました。やっと手に入れたと思った真実の愛を再び失ったけれど、この人はまた、愛を求めていくんだろうなと。・・・それだけのために1200ページ使ったんかい!
しかし、私が読後に一番印象に残ったのは保子なんです。保子っていうのは、又三の元妻です。離婚の原因は、又三が社員旅行で泊まりの予定だった日に、事情があって家にトンボ帰りしてきたらば、保子が浮気相手と下着でいるところに鉢合わせたんですな。又三激怒で離婚することになるのですが、色々あってやっぱり彼女とやり直そうと思うわけです。しかし、彼女の行方はわからず、実家に問い合わせても分からない。で、何年かたったあと、彼女の妹から実は保子は再婚していて家族も知っていたが黙っていたということが知らされます。又三は彼女に会いにいくが、赤ちゃんを抱く彼女を見て新しい家庭を壊すべきではないと身をひくことにした・・・というのが2人の経緯になります。
お前だって風俗行ってるんだから、女にだけ貞節さを求めるなんて自分勝手だ!という気持ちも良くわかります。しかし、保子も結構なクセ者。まず、今回の浮気はこれが初めて、しかも相手に無理やり・・・という申告ですが、これがウソ。あとで男を吐かせると、これは3度目。ということは、自宅に誘ったのも保子という可能性が高いです。さらに、保子の家族には離婚の原因を話していないため、又三が一方的に離婚を申し渡した悪者になっています。さらにさらに、家族に口止めをし、自分はさっさと再婚。妹は又三の熱心さや誠実さに、黙っていることを心苦しく思い誰にも内緒でこっそり又三に手紙を出すのです。離婚は双方に責任があるもので(DVとか特殊な事情を除いて)、嘘はいけませんよ、嘘は!溝はあったけど、自分が最後の一押しをしてしまったことはちゃんと言わないと。その後の又三のことは家族が彼女に黙っていたのかもしれないけど、口止めを依頼したこと自体が家族を困らせていることにどうして気が付かないんだろ・・・。っていうか、別にDVがあったわけでもなし、ちょっと会って話くらいして「もう結婚してるのよ~。」って早く終わらせてあげれば良かったのに。
又三に同情しているわけではなく、最初の保子がウブでかわいかっただけに、誠実さに欠けるアレコレが残念だったなー。まあ、年とともにずる賢くなっていっただけと言われれば、そうなんだけど。
惚れた女に振り回されまくるカスみたいな男の話を読みたい!という人(どんな人?笑。)にはおすすめしますが、特に興味のない方は他の本を読んだ方が良いです。
PR