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読書の記録です。

「鼓笛隊の襲来」

三崎亜記/光文社

戦後最大規模の鼓笛隊が襲い来る夜を、義母とすごすことになった園子の一家。避難もせず、防音スタジオも持たないが、果たして無事にのりきることができるのか。眩いほどに不安定で鮮やかな世界をみせつける全9編。

三崎さんの少し不思議な世界観にも耐性がついてきて、「世にも奇妙な物語でやったらおもしろそうだなあ」などと考える余裕がありました。
本書の短編はどれも好きなので、全部感想を書いてみようと思います。
「鼓笛隊の襲来」。鼓笛隊は、自然災害のようなもので、我々人間が太刀打ちできる相手ではないのです。しかし、この「敵対する」という姿勢自体が鼓笛隊と人間との関係を歪めているのであり、人間と鼓笛隊は共存できる関係を築くことができるのだ。ありのままを受け入れる、そんな懐の深い人間になりたいものです。
「彼女の傷跡展」。確かにいたはずの、私の恋人。しかし、私に残っているのは、恋人を失ったという喪失感だけで、恋人に関する記憶は全くない。そんな折、ふと立ち寄ったギャラリーで彼女は自分に関するものが展示されいていることに気付く。記憶の不確かさ、人は90パーセント(だったかな?)の出来事を忘れてしまう、という話とも取れるのですが、彼女もまた、誰かから忘れ去られた恋人であるという話にも取れるよなあと思った。忘れたり、忘れられたり。
「覆面社員」。労働者の権利として覆面を身につけることが認められた。同僚の女性が覆面デビューを果たすが、彼女は事態が好転しても、一向に覆面を外そうとしない・・・。最後のシメは少しいただけない!しかし、覆面を被って出社という光景がなんともシュールです。笑。実際問題、覆面を被ったくらいで人間の本質は変わりません。そんなもんで変わってたまるか。
「象さんすべり台のある街」。開発がストップした住宅地に象さんすべり台がやってきた。しかも、プラスチック製のすべり台ではなく、今時めずらしい「本物」の象さんすべり台である。象さんは最後をどこで迎えたのだろうか。せつない気持ちになった。
「突起型選択装置」。彼女の背中には、直径1センチほどの小さなボタンが付いていた。僕は、小さいころ体にボタンを持つ女性に会ったことを思い出していた。・・・押したらどうなるの!?笑。いや、笑うところではないのですが!
「『欠陥』住宅」。旧友に連絡が取れなくなった。妻は「姿を見ることは出来るが、会うことは出来ないだろう」と言う。私は、彼の家をたずねることにした。うーん、一番意味を掴みかねた作品。世界の秩序・・・。難しかった・・・。
「遠距離・恋愛」。私は恋人と特殊な遠距離恋愛の状態にある。なぜなら、恋人の住む「浮遊特区」飛代市は、普段は滞空状態にあり、数ヶ月に一度しか降下してこないからだ。最近小さな失恋をしたばかりで、そんな時ほどハッピーエンドな物語は胸に染み入るのです。最近、友人のおめでたい報告を聞いた時にも、とても幸せで満ち足りた気持ちになりました。人の幸せを素直に喜べる自分であることに、安心しました。きっと、また走り出せる。
「校庭」。娘の保護者参観日のため、久しぶりに母校を訪れた。そこで、私は校庭の真ん中に見慣れない家が建っていることを発見する。なぜにそんなシステムがあるのか?と思ってしまいました。私は確かにここにいるのに、誰にも気づいてもらえないのは、何よりも怖い。
「同じ夜空を見上げて」。5年前の2月3日、私の恋人が乗った列車が乗客・乗員とともに忽然と姿を消した。今年もまた、私は消滅が起こった場所へと向かう。「もういいよ」って言ってるような気がする、っていうのは、本当に自分の中での気持ちの問題であって、もうとっくの昔に彼はすべてを許して遠いところへ行ってしまったのかもしれない。あるいは、近くで「まだ忘れないで!」と言っているのかもしれない。後者の可能性の方が高いな、なんて思っている私は未練がましいのでしょう。
久しぶりの長文でした。世界観の設定をぜひ紹介したかったので・・・。一つでも気になる世界があったなら、ご一読をオススメします~。


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