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読書の記録です。

「新世界より」

貴志祐介/講談社

子供たちは、大人になるために「呪力」を手に入れなければならない。一見のどかに見える学校で、子供たちは徹底的に管理されていた。いつわりの共同体が隠しているものとは。何も知らず育った子供たちに、悪夢が襲いかかる。

ダ・ヴィンチのプラチナ本で紹介されていて、ぜひとも読みたいと思っていた。かなりの長編でしたが、読んで良かったです。
いつもさりげなくネタバレしている当ブログですが(笑)、今回はネタバレあるよー。と一応警告しておきます。
やはりこの本の魅力は、世界観がとても緻密に作り上げられているところだと思います。物語のキーポイントでもある、「進化」。これがすごいなあ、と。我々が生きているこの世界でも、種は進化を続けているのである。すべては、生き残るために・・・。
人類は、進化の過程で「呪力」という力を手にいれる。呪力を持つ者と、呪力を持たない者との争いの結果、呪力を持つ種が生き残った。そして、呪力を持つがゆえに、また平和を築くために、彼らは自らに枷をはめることになったのです。主人公・早季は、そんな時代に生まれ成長します。彼女は、全人学級(呪力の学校のようなところ)で、一緒のグループになった、覚、瞬、真理亜、守とともに、様々な困難に巻き込まれることになる・・・。
なに不自由ないようで、恐ろしく管理されている子供の社会。呪力の制御ができない子供は排除し、その子供の存在を記憶から抹消する。なぜ、そこまで非情にならなければならないのか?私は、それが疑問だった。そして、冒頭で早季がもらした「真理亜はこの世に生まれてこない方が良かったのかもしれない」という記述は何を意味しているのか?読めば読むほど「?」がわき出てくるのです。
すべては、悪鬼の存在によるもの。さらにつきつめていくと、人類は人類を呪力で攻撃することができない「攻撃抑制」と呪力で人類を殺した場合、自分も死んでしまう「愧死機構」によって、秩序を保ってきたが、実は大きな歪みを生じさせていたのである。まさに文字通り、呪力は呪われた力だったのである。
後半、仲間がどんどん消えていくところは、本当に切なかった。確かに、忘れなければ生きていけないのかもしれない、と思うこともあった。また、バケネズミとの死闘で多くの人が命を落とす。びっくりするぐらい殺していく。けれど、バケネズミの側からすれば、今までの境遇が理不尽なのであって、殺したりなかったくらいではないだろうか。
主人公の早季さんの気丈さもあっぱれだが、意外に覚くんの聡明さには感心した。私は、瞬が好きだったので、上で読むのやめようかと思ったくらい。ああ、くやしい・・・!奇狼丸にはしびれました。「生きている限りは戦い続けるのが、生き物としての本分なのです」。こういうのに弱いのよ~。
バケネズミの生い立ちは、ブラックだけれど、一番ありそうな話だなあ。見たくないものから、目を背け、考えないようにしているうちに、貶めて見下していたものは、独自の進化を遂げていたのだ。与えられるだけではなく、考え行動し、獲得していかなければ滅亡が待っている。


「私たちは、獣でも、おまえたちの奴隷でもない!」
「私たちは、人間だ!」


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