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読書の記録です。

「鬼」

今邑彩/集英社

言葉にできない不安感。おさまりのつかない気持ち悪さ。誰をも奇妙な世界に誘い込む、今邑彩のベスト短編集。

今でも覚えています。学生時代、友人のミステリマニアさんが、「今邑彩ね・・・。いい作家だけど、ずば抜けておもしろい本が無いよね・・・」というようなことを言っていたのを。同年代の友人の中で、大人びていた彼女ですが、振り返れば、玄人ぶった顔をして、ミステリ批評をしていたこと自体が、青さの証明なんだよなあ・・・。要するに、何が言いたいかというと!華やかなヒット作は無くとも、確実におもしろい本を書き続けている今邑さんはすごい!ということです。
前にもどこかに書いたけれど、ホラーとミステリーの融合っていいじゃん、と改めて記しておきたい。あの、後味の悪さがいいのさ~。
では、いくつかピックアップしてご紹介しましょうっ!
「たつまさんがころした」明るく、社交的な夏美さんが、実はものすごい腹黒だったというオチは素晴らしい。その上、騙されたフリをして、あえて教えない。春美さんの秘められた悪意にそそられます。そして、願わくば、不幸が起こって欲しいと思ってしまうのです。最恐の姉妹・・・。
「鬼」そして誰もいなくなった的な追い詰められる感じが、ホラー!・・・のノリかしらん、と思っていたら、最後にはうるっときてしまいました。それは、みっちゃんが、純粋に鬼ごっこを楽しんでいたから。最後に、彼女が微笑んでくれたから。
「黒髪」黒髪は日本のホラーの定番アイテム。あるはずのない黒い髪の毛が、いたるところに現れる導入部分は恐かったー。しかし、髪そのものがにょろにょろっと動くとは思わなかったため、恐いというよりは、滑稽な感じに・・・。しかも、途中からだんだん髪の毛がかわいくなってきて、死んでしまった時には、寂しさを感じるまでに。笑。浮気は治らない病気。
「メイ先生の薔薇」子供たちと、スプラッタな光景を結びつけるのには抵抗があります。男の言葉通り、冗談であればいいのに・・・と思った。悪意は無いのに、いちばん残酷な物語。
先の展開は見えても、着地をするその時まで目を離してはいけないのだ!


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