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読書の記録です。

「猫を抱いて象と泳ぐ」

小川洋子/文藝春秋

伝説のチェスプレーヤー、リトル・アリョーヒンの密やかな奇跡。触れ合うことも、語り合うことさえできないのに…。大切な人にそっと囁きかけたくなる物語。

今年は小川イヤーにするって言ってたのに!私のウソツキ!せめて1年が終わる前に、あと1冊読まなければ!
「ダ・ヴィンチ」のプラチナ本にも選ばれていた作品です。ちょっと不思議な題名だと思っていましたが、読後は本当になんて素晴らしい題名なんだと思い、感動しました。これはオススメです。
小川さんの紡ぎだす言葉は、冷静で、ひんやりと冷たく、まるで女子シャワー室のタイルのような肌触りを持ちながら、それでいてやさしい物語を作り上げていくのです。
主人公は出生時、くっついた唇を剥離する手術を受け、その時移植した皮膚が足の皮膚だったため、唇から毛が生えている少年。少年がチェスを教わるのは、廃バスの中で暮らすたっぷりと太った元運転手のマスター。マスターの飼い猫、ポーン。後に少年の相棒となる鳩を肩にとまらせている少女・ミイラ。デパートの屋上で一生を終えた象のインディラ。
世界から少し、はみ出してしまった登場人物たち。でも、彼らには自分の居場所があって、そこで生きてゆくのだ。特に少年リトル・アリョーヒンの家族が温かくて、救われたような気持ちだった。お祖母ちゃんが本当にやさしい人。
これはチェスの物語で、もちろん対局や棋譜の話、対戦の様子が描かれているわけですが、私にはまったくわからない。笑。そもそも、私のボードゲーム暦っていったら、オセロに五目並べ・・・終わり。って感じなので。そんな私でも、なんだかよくわからないが、これはいい対戦なんだな!?という雰囲気は伝わってきました。夏に沖縄で青の洞窟に行ったのですが、海って静かで恐かった。表面を漂っていただけだけど、私は無力で力を入れれば入れるほど逆効果で。結局、私は手のかかるお客さんだったわけですが・・・(苦笑)。チェスを海にたとえるならば、私はリトル・アリョーヒンのように自由には泳げない。不安で心もとない気持ちでいっぱいになってしまいます。そして、溺れる。笑。
中でも、マスターとの対局と老婆令嬢との対局が好きです。老婆令嬢は、最後にあんなオチが来るとは思ってなかったんで・・・。めっちゃ、いいエピソードなんですけど、とにかく私は悲しかった。知りたくない結末だったなあ。知りたくない結末といえば、本書のエンディングも、あたたかではありますが、やはり私はとにかく悲しかった。思い出したら泣きそうです。
最後まで、彼はチェス盤の下でチェスを指し続けた。それは彼にとって何よりも幸せなことなのだろうけど。


「少年はデパートの屋上で、海を泳いでいた。水面は頭上はるかに遠く、海底はあまりに深く、水はしんと冷たいのに少しも怖くない。怖くないどころか、ゆったりとして身体中どこにも変な力が入っていない。ああ、自分は唇だけになっているのだ、と少年は気付く。」


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