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読書の記録です。

「食堂かたつむり」

小川糸/ポプラ文庫

同棲していた恋人にすべてを持ち去られ、恋と同時に多くのものを失った衝撃から、倫子はさらに声をも失う。ふるさとに戻った倫子は、小さな食堂を始める。それは、一日一組のお客様だけをもてなす、決まったメニューのない食堂だった。

おいしそうな料理が出てくる本が読みたい。さらに、優しい気持ちになれたらいいなあ。という気持ちで選んだ本。賛否両論あるようですが、私はこの本好きです。オススメできると思います。ふわふわした読後感でした。
傷心の倫子はふるさとへ戻ってきて、ずっと折り合いの悪かった母親と暮らし始めます。このおかんが曲者。笑。シャイだかなんだか知らんが、大事なことをきちんと伝えておけば、もっといい関係を築くことができていたかもしれないのに・・・と思うと残念。おかんとの確執については結構触れているのですが、インド人の恋人に対する恨み言があまり無くて、悟りの境地だなあ、すごいなあと思った。考えるのもイヤだったのかしら。
食堂っていうと定食イメージがあって、和食かと思っていたのですが、フルコース的なものからフルーツサンドまで色々です。どれも手間ひまをかけられて作られていて、おいしそう。野鳩は食べて大丈夫?って心配になりましたが。実際に、1日2組限定のお店は聞いたことがあって、それで採算取れるのかなあ?って思ったことがあります。下世話な話をすると、仕入れは野生のものばかりではないし(海外からの取り寄せもあり)、手間ひまかかってるし(光熱費がかかる)、客単価も高そうではないし(高校生のカップルでも利用できる)、1日1組では経営は成り立たないだろうなあ。おかんがいる間は、おかんがお金貸してくれたけど、これからは厳しいかも。いや、ふわふわした小説でこんな地に足をつけた話が出てきても興ざめだったと思うので、この設定はこれで良かったのだと思います。
「その人のためだけの料理」というのは、料理人にとっての理想かもしれないですね。しかも自分の料理を食べて、みんなが幸せな気持ちになってくれたなら、これほど嬉しいことは無いと思います。誰かのために作られた料理には心が宿り、人を感動させることができるのだから。だから私は料理を作るより作ってもらうほうが好きなのです。・・・自分の料理がおいしくないせいもありますが!
エルメスの解体は、正直読むのが辛かった。何年か前、食育ってあったと思うんですけど、子供たちが自分で鶏を絞めて、命の大切さを知るっていう、あれを思い出しました。食べる=命を頂いている。大切な作業だと頭では理解しているのですが、私には出来ない・・・。そういう気持ちが入り混じって、辛いけれど尊いシーンでした。愛しているから、食べる。それもひとつの愛のかたち。
ふくろうに関しては、いい話なんだけどそりゃないだろう!という心のツッコミを入れてしまいました。笑。おかん、この手紙発見してもらえなかったら切なすぎる!でも、最後に大切なことを伝えることができて良かった。生きているうちに、直接伝えられたなら、もっと良かったのに。
番外編のチョコムーンは、幸せそうで何よりなんだけど、1年後には別れてそうだなあと、なんとなく思ったのでした。(←ひどい)


「料理を作る、ただそれだけで、私の中の一個一個の細胞が恍惚とした。
 誰かのために料理を作れるだけで、本当に、心の底から幸せなのだ。
 ありがとう、ありがとう。
 真冬の夜空に何回叫んでも足りないくらい、全世界の人々に聞こえるような大声で、心の声が枯れるまで、みんなに、この気持ちを伝えたかった。」


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