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読書の記録です。

「カラーひよことコーヒー豆」

小川洋子/小学館

連載分24本+書き下ろし5本から一貫して伝わってくるのは、スポットライトが当たる人の周縁で密やかに、でもしっかりと生きる人々への、深い愛と感謝の気持ち。

小川洋子さんの作品だけでなく、そのお人柄の虜になっています。どんな物語であっても、小川作品の根底に流れている温かいものは、小川さん自身から自然とにじみ出てくるものなのだろう、と勝手に推測している次第です。それは、エッセイにおいても同じなのです。
やっぱり、愛犬家としてはラブについて触れられた「カラーひよことコーヒー豆」「いとおしい気持ちになれる時」がぐっときました。我が家の愛犬も年をとり、時々夜中にこっそりリビングに行って、寝息(いびき)をたてて眠っているのを確認することが習慣になりました。もう、犬が死んだ時のことを考えただけで号泣です。ペットロス症候群になると思う。いつか、いとしい気持ちになれるときが来るって理屈ではわかるんだけどな・・・。まだまだ小川さんみたいには悟れないですー・・・。
あと「本物のご褒美」には、小川さんの謙虚な心が現れていました。小説を書くこと、それが読者に届くことの喜びが率直に書かれている。私は仕事をしていて、そのような喜びを感じたことがないので、とても羨ましく思いました。「小さな命に救われながら」では、後になって「あんなこと言わなければよかった。」と後悔している姿に「私もそうだわー」と深く頷いた。「思い出のリサイクル」での息子さんの「おててが切れちゃうよ」にはじんわり癒されました。他にも心温まるお話が盛りだくさんです。
以前「科学の扉をノックする」を読んだ時に思ったことなのですが、小川さんの人物観察眼というか、人を紹介するときにこんなにもいい面を前面に押し出して紹介して下さるなんて、なんていい人なんだ!と。今回もたくさんの人が登場するのですが、どの人もユニークでいいオーラが感じられます。私も紹介して欲しいな・・・。


「何の前触れもなく、静かに試練はその人の背中に舞い下りてくる。仕事で取り返しのつかない失敗もするだろう。大事な人を失うこともあるだろう。でも慌てる必要などない。必ず救いの道は用意されていて、それを探すことこそが、生きることなのだから。」


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