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読書の記録です。

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「夜の蝉」

北村薫/東京創元社

呼吸するように本を読む主人公の「私」を取り巻く女性たち。ふと顔を覗かせた不可思議な事どもの内面にたゆたう論理性をすくいとって見せてくれる錦繍の三編。色あざやかに紡ぎ出された人間模様に綾なす巧妙な伏線が読後の爽快感を誘う。

「円紫さんと私」シリーズにはまってます。こちらは2作目の短編集。
初めてこの本を見かけたのは、大学時代にミステリ好きの友人の部屋へ遊びに行った時でした。あれから十何年。気になりながらも読む機会を見失っていたのですが、新作「太宰治の辞書」の発売を知って「こりゃ読まねばならん!」と重い腰をあげました。どっこいしょ。
本作は、今さらこんなひなびたブログで説明なんぞ不要の、日常の謎というジャンルの先駆けです。私は日常の謎は、物事の切り口を変えると見方が変わる・・・という点が好きです。ただ、気をつけなければならないのは、日常の謎=怖くない、とは限らないということです。場合によっては、殺人事件よりも深い心の闇を垣間見ることにもなるのです。
「朧の底」正ちゃん(「私」の友人)のバイト先である本屋を訪れた私は、不思議な現象に気がつく。ある売り場の本が逆さまにされていたのだ。奇妙な現象はまたも起こる。一体誰が何のために本を逆さまにしたのか?こういう回りくどいことはしないとしても、似たようなことをする人はいそう。明らかに犯罪なんだけど、本人は大して悪いことだと思わず、無自覚に罪を犯す。無自覚だから反省しないし、すぐに忘れて同じことを繰り返す。最近は、そういう人が増えたなあーとしみじみ思った。一方で「私」のほんのりとした恋心を微笑ましく見守った。私も、あのくらいの年頃は無駄に自意識が高くって、今思い出すと悶絶しそうなことを平気で言ってましたね。笑。正ちゃんの誕生日は、なるほど!でしたが、どうでもいいといえばどうでもいい。
「六月の花嫁」1年半前の出来事。江美ちゃん(「私」の友人)がサークルの先輩たちと別荘へ遊びに行くのに同行した私は、軽井沢でちょっとした名探偵を演じる。その後、江見ちゃんが就寝前に私に残した「ごめんね」の意味を図りかねている私に、円紫さんは1つの正解を導き出す。まあ、アリスの方はいいとして。一般的にはいい話なんでしょうが、どうにも気持ちの悪さが残りました。私としては、そもそも江美ちゃんが「私」を軽井沢に誘った心境が謎でした。だって、江美ちゃんと先輩はかなりいい雰囲気だったってことでしょ?もう一組は既にカップルだし、これってダブルデートじゃん!4人で楽しめばいいじゃん!なんで「私」を誘ったの?2人っきりになるのが恥ずかしいから?(まあ、当日にチューしてるわけですけど)にしても、その後に打ち明けるべきだったのでは?内緒にしておきたいのならば、「私」を誘うべきではないし、「私」を自分の都合に巻き込んだ以上説明責任があるのではあるのではないかと思います。円紫さんの言うとおり、秘密の割合がその人を形作っている、のならば江美ちゃんはただの秘密主義の自分勝手な人になってしまいます。私の江美ちゃんのイメージと合わずモヤモヤしました。
「夜の蝉」これまでもチラ見せされてきた「私」のお姉ちゃん登場です。絶世の美女で華やかな印象のある姉に、コンプレックスを抱いてきた「私」。そんな姉が、男女の三角関係に巻き込まれる。姉の誤解を解くために動き出した「私」。しかし、事の真相が明らかになったとき、確かにそこには幽霊が現れた・・・。女の醜さむき出しのお話です。まあ、嫉妬に限らず人間は感情の生き物ですから。色々な感情が渦巻いているのが普通ですよね。「私」と姉の関係にも一歩踏み込んだ内容でした。最後にわだかまりが解けたようで良かったなあ。しかし、凄味のある美女の妹なんかやってたら、そりゃ誰でもコンプレックスの塊にもなるわなー。円紫さんのお嬢さんがかわいらしい。
ミステリーなんですが、風景の描き方とか心理描写も素晴らしく、一読の価値ありです。


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