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読書の記録です。

「図書館の神様」

瀬尾まいこ/マガジンハウス

思い描いていた未来をあきらめて赴任した高校で、驚いたことに“私”は文芸部の顧問になった。不思議な出会いから、傷ついた心を回復していく再生の物語。

一時期話題になっていたので、図書館でいつも棚をチェックしていたのですが、運悪く出逢えず、月日が経って忘れた頃に眼に飛び込んできた本。出逢いとは、このようなものなのかもしれません。
さて、著者自身が先生ということもあってか、主人公の清さんを、飾らず淡々とした文章がリアルに感じさせてくれます。教師を目指して、講師をしながら毎年試験にチャレンジしている友人を見ていると、流されて試験に受かってしまう清にはフクザツなものを感じます。実際に、そういう人がいるんだろうと思うから、余計割り切れない。せめて、清さんのように、子供と関わりたいという気持ちをもって教育に携わって欲しいな。
残念なことに、私には浅見さんのいいところが理解できませんでしたー。逆に、弟君は大好きでしたけれども!優しいというより、自由なところがとてもいい。
私はあまり文学というものを楽しめず、だから、今でも推理小説やライトノベルといったエンターテイメント味が強い本を好んで読んでいます。夏目漱石は好きですけど。清さんが文学のおもしろさに触れるシーンは、本当にうらやましくて、私も川端康成の作品や、「さぶ」を読んでみようかと本気で思ったり。もういちど、「雪国」を読んだら、今の自分は何を感じるのか。それもおもしろそうだ。
傷跡を残しながら、私たちは何度でも生まれ変わることができる。
だから、大人も子供も、自殺をしないで、生きて生まれ変わろう。


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「心にナイフをしのばせて」

奥野修司/文芸春秋

1969年春、入学して間もない男子生徒が、同級生に首を切り落とされ殺害された。被害者の母は、事件から1年半をほとんど布団の中で過ごし、事件を含めたすべての記憶を失っていた。そして犯人はいま、大きな事務所を経営する弁護士になっていたのである。

関西の方はご存知かと思いますが、「たかじんのそこまで言って委員会」という番組内で宮崎哲弥さんが、「ぜひ読んで欲しい」と言っておられた本です。雑誌で本の存在は知っていて、読むべきか読まざるべきか悩んでいたのですが、宮崎さんの推薦を聞いて読もうと決心した次第です。
主に、被害者の妹みゆきさんへのインタビューですが、母親もみゆきさんも、あまりのショックに事件当時の記憶が混乱し、確かなことが言えないという状態。

「そのときちらっと見た兄は、まるでミイラのように包帯で覆われていた。そして手も、足も・・・・・・。
 わたしは兄の遺体を正視できず、思わず目を背けた。
 父はそんな兄の遺体を確認したのだ。全身を包帯で包まなければならないほど傷ついた遺体を、父は自分の目で確認したんだと思うと、わなわなと震えてきた。」

家族構成は私と同じだけに、衝撃的でした。一番泣けたのは、お父さんでした。

「父はお金を遺さなかったが、お金じゃ買えない大切なものを遺してくれた。」

と、子供に言われる親ってすごい、と思います。きっと、このような事件さえ起きなければ、ごくごく普通の家庭として過ごされたのだろうと思うと、いたたまれない気持ちになりました。
これはあくまで被害者側からの視点で、物事を冷静に見る上で、加害者側の詳しいインタビューは必要だと思います。しかし、それも許さない少年法は、物事の議論すら許さないと言うことなのでしょうか。数少ない資料の中で、著者は少年の『精神鑑定書』を読みます。

「これを読むかぎり、少なくとも級友を殺害して悔いているとは思えない。反省や謝罪を意味する言葉はどこにもないのだ。むしろ「絶望的になるまい」と自らを励まし、動機を「過去の人間」に結びつけ、さらに「一般に認められれば勝利かもしれないが」と、自分の行動を正当化しようとしているかのようである。そのうえで、少年Aは調査官に、「自分は将来加賀美君の分とあわせて二人分働く」と語ったという。
 事件後、調査官は少年Aの父親に、息子がなぜこうした犯行におよんだのかとたずねた。すると「あのこと自体は見えない特殊な力で起きたことだ。祖父が金融業をやっていたのでその祟り」だと述べ、親としての責任を認めなかった。」

事件の背景には、少年Aに対するからかい(本人はいじめだと思っていたようだが)があったとも考えられるようですが、当然のことながら、人を殺していい理由なんてありません。
宮崎さんによれば、現在少年院で行われている「更正」とは、「過去に犯した罪は、もういいから、忘れてしまいなさい。過去を流して、あなたの新しい人生を歩みなさい」という方針のもとに行われているそうです。なるほど、過去を清算し弁護士として地元の名士になった少年Aは、成功例だと言えるでしょう。しかし、もし、ここに担当者がいたなら私は胸倉を掴んで言ってやりたい。これを更正に成功した、とあなたは胸を張って言えるのか。30年経っても遺族に詫びのひとつも入れない人間を、更正したと言えるのか。
ひとつ少年犯罪が起きるたびに、被害者の家族だけではなく、彼らに関わる多くの人がその犯罪に縛られる。何が彼らを救うのか、わかりません。けれど、少なくとも加害者の少年の更生が、遺族にとって何の救いにも、あるいは癒しにすらもなっていないということは理解できます。更正とは、誰にとっての救済なのか。犯罪が起きた時に、救われるべきは被害者ではないのか。


「三十余年が経過しても、今も被害者はあの事件を引きずっていた。おそらく生涯にわたって続くだろう。歳月は遺族たちを癒さない。そのことを私たちは肝に銘じておくべきだと思う。」



「雪屋のロッスさん」

いしいしんじ/メディアファクトリー

「さいわいなことに、雪はいずれ溶けます。はかないようですが、そこが雪のいいところです」物語作家いしいしんじが描く、さまざまな人たち、それぞれの営み。あなたは、何をする人ですか?

色々な職業を持った人たちのお話。ショートショートです。
私はショートショートは苦手なのですが・・・。不思議とすんなりと入り込むことができました。読後の、あの置いてけぼり感を感じることがありませんでした。図書館の返却期限があったので、一気に読んでしまったのですが、できれば一日一話のペースで読みたかったなあ。そんなスローペースな雰囲気が漂っています。大人でも子供でも楽しめる童話のよう。
優しかったり、毒を含んでいたり、せつなかったり。人生は十人十色。ひとつとして同じものはありません。だからこそ、あなたも私もスペシャルな毎日を大切に過ごそうではありませんか。


「スミッツ氏は彼女の手を握り、
 「突然やってくるものだ」
 とささやきました。まるで自分の胸にいいきかせるように、じっと手と手を合わせたまま、
 「こういうことは、いつだって突然、なんの前触れもなくやってくるものなんだ」」


「七人の武器屋 天下一武器屋祭からの招待状!」

大楽絢太/富士見書房

大雪の重みに耐えられず、エクス・ガリバーが潰れてしまった。店を再建するため、「天下一武器屋祭」に参加することにした七人。しかし、大陸横断列車の旅はトラブル続き・・・。青春経営ファンタジー、行商編。

見つからないー。と言っていた第3巻。足を延ばした本屋さんで、意外とあっさり見つかりました。
本番の「天下一武器屋祭」は次巻で、今回は会場に着くまでの旅行編。「これはページを割きすぎでは・・・?」と、中だるみが心配されたのですが、なかなかテンポ良く1冊読めてしまいました。まあ、列車のルールあたりは、こじつけというか・・・。そんなミスはまずあり得ないと思ってしまいましたが。
特にマーガスたちの行商は良かったなあ。恐竜乗りたい~。私は、夜の告白大会もしたけど、枕投げで暴れていた思い出の方が強い・・・。衝撃的に鈍感なドノヴァンがおもしろかった。笑。マーガスは個性が無いという個性でいいじゃないか。え、良くない?
あとはー、ミニィの初恋の人がちょっと大げさだなあ、と。いやー、会えたらおもしろいだろうけど、魂抜き取られるほど気をとられないよね。と、年寄りクサイわー。
毎回男前なイッコさんですが、今回は特に男前でした。啖呵を切る女の人って大好き!次回無事に復活してくれればいいんだけど・・・。武器屋祭って、何で勝負するのかも気になりつつ。また間を空けて。


「イン・ザ・プール」

奥田英朗/文芸春秋

「いらっしゃーい」。伊良部総合病院地下にある神経科を訪ねた患者たちは、甲高い声に迎えられる。色白で太ったその精神科医の名は伊良部一郎。訪れる人々も変だが、治療する医者のほうがもっと変。こいつは利口か、馬鹿か?名医か、ヤブ医者か。

2作目「空中ブランコ」を先に読んでいたのですが、さすが1作目、勢いは2作目と変わらず、伊良部ワールドにぐいぐい引き込まれました。
自分の本能に忠実に行動する伊良部先生がうらやましい!全員がこんなんだったら、世の中大変なことになっちゃいますけど。笑。こうありたいと思っても、周りの目は気になるし、大人として振る舞わなければならない、って潜在的に思っているんだよなあ。症状は極端だけど、抱えているストレスは、誰しも心あたりのあるものだと思います。
うーん、私は「いてもたっても」が一番近いかも。家を出た直後って、不安を感じる時が多いです。下宿してた時は、帰省する時がピークでした。笑。バスを一本遅らせて、ガスの元栓確認するためだけに帰ったりしました!結局ちゃんと締まってて、「なんだよー、ちゃんと締まってるじゃん。」って脱力したり。今でも、遠出をする時で、家族が早く帰らない時とか心配になります。「戸締り・・・。ガス・・・。電気・・・。犬のこと・・・。」まあ、その内どーでもよくなってしまいます。
うさん臭い伊良部先生ですが、彼のショック療法的助言(あるいは行動療法)は、意外にも的確だったりして、なるほどーと思わせてくれます。セクシー看護婦マユミさんも、ずばり!と切り込むセリフを言ったりしてカッコイイ。
精神科でなくとも、悩みやストレスを抱えているならば、誰かにぶちまけてしまった方がいい。現に、悩みの種が無くならなくても、それとうまく付き合う方法を見つけた登場人物たちの足取りは、以前より軽くなっているように思えます。


「不安なんです。メールが入ってこなかったり、一時間も着メロが鳴らなかったりすると、動悸が始まるんです。」
「ケータイ、捨てたら」
ナイスアドバイス。