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読書の記録です。

「図書館の魔女」

高田大介/講談社

鍛冶の里に生まれ育った少年キリヒトは、王宮の命により、史上最古の図書館に暮らす「高い塔の魔女」マツリカに仕えることになる。古今の書物を繙き、数多の言語を操って策を巡らせるがゆえ、「魔女」と恐れられる彼女は、自分の声をもたない少女だった。

第45回メフィスト賞受賞作。メフィスト賞って、45回もやってるんだ!話題作、あんまり見かけないですよね~。下火なのかな?
こちらは、上下巻あわせて1400ページのボリュームたっぷりのファンタジーです。1400ページになんてビビらないぜ!なんせ、「錨を上げよ」1400ページを読みきったからな!(←何の自信)あれを読んでから、たいていの本を読みきる自信が生まれました。何が幸いするかわかりません。笑。
山奥で修行していた少年キリヒトは、師に連れられて一ノ谷へ。王宮よりも高くそびえ立つ「図書館」に仕えることになる。世界中のあらゆる言語で綴られた様々な時代の書物を収集している図書館。この図書館の主は、幅広い知識と深い洞察で時には影で政治も動かすと恐れられている。別名「図書館の魔女」の正体は、キリヒトよりも幼い少女、マツリカだった。
声を持たないマツリカの専属の手話通訳となるべく、司書たちに習って勉強を始めるキリヒト。主だった司書は2人。白い髪の毛に白い肌。日光は害なので、日中は外に出ない、笑い上戸のハルカゼ(石が好き)。対照的に褐色の肌に黒髪。負けず嫌いで使用人の娘から軍師の養女になったキリン。実は、2人とも最初は図書館に送り込まれた間諜だったのですが、マツリカのカリスマ性に惹かれ、図書館こそ自分のいる場所と思い定めた人たち。
上巻はマツリカとキリヒトの交流を描きながら、巧みに伏線を忍ばせていきます。上巻の最後には、キリヒトの真の使命が明かされます。夜の井戸での2人の邂逅はせつなかったです。あと、キリヒトがマツリカに手で水を飲ませてあげるシーンが・・・官能的!手ってエロいですねえ・・・。上巻では、ただの近衛兵だと思っていた人々が、下巻で図書館のメンバーに加わったのも驚きでした。しかも結構活躍してて、メンバーそれぞれに個性があって好きでした。ヴァーシャが一番重要な役どころですが、アキームとイラムの恋の行方なんかも微笑ましかったです。笑。
下巻では、ニザマの企みを阻止しようと会談に乗り出します。波乱の船旅。催眠術によりマツリカの左手が封じられ、催眠術を解こうと潜入した下手人のアジトに潜む罠・・・。まあ、とにかく色々あって、大団円!かと思いきや、大人は若い2人を引き裂くのです・・・。というか、しばしの別れなんですが・・・。これまでが濃密な密着度だっただけに、寂しいだろうなあ。
マツリカが最初は超クール!だけど、物語が進むにつれてキリヒトと仲良くなって、実はお酒大好き!とか船がコワイ・・・とか感情が垣間見えると途端にかわいく見えてきました。先代のタイキやニザマの国王をジジイと言ってのけるふてぶてしさも、かわいいです。
私が喋る言葉も、手話で語られる言葉も、指話で表現される言葉も全て同じ言葉。しかし、受け手が受け止められなければ(あるいは読み手が読み取ることができなければ)それは伝えるべきものを伝えられず、消えてゆくだけ。マツリカが最後に敵であった双子座について、彼の言葉を受け取ることができなかったと悔やむシーンが印象的でした。イラムとアキームは、まだ上手く会話できていないけど、気持ちは通じあっている。魔法は出てきませんが、言葉の持つ力、表現の可能性の広さについて考えさせられる物語でした。
指話は常に相手と手をつないでいるという非常にロマンチックな構図。これを先代でやる(タイキには必要ないけど)とタイキ(おじいさん)と先代キリヒト(おじいさん?)になるわけで・・・。・・・代替わりして良かったね!
キリヒトとマツリカの関係は、主従関係から好きとか恋とかそういう感じを通りこして一心同体。誰にも代えられない、自分の片割れに会えたんだねえ。いいなあ。


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「さいごの毛布」

近藤史恵/KADOKAWA

幼い頃から自分に自信が持てず、引っ込み思案。家族とも折り合いが悪く就職活動も失敗続きだった智美は、友人の紹介で、事情があって飼い主とは暮らせなくなった犬を有料で預かる老犬ホームに勤めることになる。時には身勝手とも思える理由で犬を預ける飼い主たちの真実を目の当たりにして複雑な思いを抱く智美は、犬たちの姿に自らの孤独を重ねていく。

「ペットのアンソロジー」で、すっかり犬にはまってしまったと書かれていたので、動物をテーマにした作品が増えていきそうですね~。
私は犬が大好きで、飼っていた犬が亡くなってからは動物全般が好きです。しかし、「動物の死」となると、おいおい泣いてしまうので、「死」が出てきそうな本は自然と避けているかもしれません(人が殺される話は平気なのに。むしろ好物)。今回も迷いました・・・。でも、飼い主と犬の高齢化が進む現代で、老犬ホームは大事なテーマなので!
主人公は、人付き合いが苦手な智美。家族からも「何を考えているのかわからない」と言われ、孤立しているため実家にも寄り付かない。友人からの紹介で老犬ホーム「ブランケット」で住み込みで働くことになった智美。犬を飼ったこともなく、専門的な知識もない。突発的な出来事に対処するのが苦手な智美だが、オーナーの麻耶子や同僚の碧に助けられて仕事に慣れていく。最初はわからなかった犬たちと飼い主の関係。麻耶子や碧の人間関係。そして自分の家族との関係を見つめなおす。
人生それぞれ。事情もそれぞれ。保健所に連れていくくらいなら、老犬ホームに入れるという選択があってもいいかなあとは思います。でも、大事な家族は最後までちゃんと看取ってあげて欲しい。「子供に死ぬところを見せたくない」という飼い主が一番ひどい。本当にこんな人がいたら軽蔑します。他にも、病気でやむを得なく、仕事の事情で・・・などなど。無責任な人間ではありますが、同時に大事なお客様。いちいち腹を立てていては商売にならない。麻耶子さんが言うように、ペットビジネスは「好きなだけでは務まらない」のです。
老犬の世話は、あんまり大変なことは書かれていなかったけど、実際大変なんだろうなと思います。タヌ吉みたいに愛想のいい犬ばかりではないだろうし。当然ながら病死するワンちゃんもいて、そのシーンではほろりときました。
私が思っていたよりも、人間達の物語にウエイトが置かれていて、特に碧さんの不倫の行方は気になりました。きれいで気さくな碧でも、上手くいかないことがある。世の中を泳ぐのがしんどいのは自分だけだと思っていたけど、意外とみんなしんどいのかな・・・と智美が考える場面では、そうそうと思いました。その碧も泥沼不倫から抜け出せそうで良かった。麻耶子さんも、息子と仲直りできそうだし、智美も家族との距離が少し縮まりそうだ。
全てを手に入れることはできなくても、ひとつずつ拾えそうなものを拾っていく。そういう生き方もありだよね。


「オレたちバブル入行組」

池井戸潤/文藝春秋

大手銀行にバブル期に入行して、今は大阪西支店融資課長の半沢。支店長命令で無理に融資の承認を取り付けた会社が倒産した。すべての責任を押しつけようと暗躍する支店長。四面楚歌の半沢には債権回収しかない。

知らない人はいないであろう、ドラマ「半沢直樹」の原作です。ものすごく今さらですが、ドラマと原作がほぼ同じ道筋をたどるので、「ああ、こういうシーンあったなあ」と思い出しながら楽しむことができました。
原作の半沢が、ドラマより性格悪いってのは前知識としてあったんですが、本当に性格悪いなー。性格悪いっていうか、ひねくれてるっていうか・・・。後半、子会社の社長をいびるところなんか、もう、「その筋」の人!笑。銀行の人がこんなこと言っちゃっていいのかな・・・と思ったんですが、半沢の導火線が短く、よく怒っているという性格にマッチした物言いなのかなあ。ドラマの半沢はスマートで熱血!正義の人!って感じですが、小説の半沢は、怒り、反骨精神、コンプレックス、粘着気質ってな感じですかね。
仕事したことある人なら、同僚や上司に仕事のミスを押し付けられた・・・っていう経験があると思います。しかし、ここでは仕事のミスどころか、上司の不正の尻拭いを押し付けられた!弾圧される半沢。(私ならここら辺で心が折れます。)しかし、この男はやられたらやり返す、不屈の精神を持つ半沢直樹!これは許せん!と闘志を燃やします。不正の証拠を手に入れたって、すぐに楽にはしてやらない!真綿で首を絞めるように、じわじわと精神的に追いつめます。(たぶん半沢さんはサドっ気があると思う。)ここで奥さんの名前を使うのに???となりましたけど。脅迫するのに奥さんの名前使うかなあ?半沢家は夫婦不仲?話の展開はスピーディで、勧善懲悪モノとして、わかりやすくスッキリと終わりました。そして最後のエピローグ・・・あれっ、お父さん生きてるやん!確か原作ではお父さん首吊り自殺してましたよねえ・・・。
キメ台詞の「倍返しだ!」は、この本の中では1回しか出てこなくて、これを多用したのはドラマの演出勝ちだなーと思いました。次の「オレたち花のバブル組」が旅館だったかな?赤井英和と壇蜜(の演技力のなさ)のインパクトがすごすぎて、旅館編は最後の土下座シーンしか印象に残ってないんだよなー。赤井英和の社長役は本当にハマってたなー。
国税はあんまり存在感が無かったんだけど、けちょんけちょんにされてたのはおもしろかった・・・。あと、私の好きなシーン「都合のいいことばかり書いてんじゃねえぞ!」があって、嬉しかった。あのシーンはおもしろかったなあ。
ドラマの続編、待ってるんですが、なかなか始まりませんねえ。まさか・・・映画?


「少年検閲官」

北山猛邦/東京創元社

旅を続ける英国人少年クリスは、小さな町で家々の扉や壁に赤い十字架のような印が残されている不可解な事件に遭遇する。奇怪な首なし屍体の目撃情報も飛び交う中、クリスはミステリを検閲するために育てられた少年エノに出会う。書物が駆逐される世界の中で繰り広げられる、少年たちの探偵物語。

北山さんの本も色々気になっているのです!ああ、もっと早く読めたらなあ・・・(切実)。
実は、名探偵・音野順シリーズの方を読みたかったのですが、本の題名をよく覚えてなくて(すいません)、えいやっと借りてきたら見事に違うシリーズでした。いつものことです。中身ちゃんと見ればいいのにね。
気をとりなおして、「少年検閲官」シリーズから読み始めることにしよう。
この世界では、書物は禁忌とされ見つかったら燃やされます。家ごと焚書です。そのため、人々はその昔「本」というものが存在したことは知っていますが、実物を見た人は数少なく、本ってどんな形してるの?という人がわらわらいます。現実、本ってなあに?ってことは無いので、何か想像しにくいシチュエーション・・・。しかし、後になって「本ってどんなもの?」という疑問が大きく関わってきます。主人公は、ミステリを探して世界を旅するクリス(イギリス人)。クリスが何故日本に来たかというと、日本には焚書を逃れたミステリが、数多く眠っていると考えられているためです。で、まあ、「ミステリ」と聞けば本を連想しそうなんですが、この場合のミステリはミステリのエッセンス(トリック?)を詰め込んだ「ガジェット」と呼ばれる宝石。クリスは立ち寄った村で事件に巻き込まれるのですが、そこでこのガジェットを処分する「少年検閲官」エノに出会うのです。
冒頭では、目を切り裂かれた少女と少年の話が。幕間では少年が拾った「少女」がだんだんと原型をなくしていく様子が描かれます。不思議な雰囲気で、ちょっとグロくて・・・。でも、少女は実は○○だったということが、謎解きで明らかになると、「なーんだ」ってな感じなんですが・・・。人間を間引くように、定期的に人を殺し首を切り取っていく「探偵」。本来事件を解決するはずの探偵が犯人。その正体も意外でしたが、犯人の目的も意外でした。本がない世界ならではの動機ですね。でも・・・、人間に行き着く前に、草とか葉っぱとか樹皮とか・・・いろいろあったんちゃうん・・・と思わざるをえない。結構なインパクトでした。
おっと、そういえばクリス君はなぜ「ミステリ」を探しているんだっけ?お父さんの何か・・・あったような・・・。と本筋をド忘れ。


「塗仏の宴 宴の支度」

京極夏彦/講談社

「知りたいですか」。郷土史家・常島なる男の蠱惑的な囁きは、関口巽を杳冥の中へと連れ去った。昭和十三年、伊豆韮山付近の集落でおきたという大量殺人は果たして“真実”なのか。かたや“死にたがる男”村上兵吉を助けた朱美は、妖しき結社「成仙道」の勧誘手口を知るが、そこにもうひとつ疑惑の影がさす。

気分が乗ってきたので、百鬼夜行シリーズ一気読みをしようと目論んでおります。しかし、いきなりの2部構成。分冊文庫版で読んでいるので、計6冊ですね。・・・6冊!?先が思いやられます。
消えた村を探して欲しいという奇妙な依頼が発端となって、関口がまず事件に巻き込まれます。その消えた村・戸人(へびと)村があったと推測される集落(現在は別の村らしい)へ調査に向かい、郷土史家を名乗る堂島という男と行動を共にします。そして、関口さん、くらくらなっちゃったあとに、全裸の女性の死体と一緒に見つかって、殺人の疑いで御用となってしまいます。
あらまあと思っているうちに、今度は朱美さん(「狂骨の夢」に出てきた人?)登場。自殺未遂をした男を助けるが、彼は「みちの教え修身会」の信者で、その辺のごたごたに巻き込まれちゃった。見え隠れする薬屋の影!敦子さんは韓流気道会という武術?集団に付け狙われ、成り行きで華仙姑乙女を助けたことから事件に巻き込まれる。榎木津さんも登場。「クラゲ」とは?木場もワケありの女性を助けることになり、条山房という漢方薬の調剤師に助けられる。藍童子と呼ばれる少年も出てきたりして、超能力者バトルロイヤルという感じです。途中から、誰がどこの組織の人なのか、こんがらがってきてしまいました。まさか・・・催眠術で最後まで突っ走る気では・・・と若干心配になりました。まあ、これまでも似たようなモンだったといえば、そんな気もするけど・・・。
最後に茜さんが登場しましたが、あっという間に殺されてしまいました。うーん、特に感慨も無いですが・・・。なぜ茜さんが再登場してまで殺されなければならないのか。なぜ、関口がはめられたのか。そのあたりが気になります。
今回はほぼ顔見せと小競り合いで、大きな話の展開はありませんでした。なんとも壮大なプロローグです。長すぎる・・・!エノさんが登場しなければ、とても耐えられなかったでしょう。関くんはずっと、うだうだ、もぐもぐ、はっきり物を言わないから警察に頭がおかしい人だと思われているし。「自分が殺したかも・・・。だって見てたから・・・。」とか言い出すし。大丈夫か、関くん!?って感じでした。京極堂、早く助けてあげておくれ。笑。