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読書の記録です。

「幻の女」

ウィリアム・アイリッシュ/早川書房

夫婦喧嘩をして家を飛び出した男は、バーでひとりの女に声をかける。妻との予定を彼女と過ごし、出会ったバーで酒を飲んで女とは別れた。その後、家に帰った彼を待ち受けていたのは、刑事だった。妻は何者かに絞殺されたのだ。容疑者となった男が自分のアリバイを証明するためには、行動をともにした女の証言が必要だが、彼はまったく彼女の容姿が思い出せない。ただ覚えているのは、彼女が奇妙な形の帽子をかぶっているということだけだった。

ちょいと停滞していましたが、ランキングの第4位です。このペースだと100位まで読むのに10年くらいかかりそう、ということに今頃気がついた。かえって、のろのろペースの方が長続きするかもしれないね。
さて、有名なフレーズ(私は知らなかったのですが)「夜は若く、彼も若かったが、夜の空気は甘いのに、彼の気分は苦かった」で始まるサスペンスです。最初は男が街をぶらぶらして、女性をナンパしているだけで、「何やってるんやろ、この人?」って感じだったんですが、要するに夫婦喧嘩の挙句、妻に「別の女をキミの代わりに連れていくさ!」と啖呵を切って出てきた男(スコット・ヘンダースン)が、言葉通りに女性をナンパしたという流れだったんですねー。で、ごはんを食べてショーを見て、一杯飲んで、家に帰ったら、刑事が待ち構えていた!ぎゃあ、怖い!妻は彼のネクタイで絞殺されていた。当然第一容疑者になった男。夫婦仲は冷え切っており、彼には若い恋人(キャロル・リッチマン)がいて離婚話が出ていたのだ。動機は十分。彼はもちろん、その時間はバーで女性をナンパしていたとアリバイを主張する。刑事たちとともに足取りをたどり、女性の目撃者を探すが、皆が口を揃えて言う。「彼は覚えているが、連れの女性はいなかった。」彼のアリバイは立証されず、下された判決は死刑。
死刑の日が刻々と近づく中、彼を刑事の一人(バージェス)が訪ねる。時間がたって、男の無罪を信じるようになったが、自分は他に仕事があるので個人的な捜査はできない。そこで、親友に調査をしてもらってはどうか?というのだ。なんなんだ、その言い訳は。笑。と思ったけど、ある策略があったんですねー。そこで、親友(ロンバード)が彼のために一肌脱ぐのです。
たしかに、自分は誰かと過ごしたはずなのに、その誰かを自分も覚えていなければ、店の人間もタクシーの運転手も覚えていない、という不可解さ。そして、捜査を進めていくうちに、彼を陥れようとする意思が見え隠れする恐怖。実は、関係者は口封じとして、お金をもらっていたのです。関係者は次々に事故にあい、または殺害されていきます。まあ、この辺から、ちょっとおかしいな・・・と言う気はしてたんですけどね。でも、あんたはきっと良いヤツだって信じてたのに、ロンバード!ひどいや、ロンバード!
そうなんです、真犯人は親友のロンバードやったんです。ロンバードは男の妻といい仲になっており、今回の海外転勤で彼女を連れ去ってしまおうと考えていたそうなんです。しかし、本気だったのは彼だけで、彼女にとってはただの遊び。自分の純情を大爆笑された彼は激昂。犯行に及んでしまったというわけです。若い彼女を作った男も男だけど、この奥さんも結構ひどい人だよね・・・。男と親しい人間が怪しいと睨んだバージェス刑事は、わざとロンバードを呼び寄せて、証拠隠滅をはかるように仕向けたというわけなんです。最後にバージェスの株が急上昇。めっちゃ粋な計らいです。
1940年代くらい?のニューヨークが舞台で、古い映画を観ているような感覚でした。電車や街並みの描写、女優さんの話とかバンドマンとか・・・。夜の街はにぎやかで、退廃的で、一瞬で終わってしまう。
毎度ネタバレ全開ですが、幻の女の正体だけは秘密にしておこう。まあ、なんてこと無かったし・・・。


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「ことり」

小川洋子/朝日新聞出版

世の片隅で小鳥のさえずりにじっと耳を澄ます兄弟の一生。図書館司書との淡い恋、鈴虫を小箱に入れて歩く老人、文鳥の耳飾りの少女との出会い。やさしく切ない、著者の会心作。

主人公は小鳥のおじさん。幼稚園の鳥小屋のお世話をしていたから、小鳥のおじさんと呼ばれていた。
小鳥のおじさんがまだ小さかった頃、ある日突然、おじさんのお兄さんがポーポー語を話すようになった。このポーポー語は、お兄さんが作り出した言葉で、小鳥と語らうためのものだったため、まわりの人たちは彼が何を話しているのか理解することができなかった。しかし、何故かおじさんだけはポーポー語を理解することができた。やがて、母が病気で亡くなったあと、父は事故死(自殺?)し、兄弟は2人だけとなる。2人の心を慰めるのは、小鳥の歌声だけだった。
兄弟は心優しく、ただ自分達の箱庭の中でつつましく暮らしていただけ。だけど、「その多大勢」に馴染めない存在が、一般社会とつながることはとても大変なこと。そのすれ違いが寂しく、何度もやるせない気持ちになりました。兄弟はとても優しい人たちだと思うけど、もし、自分がその場にいて何か手をさしのべることができただろうか、といえば、何もできなかったのではないかと思います。
お兄さんが、薬局の店主に想いをよせ、小鳥のおじさんが図書館の司書に心を開きかけるけれど、どちらの想いも届くことはなかった。かわいそうだと同情こそするけれど、彼女たちにとって彼らは特別な存在ではなくて、だから好意を寄せられても、どうしたらいいのかわからなかったのかな。司書さんは、きっとお友達みたいな感覚だったんでしょうね。年も離れてるし。
お兄さんも亡くなり1人になった小鳥のおじさん。お兄さんの好きだった鳥小屋の掃除をしながら、やはり静かにくらしていたが、晩年、おじさんは幼女連れ去り事件の容疑者として疑われます。近所の人から「ことり(子盗り)」と陰口をささやかれる日々。おじさんは、決してそんなことをする人ではないけど、付き合いのない他人から見れば、おじさんは変わり者で、よくわからない存在。不気味で、だからそういった噂が広まっちゃったんだなあ。
家の庭に落ちていたメジロのヒナを助けてから、少しずつ癒されるおじさんの心。メジロのケガも癒え、外へはなす日も近づいた頃、怪しい男が家を訪ねてきて、メジロをゆずって欲しいと頼まれる。メジロって法律で飼育できるのは一世帯に1羽(足環の装着が必要)と決められているそうです。メジロの鳴き声は美しく、鳴き合わせ会で優勝したメジロには数百万円の値がつくことも。そのため、より多くのメジロを手に入れたい業者は密猟を行っているそうです。(YOUTUBEで「鳥の密猟Gメン」という動画があります。)長年カゴで飼われた鳥は、突然放しても自然の中では生きていけず、木に慣れさせるリハビリが必要だそうです。・・・おじさんが放したメジロは大丈夫なのかな・・・。136羽も飼っている業者もいて、本当にひどかった!怒りがメラメラと・・・!鳥の翼は空を飛ぶためにあるもの。その鳥たちをカゴで飼うのなら、せめて本当に大事に愛情を持ってお世話してあげて欲しいです。
途中で何度も泣いてしまいました。おじさんの愛の歌は彼女には届かなかったけれど、メジロには届いたよ。きっとお兄さんにも届いたよ。


「明日の朝、籠を出よう。」

「空へ戻るんだ」


「七夜物語」

川上弘美/朝日新聞出版

小学校四年生のさよは、母親と二人暮らし。ある日、図書館で出会った『七夜物語』というふしぎな本にみちびかれ、同級生の仄田くんと夜の世界へ迷いこんでゆく。七つの夜をくぐりぬける二人の冒険の行く先は。

一応ジャンルは児童文学ですが、小学校の高学年くらいの子が読むといいんじゃないかなーという感触です。もちろん、児童文学が好きな大人も楽しめると思います。
夜の世界というイメージから、寝てる時に違う世界へ行くのかなあと思っていたら違いました。昼間に突然迷い込むけど、実際は時間が経ってないというパターン。
物語の主人公は、さよと仄田くん。小学校4年生。2人は同じクラスだったけど、特に仲良しというわけではない(むしろ仄田くんはクラスから浮いていた)。しかし、一緒に夜の世界の冒険をすることになり、協力するうちに相手のいい所も悪い所も知って、絆を深めてゆく。
一番最初の夜は、大ねずみのおばちゃん・グリクレルが登場。最初は、悪者?いじわる?と思っていたけど、いいねずみさんでした。自分のことは自分でやろう。お母さんをお手伝いしましょう!という冒険のイントロ。自分はお手伝いとかしない子だったので、仄田くんは普通じゃん!と思っていた。
二番目の夜は、誘惑の夜。霧の中を歩き続けて、不思議な家に辿りついた2人。その部屋のこたつは大層気持ちが良くて、猛烈な睡魔に襲われる。私はここでゲームオーバーになりそうです。笑。三番目と四番目の夜では、それぞれの内面と向き合うことになる。さよの若い頃の両親が出てきてチュッチュし始めた時は、「ど、どうした!?」と戸惑ってしまった。まあキスしてるだけなんですけど、なんていうか・・・ラブシーンだ!って感じで(←思春期か。笑)。五番目の夜では、学校を危機から救います。モノと生き物は違うのか?モノが動いて、生き物が動かなくなる世界だってありえるのではないか?このあたりちょっと中だるみでした。ウバの「ぼおおおっ」に何故か和む。
六番目の夜はパーティー。パーティーはファンタジーの醍醐味ですよね!ねずみも子供もモノたちも、架空の生き物も、みんなが同じものを食べて楽しくおしゃべりして。これが平和ってことなのかもしれない。そして最後の夜。楽しかった反動で、一番辛くてしんどい戦い。実は七夜物語の世界は、少しずつ歪んできていて、グリクレルにその歪みを直して欲しいと頼まれる。光と影の子供たちは言う。現実の世界と夜の世界は互いに影響し合っていて、こちらが歪んでいるのはお前達が変わったからだと。光と闇、善と悪、なんでもきれいに分かれているほうがいいに決まっている。どっちも受け入れるなんて、そんなのはおかしいと。絶対絶命のその時、遠くから聞こえてきたのは、口笛の命の歌だった。
今までのペアがそうだったように、さよと仄田くんの絆も、夜の世界の冒険が終わってもずっと続くと思っていた。だから、最後はちょっと寂しかったな。でも、その人を思い出すと優しい気持ちになれる、そういうつながりも素敵だなと思った。
酒井駒子さんの挿絵目当てで読んだようなもんですが、子供向けにありがちな友情、勇気、冒険!だけではない深いテーマが織り込まれていて、楽しめました。


「いいところも、へんなところも、まじりあってでこぼこで。」

「そういうものが、すてきなんだよ。」


「福家警部補の挨拶(再読)」

大倉崇祐/東京創元社

再読という言い訳で、色々省エネモード。
福家警部補シリーズのドラマ、視聴率は伸びなかったようですが、私は大変楽しませていただきました!壇れいさんはきれいだし(ちょっとキリッとしてましたが)、硬派な作りで好きでした。なんでポラロイドなん?という疑問点はありますが・・・。ポラロイドの写真はパタパタしちゃ駄目ですよー。
で、小説とドラマを比較しようとして自分の過去の感想を読み返したところ・・・。・・・あらすじが全くわからねえ!大ざっぱな自分にがっかりです・・・。せめて各話にわけよう。
「最後の一冊」これはドラマには入っていなかったような?私設図書館の館長が、図書館存続のために殺人を犯す。なんとなく一番記憶に残っていたのはこれ。ビールの空き缶についた水滴でできた跡に、眼鏡にとんだ血痕。細かいポイントをついてきます。
「オッカムの剃刀」これはドラマでも前後編でした。元・科警研科学捜査部主任の柳田教授との対決!“オッカムの剃刀”が気になって、ググってみました。「オッカムの剃刀とは、ある事柄を説明するためには、必要以上に多くを仮定するべきでないという指針。(ウィキペディアより)」心理学や統計学で応用されているようです。5年前から怪しいと思われてたら、もう逃げられないよね。笑。石松さんの出番って結構少なかったのかー。ドラマでは警部で上司だったけど、この先昇進するのかな・・・。
「愛情のシナリオ」これは、殺害方法がちょいと違いましたね。こちらは鳥も一緒に死んでた・・・。電池の切れたコンロは、設定としてちょっと苦しいかもしれない。映画に詳しい福家さん。
「月の雫」社長は男だった。ドラマでは片平なぎささんでした。酒造りを愛するが故に、ボロがでちゃったという・・・。車に乗っていたもうひとりの人物。深夜に開けられたはずの木戸、月の光、そこからでなければ見ることができなかった風景・・・。福家さんの畳み掛ける推理が冴えてます。それにしても、酒豪とは・・・。
ドラマでは、警察の組織の中でのしがらみとか、福家さんが単独行動することで、同僚や上司の反感を買ったり・・・という要素も織り込まれていましたが、小説はその辺カット!でした。ロジックに重点を置くなら、組織云々は無くても良いかなと思います。昇進と福家さんの過去については、あとの2冊で言及されているのかもですね。

「シャーロック・ホームズたちの冒険」

田中啓文/東京創元社

シャーロック・ホームズ&アルセーヌ・ルパン、ミステリ界が誇る両巨頭の新たなる冒険譚。赤穂浪士討ちいりのさなか吉良邸で起こった雪の密室殺人。あのアドルフ・ヒトラーがじつは大変なシャーロキアンだったら・・・。ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)が日本に来た本当の理由とは。著名人の名推理に酔いしれる、連作短編集。

オマージュ、ではなくパスティーシュ。違いが良くわかってないんですが、パロディ寄りってことでいいのかな・・・。
「“スマトラの大ネズミ”事件」シャーロック・ホームズの巻。ワトソンの遺稿の中に発表が伏せられていたものがあった!ホームズの名誉に関わる話なので、関係者の死後まで発表は見合わせて欲しいという、ワトソンの要望があったためだという。一体、原稿には何が書かれていたのか・・・。
このトリック、どっかで読んだ記憶があるのですが、全く思い出せない。初出は知らないし。寄生した宿主の姿を模写する虫(正確には、虫が体液を出して背中に顔を描き出す)を使ったトリックなんてそうそうないと思うんだけど。笑。首の断面から足が生えてたっていう描写、どっかで読んだんだよなあ。そうそう、肝心のオチはホームズとの対決で、滝つぼに落っこちて死んだと思われたモリアーティ教授が、ゾンビとして生き返っていたという・・・。実はホームズも・・・!
「忠臣蔵の密室」大石内蔵助の巻。日本人は何故か好きな忠臣蔵。私なんかは浅野内匠頭がもうちょっと我慢したら良かったのにね、って思っちゃうクチです。赤穂四十七士が吉良邸へ討ち入ったとき、すでに吉良上野介は何者かに殺されていた!
探偵役は、大石内蔵助の妻・りく。息子から、吉良を殺したのは実は自分達ではない旨の手紙を受け取ったりくは、真相の解明に乗り出す。そんなことかー、と思ってしまったのですが・・・。
吉良じいさん女中に手を出す→キレた女中の逆襲によりじいさん殺される→父ちゃんを殺された息子がキレる→女中袈裟切り→慌てる側近→そういや大石の一味が討ち入りの計画立ててるって!→じゃあ、大石の奴らに殺されたことにしちゃえばいーじゃん!
・・・意外に、本筋よりおもしろいかもしれない。
「名探偵ヒトラー」ヒトラーの巻。ヒトラーが実はシャーロキアンだった!というある意味この中で一番ありえない設定。私の中でヒトラーは独善的で残忍な印象なので、微笑むヒトラーとか最初は違和感がありましたが、最後のブラックさは彼のイメージ通りでした。
ヒトラーの執務室には、ロンギヌスの槍が飾られている。公に展示されているものは偽物でこの部屋にあるのが本物なのだ。しかし、ある日光る怪人の急襲を受け、ロンギヌスの槍は奪われてしまう。
もともと槍は偽物で、しかも穂先だけだったので引き出しにささっと隠したっていう・・・。ボルマンの背中に蛍光塗料で描かれたのが怪人だったっていう・・・。トリックはあれっ?て感じでした。それより、口封じのためにどんどん人が殺されていくのに恐怖を覚える。
「八雲が来た理由」小泉八雲の巻。松江で小泉八雲が遭遇した不思議な出来事3本立て!
ろくろ首と耳なし芳一にのっぺらぼうです。
ろくろ首の印象があまりなく、いつの時代もバカな男がいるもんだと思った。耳なし芳一は、八雲をはめるための寺側の自作自演で、芳一さん耳持ってかれなくて良かった~と安心。のっぺらぼうは・・・。お坊さんの頭って剃髪してても、肌色じゃなくてグレーに見えません?果たして顔に見えるのか、実験してみたいです。笑。カバンにつめられたミイラは怖いですね。お母さん思いの優しい(ちょっと壊れた?)八雲さんだったというオチできれいにまとまりました。
「mとd」アルセーヌ・ルパンの巻。これは何やねん!と。ルパンもホームズも変装得意ですけど、まさか同一人物とは・・・。えっと、モーリス・ルブランも同じ人だとしたら・・・、めっちゃ忙しい人じゃないですか!っていうか、変態じゃないですか!笑。
今回のルパンのターゲットは宝石。凶暴なミミズクの足にくくりつけられており、盗むのは不可能。・・・なはずなのですが、その後、少女の石像が見つかった場所へ行って、実は少女は昔ルパンと恋仲だったとわかり、そこからヒントを得たルパンは再び戻ってきて、ミミズクと対決!一瞬で石化する毒によってミミズクは石になりましたとさ。・・・正直、対決シーンは呆気にとられてました。一体なにが起こったのか・・・。笑。最後に同一人物ネタをぶち込まれたので、私的にこの本の中で一番迷走した話になりました。
ちなみに、“mとd”とはヒエログリフの対応文字で“m”は“フクロウ”を、“d”は“コブラ”を意味するそうです。なるほど。