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読書の記録です。

「不連続の世界」

恩田陸/幻冬舎

音楽ディレクター塚崎多聞のフランス人の妻ジャンヌが突然、里帰りし、そのまま音信不通になって、そろそろ1年になろうとしていた…。「月の裏側」の塚崎多聞、再登場。

恩田陸版「トラベルミステリー」。
「月の裏側」がどんな話か忘れてしまいまして・・・。塚崎多聞と聞いても、音楽ディレクターの人が出ていた、かもしれないくらいの記憶。ただ覚えているのは、とても後味の悪い話だったなあということくらい。
本作は短編で、旅行の相手は、友人やら仕事関係やらさまざま。私は頻繁に旅に出かけない人なので、そのフットワークの軽さがうらやましい。
旅行といえば、ごはん!みたいなノリで、おいしそうなものを食べながら、あーでもない、こーでもないと言ってるところが恩田さんっぽい作風。とめどない会話が上手だなー。
話のオチはついていることはついているんですが、今回は、うーん・・・と言う感じのものばかりでしたね・・・。うーん・・・。雰囲気としては、「悪魔を憐れむ歌」の山が鳴る感じ。「幻影キネマ」のラーメン。「砂丘ピクニック」のメルセデスおばさんの乳。「夜明けのガスパール」の男の友情。など、ピンポイントでいいなあと感じるところはあったのですが。
まあ、怪談のオチなんて、こんなもんですよね・・・。


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「新世界より」

貴志祐介/講談社

子供たちは、大人になるために「呪力」を手に入れなければならない。一見のどかに見える学校で、子供たちは徹底的に管理されていた。いつわりの共同体が隠しているものとは。何も知らず育った子供たちに、悪夢が襲いかかる。

ダ・ヴィンチのプラチナ本で紹介されていて、ぜひとも読みたいと思っていた。かなりの長編でしたが、読んで良かったです。
いつもさりげなくネタバレしている当ブログですが(笑)、今回はネタバレあるよー。と一応警告しておきます。
やはりこの本の魅力は、世界観がとても緻密に作り上げられているところだと思います。物語のキーポイントでもある、「進化」。これがすごいなあ、と。我々が生きているこの世界でも、種は進化を続けているのである。すべては、生き残るために・・・。
人類は、進化の過程で「呪力」という力を手にいれる。呪力を持つ者と、呪力を持たない者との争いの結果、呪力を持つ種が生き残った。そして、呪力を持つがゆえに、また平和を築くために、彼らは自らに枷をはめることになったのです。主人公・早季は、そんな時代に生まれ成長します。彼女は、全人学級(呪力の学校のようなところ)で、一緒のグループになった、覚、瞬、真理亜、守とともに、様々な困難に巻き込まれることになる・・・。
なに不自由ないようで、恐ろしく管理されている子供の社会。呪力の制御ができない子供は排除し、その子供の存在を記憶から抹消する。なぜ、そこまで非情にならなければならないのか?私は、それが疑問だった。そして、冒頭で早季がもらした「真理亜はこの世に生まれてこない方が良かったのかもしれない」という記述は何を意味しているのか?読めば読むほど「?」がわき出てくるのです。
すべては、悪鬼の存在によるもの。さらにつきつめていくと、人類は人類を呪力で攻撃することができない「攻撃抑制」と呪力で人類を殺した場合、自分も死んでしまう「愧死機構」によって、秩序を保ってきたが、実は大きな歪みを生じさせていたのである。まさに文字通り、呪力は呪われた力だったのである。
後半、仲間がどんどん消えていくところは、本当に切なかった。確かに、忘れなければ生きていけないのかもしれない、と思うこともあった。また、バケネズミとの死闘で多くの人が命を落とす。びっくりするぐらい殺していく。けれど、バケネズミの側からすれば、今までの境遇が理不尽なのであって、殺したりなかったくらいではないだろうか。
主人公の早季さんの気丈さもあっぱれだが、意外に覚くんの聡明さには感心した。私は、瞬が好きだったので、上で読むのやめようかと思ったくらい。ああ、くやしい・・・!奇狼丸にはしびれました。「生きている限りは戦い続けるのが、生き物としての本分なのです」。こういうのに弱いのよ~。
バケネズミの生い立ちは、ブラックだけれど、一番ありそうな話だなあ。見たくないものから、目を背け、考えないようにしているうちに、貶めて見下していたものは、独自の進化を遂げていたのだ。与えられるだけではなく、考え行動し、獲得していかなければ滅亡が待っている。


「私たちは、獣でも、おまえたちの奴隷でもない!」
「私たちは、人間だ!」


「ヴァン・ショーをあなたに」

近藤史恵/東京創元社

フレンチレストラン、ビストロ・パ・マルのスタッフは四人。シェフの三舟さんと志村さん、ソムリエの金子さん、そしてギャルソンの僕。気取らない料理で客の舌と心をつかむ変わり者のシェフは、客たちの持ち込む不可解な謎をあざやかに解く名探偵。絶品料理の数々と極上のミステリをどうぞ。

本当は、順番通り「タルト・タタンの夢」から読みたかったのですが・・・。図書館で先に見つけてしまったので、まあ、仕方ない。結果的に、内容は2作目からでも問題なかったです。
フレンチレストランでの謎解き。色々な問題を、料理をきっかけに解決していきます。私は、小粋なフレンチレストランには無縁の人でして・・・。あんまりコース料理とか食べないんで・・・。料理に関しては、すごくおいしそうだけど、味が実感できないというなんとも残念な結果に・・・。
長編「新世界より(上)」を読んだあとだったので、さらりと読める本で良かったなあ。謎解きは、正直、ちょっと物足りない。けれど、読み心地はとても良い。レストランの名前、パ・マルはフランス語で悪くないという意味で、これをフランス人が使う場合は、褒めている時なのだとか。フランス人の気質や文化、料理の豆知識が織り込まれていて、そこがとても良いと思った。「錆びないスキレット」のオチはブラックで少しびっくりした。しかも、真実を知らないほうが良かったんじゃ・・・。「ブーランジュリーのメロンパン」は一番いいなと思った作品。ほっこりします。ブラン・ア・ポア・ルージュ(白地に赤い水玉)、なんて粋な名前の付け方をするのかしら!「マドモワゼル・ブイヤベースにご用心」。シェフの男っぷりがあがったお話。動揺するシェフは、なかなかかわいい。
後半3作品は、語り手がぼくから第三者に移行しています。叙述トリックのような意趣かなあとも取れるのですが、さすがに3作全部だと食傷気味かも。修行時代のシェフも良いけれど、やっぱりあと1作くらいはパ・マルの話が良かったなあ~。


「七人の武器屋 ノース・エンデ・クライシス!」

大楽絢太/富士見書房

新入生マーガス、九死に一生の前人未踏領域へ!
超一流レンジャースクールで修行に打ち込んでいたはずのマーガスは、いかにして聖剣と出会い、指名手配犯になったのか!?

短編3本と、中編1本。短編は、確かドラゴンマガジン本誌に掲載されたものだったような・・・。看板息子・ケンジの話は、なかなかインパクトがあったので覚えていました。短編は、エクスのメンバーのノリの良さが前面に出ていて、おもしろかったです。
中編もそれはそれで良かったのですが、なんか、短編とビミョーにテンションが違うというか。スイッチの切り替えが上手くいかなくて、これは別で読みたかったかも・・・と思いました。いつも通り、語り手はマーガスで、足りなかったマーガス成分が補給できたので満足です。やはりこのシリーズには、彼が必要ですよ!
アスベルのレンジャースクールに入学したマーガスは、クラスメイトの2人と共に選抜試験をくぐりぬけ、ノース・エンデ探索キャラバンに加わることになる。しかし、3人はノース・エンデで、探索隊とはぐれてしまう。彼らはノース・エンデの意思、ウラヌスと出会い、彼女を天空郷へ送り届ける約束を交わす。そこに立ちふさがるオズの陰謀!拘束された3人は、ウラヌスとの約束を果たすことができるのか・・・!という感じで、前の話のマーガスサイド。色々と?だったところが補完されてスッキリしました。最大の謎は、なぜに指名手配!?でしたから~。やはり、マーガスは彼なりの正義を通してああいうことになったんだな、と納得できました。
最後のサエちゃんの一喝は、ホント、よくぞ言ったー!って感じでした。敵を案内しちゃうし、何やってんだよ、と前から思っていたんだけど、やっと物申してくれて嬉しいよ・・・。
あと2冊で終わりと思うと寂しいなあ・・・。


「貴様・・・・・・名前はマーカムだったな?」

「いえマーガスです」

リーダーは、やはりどこまでいってもリーダーだった・・・。。


「言い寄る」

田辺聖子/講談社

愛してないのに気があう剛。初めての悦楽を教える大人の男、水野。恋、仕事。欲しいものは手にいれた、31歳の乃里子。でも、唯一心から愛した五郎にだけは、どうしても言い寄れない。

3部作の第1作目。
田辺さんは、テレビでちょくちょく見かけていて、いつか本を読もうと思っていた作家さんなのです。カバンとスヌーピーのぬいぐるみに囲まれた姿は、なんともかわいらしい。しかし、なんとも外見のインパクトが強く(すいません)、「ジョゼと虎と魚たち」(映画だけ見た)を書いた人とは到底思えなかったのを覚えている(重ね重ねすいません)。
それは置いておいて。なんてかわいい表紙なのでしょう!と、読むのを決めた本書。前から、独身・結婚・離婚を描いているという話は知っていた。ちょっと昔の用語で言うなら、負け犬の乃里子。同じ境遇とは言えないのだけれど、好きな人には迫れない、という心は良くわかる。というか、そもそも誰にも迫れないんだけれど。笑。あれ、ちょっと違う?まあ、五郎ちゃんの行動に一喜一憂している乃里子は、いじらしく応援してあげたくなってしまう。
その一方で、私自身が浮気できない性格のせいか、乃里子の奔放な男性関係にはびっくりした。「好きな人いるのに!?」みたいな。しかも、それなりに楽しんで、魅力を感じていたりもする。嫉妬もする。恋愛の駆け引きをゲームみたいに楽しんでいるところは、割とうらやましかったり・・・。笑。そんな乃里子も、五郎ちゃんをどうしてもモノにすることができない。なぜか?答えは簡単だった。彼にとって、乃里子は親しい女友達で、それ以上になることなどあり得なかったのです。ここまで、乃里子の五郎に対する執着を読んできただけに、このパンチ力はすごかった!
自分の好きな男が、自分の親友とできてしまう・・・。私、自分がこれをされたら、2人とも切るしかないだろうな、と思いました。だって、もう、美々さん彼女の気持ち知ってたでしょ?って。最初は、あのアホ女め・・・!とか、色々、美々のことを罵っていた私ですが、最後の方には、男女の関係というものは、タイミングが命で、それが合ったか合わなかったかなのだろうな、としんみり思った。
・・・剛と水野に関して、ノータッチだった!どっちも好みじゃないから、ま、いっか(ひどい)。

あまりに衝撃的で、近くにいた母親をつかまえましたよ、ええ。
私「こんな話を読んだんだけど~!」
母「良くある話ね」

ばっさり。