「ほんとうの花を見せにきた」
少年「梗」を死の淵から救ったのは、竹から生まれた吸血鬼バンブーだった。心優しきバンブーと、彼に憧れる梗との楽しくも奇妙な共同生活が始まる。だが、バンブーにとって、人間との交流は何よりの大罪であった。
以前は桜庭さんの作品はおもしろい、という前提で読んでいたのだけど、「私の男」がかなり肌に合わず、そこからは、桜庭さんの本の読み始めはおそるおそるページをめくっていた。やはり好きな作家さんの作品を否定する気持ちになるのは辛いし、読書を苦痛に感じるのも嫌だ。
今回も吸血鬼の話、という前情報のみで、合わないタイプの本かもという予感があったのだけど、いい意味で裏切られてとても嬉しかった。桜庭さんの文体が世界観にマッチしていて、さらに、心にしみる物語でした。
「ちいさな焦げた顔」マフィアに家族を惨殺された梗は、竹の吸血鬼・バンブーに助けられる。彼らの一族の掟では、人間との関わりを持ってはいけないのだが、彼は危険を避けるため女の子として2人に大切に育てられる。バンブーは人とは異なる生態で、人の子供を育てることなんてできないのではないかと思った。だけど、彼を大事に思いやり教育も受けさせ、立派に育てあげた。わけあって、梗は1人立ちしていくけれど、彼が日常の忙しさの中でバンブーのことを忘れてしまっても、バンブーは彼をずっと覚えていた。ずっと大事に思っていた。恐ろしい吸血鬼で気まぐれなバンブーの一途な愛情に、ほろっとなった。
「ほんとうの花を見せにきた」前の中編に登場した、掟破りまくりのはぐれバンブーの女の子の話。彼女は人間の女の子と組んで、人間を襲っては血を頂戴していた。(生きた人間を襲うのはご法度。)しかし、他の人間との交流のなかで、人間の女の子は地に足をつけた生活がしたいと思うようになった。以前、法を侵した罰で鼻をそがれたバンブーは、流れて隠れて生きていく術しか知らない。だけど、女の子は新しい世界を知ってしまった。人間は変わってゆくもの。忘れてゆくもの。バンブーがずっと覚えていた約束も、女の子は長い年月を過ごすうちに忘れてしまっていた。バンブーが最後に咲かす真っ白い花。ほんとうの花を見せにきたのに・・・。残酷。
「あなたが未来の国に行く」バンブー一族が日本に流れてくるまでの中国での生活を追われる話。昔は人間と共存していたバンブーだが、時の流れとともに都会からも人が流れてきて、バンブーへの風当たりが強まっていた。王国を去る準備を進めるなか、第三王女は、川から海に出て新天地を目指す計画があることを知る。バンブーは本当に悪いことをしていない。人を傷つけることも、人の生活を荒らすことも。だけど人間は得体の知れないもの、自分達に理解できないものを有害と決め付けて排除していく。人間と同じように、吸血鬼にも色々いるのになあ。お姉ちゃんが弟を助けてあげるのが好きです。お姉ちゃん優しい。
竹と吸血鬼というミスマッチさが、最後にはとけてなくなっていました。
「忘れないで。」
「運命は自分で変えられる。」
「きっとできる。」
「きっとできる。」
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