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読書の記録です。

「廃墟建築士」

三崎亜記/集英社

ありえないことなど、ありえない。不思議なことも不思議じゃなくなる、この日常世界へようこそ。七階を撤去する。廃墟を新築する。図書館に野性がある。蔵に意識がある。ちょっと不思議な建物をめぐる奇妙な事件たち。

表紙が気に入りました。レタリングっていいなあ。
一筋縄ではいかない作品だと思って読みましたが、予想の斜め上をいく世界観でした。それでは、各話の感想を。
「七階闘争」七階にそんな歴史が!正直、私は躊躇なく十階へ引越しできる女なので、七階護持闘争に参加する面々の熱い思いを共有することはできなかったー。七階と運命を共にした並川さんは、“となり町戦争”を思い起こさせる。現実味のない、死。
「廃墟建築士」とても好きな世界観。私も廃墟が少し好きになった、かもしれない。廃墟を造るという感覚がまずおもしろい。本末転倒な感じ。例えるならば、ダメージジーンズを作るようなもので、人はまっさらなものよりも、使い古されたものに愛着を感じるようにできているのかしら?
「図書館」本が空を舞う。図書館好きにはたまらない話。ヨダレが出てきそうですよ。じゅるり。図書館と言えば、「静」のイメージだったんですが、実は野生を秘めているなんて、危険なオトコみたいでかっこええなあ。“動物園”の彼女とは、思わぬ再会で嬉しかったです。相変わらず、男運が無いっすねえ。笑。
「蔵守」蔵と蔵守の心が最初はすれ違っていたのが、最後に「ありがとう」と思いを通じあったところが熱かった!蔵の中に入っているものを中和するために、また新たな蔵を「略奪」しなければならない。人類はゆっくりと破滅への道を歩んでいる・・・。中身が何かわからなくても、守るという行為自体に満足を覚える。守るということは、非常に動物的なのだなあと思った。
世界観の特異性は、三崎作品の大きな魅力で、今回もその力が発揮されていたわけですが、それ以上に、登場人物たちがひたむきに注ぐ愛情、もしくは情熱に心を動かされました。特に、自分の仕事に対するプライドは頑固親父の域で、ラーメンは汁まで飲め!という心意気を感じたのです・・・!いやー、おもしろかった。


「廃墟を造るということは、我々すべてが逃れることのできない生命の有限性と、受け継がれゆく時間の永続性とを、俯瞰した位置から眺める視点を持つことに似ている。いつかは崩れ去るという万物に定められたる道程を宿命とせず、むしろ使命とすることのできる者だけが、このはかなくも偉大なる建築を成し遂げられよう」


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