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読書の記録です。

「桜ほうさら」

宮部みゆき/PHP研究所

父の汚名をそそぎたい。そんな思いを胸に秘めた笙之介は・・・。人生の切なさ、ほろ苦さ、人々の温かさが心に沁みる物語。

いつも通りの本の分厚さ(笑)。でも、おもしろかったです。
舞台は江戸。父親の不正疑惑によりお家断絶となった古橋家の次男・笙之介。武芸より文事が性にあっている笙之介は、先生の身の回りの世話をして過ごしていたが、お家再興を目論む母やその他の思惑により、江戸へ出てきて写本で生計を立てながら事件の真相を探ることになる。江戸居留守居・東谷(本名:坂崎さん)によれば、笙之介の父は濡れ衣を着せられたようだ。もとから父の無罪を信じていた笙之介は、賄賂の証拠となった文書を偽造した人物を探そうとするが・・・。その人物は、真似られた本人が驚くほど正確に字を似せて書くことができるという。同じ長屋に住む人々や、貸し本屋の治兵衛の助けを借りて、真相に迫る笙之介。事件の黒幕は誰なのか?
父を陥れた犯人を追う内に、もっと大きな企みに気付くというミステリー仕立てでありながら、人情あり、恋愛ありと盛りだくさんな内容です。どれもとってつけた感じではなく、うまく混ざり合って一つの物語になっているというか・・・。どれがかけても物語として成立しない、絶妙なバランスで構成されています。
合い間にはさまれる、お吉の話(自分が義理の娘だと知り、狂言誘拐を企て本当の両親のもとに逃げた・・・が、実は悪い男がバックについており、お吉は彼の女になっていたのだが、彼にとって彼女はただの金づるだった。)なんか、胸が悪くなったし、うまくまとまってもモヤっとしたものは残りました。
笙之介と兄・勝之介の関係についても、勝之介の本性が暴かれたあと、これにて一件落着かと思いきや、最後に勝之介の執念が読後感の重みとなりました。そこまでしないといけないのか、と半分狂っているかのような勝之介を理解することができなかった。跡取り・遺産相続・・・と家族だからこそ泥沼問題ってありますけど、理屈抜きの味方になってくれるのは家族だけですから。できるだけ家族とは仲良くしたいですねー。
笙之介の恋のお相手の和香さんは、要所要所でかわいくって、とても好感が持てました。家族関係がこじれまくった笙之介だけど、和香さんと仲のよい家族の輪を作っていって欲しいなと思いました。読後感は重いですけど、起こし絵(昔の立体模型みたいなもの?)とか、大食い競争(武部先生、残念だった!)など、町の人々の暮らしが見える楽しいエピソードも盛り込まれています。
それにしても、最後の最後であの家系図が出てくるとは・・・。宮部さんお見事!


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