「海賊女王」
16世紀。スコットランドの高地に牧童として生まれたアラン・ジョスリンは、17歳で戦士集団に加わり、アイルランドに渡る。そこで出会ったのは、オマリーの氏族の猛々しくも魅力的な男たちと、赤い縮れ毛を短く切った、10歳の少女グローニャ。闘いと航海に明け暮れる、波瀾の日々の幕開けだった。
16世紀イギリスの下調べをしておくべきだった・・・!激しく後悔。
なんせ、私はイギリスが色々な民族が集まっていて、イングランド、アイルランド、スコットランドで血みどろの戦争を繰り広げてきたことなんて、知りませんでした。ただの地方の名前かと・・・。さらに、エリザベス女王がどのような治世を行ったかも知らなかったので、最初は結構戸惑いました。
一言で本のあらすじを説明するならば、女海賊・グローニャとその従者アランの生涯を描いた物語です。しかし、これがすごいんだ!久しぶりに本を読んでいて、生命の躍動を感じました。登場人物が、こんなにも生き生きと動き回り、満ち溢れる生命力で読者を圧倒する本は少ないと思います。
グローニャが10歳、アランが17歳の時に2人は出会い、アランはオマリーの族長の娘グローニャの従者になります。この関係は一心同体で、男女の関係や血族の関係を超えています。特にアランは、子供が生まれたあとも、グローニャを優先するほど。妻のネルは2人の関係を容認していますが、後年の場面ではグローニャへの強い嫉妬が伺えます。まあ、嫁さんからすれば、旦那を道連れにされたようなもんだからなあ。この草むしりのシーンが、実は一番好きだったりします。
グローニャ自身は、2度の結婚をします。しかし、子供の父親は3人とも違うっていう・・・。しかも、長男と次男は自分より先に死んじゃうんだ・・・。1人目の旦那は自分が殺しちゃうし・・・。何て複雑な家庭環境!グローニャは、1回目の結婚の時に海軍(要するに海賊)を組織し、夫の死後、実家に海軍を率いて戻ります。父ドゥダラの死後、オマリーの族長となり、海軍を率いて海賊活動をしながらイングランド軍に抵抗しつつ、他部族からの侵攻を防ぐ・・・。女傑だ!かっこいい!
一方、イングランドを治めるエリザベス女王も、海賊業による収入を得ていたので、こちらも海賊女王。同じ年に生まれ、同じ年に没した2人の女王を軸に、イギリスの歴史が語られるのです。立場は違うけれど、人の上にたつものは、孤独との闘いや重責、はりめぐらされる陰謀・・・。息をつくひまもありません。
年月はたち、グローニャ60歳の時、末息子のティボットがイングランドに捕らえられます。グローニャは、息子の命乞いのため、イングランドのエリザベス女王に会いにいき、会談を持ちます。これは史実らしいですね!一国の王がアイルランドの部族と会談って・・・すごい!2人の間にはやはり通じ合うものがあるのかな。
60歳のグローニャとエリザベス女王、67歳のアラン。それぞれの老い方をしています。この年を経ていく者のあきらめとか達観とか、まだやれるっていう意気込みとか・・・。そういうのが絶妙な描きかただなあと思います。これは皆川さんだから表現できたんですよね。
このあたりで、殺人事件が発生!ちなみにこの本「このミス」に入ってまして・・・。この事件がミステリーか!と思ったのですが、事件自体よりもそこから発覚した、エリザベス女王の過去と、密偵・オーランド、アランの妻ネルの3人を結ぶ秘密こそが真のミステリーだな!と感心したのでした。このあたりの話も歴史ミステリーみたいでおもしろいですよ。
抵抗空しく、最後はアイルランドが降伏してしまいます。戦いの中で、グローニャもアランも命を落とします。
血なまぐさいシーンが多いですが、海戦も陸戦も臨場感たっぷりで、ノリノリで読めます。何より、登場人物がみんな魅力的なんです!全員は紹介できないけど・・・(最初の登場人物のページを見てください。笑。)。私はオシーンが大好きです!オシーンが笑うときは、「顔中を口にして」笑うんです。きっとステキな笑顔だよー。とてもおもしろいだけではない魅力が詰まった本で、オススメです。きっと、万人受けは難しいけど・・・。
「あの女なら、理解する。」
「女王の孤独を」
以下、ウィキペディアからの引用。
まずは、イギリスについて。
“イギリスの歴史は、イングランド・ウェールズ・スコットランド・アイルランドから成る連合王国の歴史である。イングランドはまずウェールズを併合し、アイルランドを植民地化し、スコットランドと連合した。さらにアイルランドを併合するも、その大部分が独立して現在の形になった。”
エリザベス女王の歴史について知っておくと良いこと。
“ヘンリー8世の王女として生まれたが、母のアン・ブーリンが処刑されたため、彼女は庶子とされた。1558年にメアリー1世が死去すると王位を継承した。エリザベスは、ウィリアム・セシルをはじめとする有能な顧問団を得て統治を開始する。統治においてエリザベスは穏健であった。外交問題についてエリザベスは慎重であり、成果の乏しい戦争にも消極的であったものの、1588年のスペインの無敵艦隊に対する勝利と彼女の名は永遠に結びつけられ、英国史における最も偉大な勝利者として知られることになった。エリザベスの治世は、ウィリアム・シェイクスピアやクリストファー・マーロウといった劇作家によるイギリス・ルネサンス演劇や、フランシス・ドレークなど優れた航海士の冒険者たちが活躍したエリザベス時代として知られる。”あと、トマス・シーモア事件も物語の後半、大きく関わってきます。
物語のクライマックスに関すること。
“1594年から1603年にかけて、エリザベスはティロンの乱(またはアイルランド九年戦争 )の名で知られるアイルランドにおける最も厳しい試練に直面した。指導者ティロン伯ヒュー・オニールはスペインの援助を受けていた。1599年春、エリザベスは反乱の鎮圧のためにエセックス伯ロバート・デヴァルーを派遣した。だが、エセックス伯はほとんど戦果を挙げることもなく、そして許可を受けずに帰国してしまい、彼女を苛立たせた。1603年、オニールはエリザベスの死の数日後に降伏した。”
主人公、グラニュエル・オマリーについて
海賊物語というサイト内のグレイス・オマリーというページで紹介されています。本を読んだあとでも、まとめて読むと整理されてわかりやすいと思います。
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