忍者ブログ
読書の記録です。

「独白するユニバーサル横メルカトル」

平山夢明/光文社

メルカトル図法によって書かれた地図による独り語りという奇抜な手法を用い、幻想ホラー小説として高い完成度を誇る表題作をはじめ、生理的嫌悪感を感じさせたら随一の著者が、奇想を駆使して読者に襲いかかる。

どこかでも触れたのですが、私はホラーが苦手です。
なぜかというと、読後に残るものが「気持ち悪い」ものしか無いからです。「だから何?」と言いたくなる結末がほとんどでした。
ところが、この作品は読後に鳥肌が立ちました。余韻を噛み締めていたい。ホラーで感動したのは初めてです。という事実にも感動しました。
感動と言っても、何か教訓めいた事が書いてあるわけでも、涙が出るような良い話なんて一つもありません。人の体が物体のように切り刻まれ、皮が剥がされ、ウジ虫がたかるような話です。時々思い出したように性器の話が織り込まれ、通勤電車の中で読むのは大変危険な作りになっています。生理的嫌悪感という言葉がぴったり。人によっては、全く受け入れられないでしょう。
でも、眉をひそめながらページをめくっていくと、時々不思議と穏やかな気分を感じている。それはオメガが「お母さん」と呟くシーンであったり、殺人鬼が少女の手を握り締めるシーンだったりします。そして、その瞬間をうらやましくも感じる自分がいるのです。
一番のお気に入りは、表題作「独白するユニバーサル横メルカトル」。切り口がおもしろい。そして何より地図の執事口調がツボでした。か、かわいい!次点は「Ωの聖餐」「無垢の祈り」。「オペラントの肖像」「卵男」は、どちらかというとSF的な要素の方が強いかもしれません。一番残酷なのは、一番最後。
吐き気を催すような精緻な描写。物語の中に塗り込められた絶望と、そこに浮かぶ一欠片の希望。倒錯した世界を、ぜひご堪能頂きたい。


PR