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読書の記録です。

「致死量未満の殺人」

三沢陽一/早川書房

雪に閉ざされた山荘で、女子大生・弥生が毒殺された。容疑者は一緒に宿泊していた同じ大学のゼミ仲間4人ー龍太、花帆、真佐人、圭。外の世界から切り離された密室状況で、同じ食事、同じ飲み物を分け合っていたはずなのに、犯人はどうやって弥生だけに毒を飲ませることができたのか。

第3回アガサ・クリスティ賞受賞作。
閉ざされた吹雪の山荘。毒殺。疑心暗鬼の容疑者たち・・・。とベタベタなミステリの設定で、楽しみにしていたのですが・・・。結構残念な仕上がりでした。
まず、事件は15年前に起こったものであるということ。参加メンバーの1人であった花帆が夫と経営する喫茶店に、同じく参加メンバーだった龍太が来て「実は俺が犯人なんだ・・・」という告白から、回想が始まります。こんなこと言ったら野暮だけど、15年前のことなんかそんなに詳細に覚えてないし(少なくともソラで状況をスラスラ言えるとは思えない。)、何のために15年前という設定にしたのか。毒物の入手経路のため?
あとは、序盤は気にならなかった文体。後半、物語が盛り上がるにつれて、筆が乗ったのかなんなのか、やたらと大仰な言葉使いになってきて、興ざめでした。なんで、ここに手を入れなかったのかなあ。
トリックが、まあまあだっただけに残念です。メンバー全員が被害者に殺意を持っていて、全員がなんらかの毒(しかも同じ種類の)をそれぞれの方法で仕掛けていた・・・というオチ。しかも不発のものもあったりして。笑。砂糖はどうかなあ、混ざらないかなあとは思いますが・・・。そもそも角砂糖だったらどうするつもりだったんだろ?ということで、犯人は「実は俺が犯人なんだ・・・」と思っていた龍太だけじゃなかったっていう、龍太にとってはかわいそすぎる真相。そこから、さらにもうひとひねり入ってきます。これが蛇足でした。実は、この4人に殺意を巧みに(?)誘導し、毒殺するよう仕掛けた黒幕がいたのです!学生とはいえ、大人がこんなことで誘導されるのかなあとも思うし、一番弥生に消えてもらわないと困るのもこの人だと思うので、もっと確実に殺せる方法を選びそうなモンですけどねえ。
この真相を看破したのが、学生時代からつきあっている弥生のダンナ。これがまた、意味もなく名探偵風な演出で・・・。おもろいので、ちょっと抜粋。
「いつも細い黒髪に霞んでいる玲瓏な目が私をじっと捉えていた。普段の穏やかさは微塵もなく、今は標本針にも似た、私の自由を奪う鋭利な凶器にしか見えなかった。私は彼の思うがままの姿を取る一匹の蝶に過ぎない。」
まあ、このダンナが本気を出して色々推理を披露していきます。・・・ってアンタ、部外者じゃなかったんかーいってツッコミたくなります。いやいや、15年前に本気出そうよ!
もっとツッコむなら、この被害者の弥生っていう女性が、もんのすごく性悪に描かれているのですが、彼らがどうしてそんな最悪な女と関係を続けているのか、よくわかりませんでした。中・高は難しいけど、大学時代の友達関係って結構自由に切れない?こんな人なら無視しちゃえばいいんじゃない?弥生も弥生で、授業のノート欲しさに好きでもない男と関係を持つのも意味不明だし・・・。
あとは、吹雪の描写や容疑者たちをカノンの演奏者にたとえるのもしつこい。著者が気に入ってるモチーフなんだろうけど、げんなりします。もっと毒殺のトリックを際立たせた方が絶対良かったと思う。
「彼らの弥生への殺意は氷柱のように冷たく尖り、それらは他人を陥穽にかけようとする邪悪な思惑によって複雑に絡み合い、煩雑で醜悪な氷塊へと変貌を遂げた。」
・・・こてこてに装飾した表現だけど、結局「4人の殺意がものすごーく高まって、現場で集約されました」ってことでしょう。この文章がいける人なら、満足できるのでは。


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