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読書の記録です。

「海」

小川洋子/新潮社

世界の美しさ、かけがえのなさを不器用ながらも丁寧に伝えてくれる老人や少年、少女。『博士の愛した数式』に連なる、著者の魅力が蒸留されて、結晶した短編集。

ちょうどパソコンが故障している間に、「博士の愛した数式」を読んでいた。私にとっては2冊目の小川作品。不思議ワールドでした。
ある風景の一場面を切り取ったかのような短編で、例えばあらすじが一言で終わるような話もありました。結局、これは何・・・?って思ったり。うーん、でも、全然不快感はないのですよ。ミステリー系が続いていたので、ちょうどいい気分転換になったのではないかと思います。
私はですね、ダントツで「風薫るウィーンの旅六日間」が大好きです!たぶん、私が彼女の立場だったら同じように、おばあちゃんをほっとけなくて、ついて行くと思うから。それで、最後にそのオチかい!って。笑。あとは、「バタフライ和文タイプ事務所」が印象的でした。エロティックなんです。でも、いやらしい話ではないんです。あくまで雰囲気を匂わせるだけ。このさじ加減が、上品で素敵だと思います。こんな感じのエロなら「薬指の標本」も読んでみたいかも・・・。
振り返ってみると、どの作品も優しくて暖かい雰囲気が流れているのだなあ。「博士の~」とは文体が違うから、最初は全然違う人が書いたみたいだって感じたけれど、このほっこり感はやはり同じ人が書いたんだなあと感じさせられた。小川さんは、言葉をとても大事にしていることが伝わってくる。だから、どの作品でも世界の息遣いを感じることができるのだと思う。ステキ!


「とにかく、遠い場所に、たとえ一瞬でも自分のことを思い出してくれる人がいるなんて、うれしいじゃありませんか。そう思えば、眠れない夜も安心です。その遠い場所を思い描けば、きっと安らかに眠りにつけます。」


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