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読書の記録です。

「小川洋子の偏愛短篇箱」

小川洋子・編/河出書房新社

「この箱を開くことは、片手に顕微鏡、片手に望遠鏡を携え、短篇という王国を旅するのに等しい」小川洋子が「奇」「幻」「凄」「彗」のこだわりで選んだ短篇作品集。

人に好きなものを紹介することは、とても勇気がいることだと思う。
その昔、好きな音楽と好きな本をそれぞれ別の友人に紹介したことがあったのだが、酷評された苦い思い出がある。読書が趣味と言うと、リップサービスか話題作りか、「おすすめの本ある?」と大体聞かれるのですが、その経験のせいか、「最近、おもしろい本が無くて・・・」と大嘘をついてその場を逃れるようになりました。「件」を薦めた男性に「僕にはよく分からなかったよ」と言われた小川さんの気持ち、良くわかります!お気に入りを否定されるということは、私という人間が否定されることでもあるのだなあ。
さて、小川さんの思い入れのある短篇を集めた本。読んだことのない作家さんが多数で、新鮮でした。本編も良かったですが、小川さんの解説もまたステキで、惚れ直してしまいました。今年は小川イヤーにしようかしら!
印象に残ったのは、以下の作品たち。
「押絵と旅する男(江戸川乱歩)」押絵の中に入ってしまった男という、奇想天外な発想。男の作り話だと言われた方がまだ納得できる。
「兎(金井美恵子)」血と臓物の匂いに満ちた作品。その匂いを嗅いだなら、どの少女もウサギの皮をかぶらずにはいられないに違いない。
「みのむし(三浦哲郎)」暗くて寒い。悲しいというよりも寂しい。ここまで絶望的な話を久しぶりに読んだ。
「力道山の弟(宮本輝)」男の子の素直さが本当にかわいらしい。対比して、大人たちの諦観が浮き彫りになっている。
「雪の降るまで(田辺聖子)」乃里子を彷彿とさせるような奔放な女性。私は、田辺さんの書く女性が、責任の上に成り立つ自由を実現させているところがうらやましいのだと思う。これを、本当の自立と呼ぶのではないだろうか。
「お供え(吉田和子)」斬新な切り口。途中までわけがわからなかったのが、だんだんと意味がつかめてくる。不気味なものが、恐怖へと変わる過程。
「花ある写真(川端康成)」名言だ!看護婦さんの名言にやられました!
現代の小説よりも、一昔前の小説の方が、なんだか変な物語で斬新だなあと感じました。全く掴みどころがなかったのが「過酸化マンガン水の夢(谷崎潤一郎)」。これは最初から最後まで「???」でした。笑。


「くれる方も、貰う方も、医者から申しますれば、ただの卵巣で――――――どの女のものでもございませんのでしょう?」


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