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読書の記録です。

「最果てアーケード」

小川洋子/講談社

ここは、世界でいちばん小さなアーケード。愛するものを失った人々が、想い出を買いにくる。小川洋子が贈る、切なくも美しい記憶のかけらの物語。

ある街の、小さなアーケード。主人公の女性は、そのアーケードの大家兼配達人。アーケードのお店は、どれもつつましやかに、ひっそりと佇んでいる。そこで起こった、少し哀しい物語。
いつも熱弁してしまうのですが(笑)、小川さんの物語は、冷静な視点で物事をとらえ、ひんやりとした文章で鋭く描写されています。でも、読み終えたあとは、温かい気持ちになっているのです。それは、物語に登場する登場人物たちの、不器用だけど誠実な姿勢や言葉によるところが大きいのかな、と思います。
今回は、商店街が舞台で色々なお店が登場します。どのお店も、他とは少し違う品揃え。古いレース専門、動物の義眼、勲章専門店、1種類だけのドーナツ屋さん、ドアノブ専門店、紙屋さんでは誰かが誰かにあてた絵葉書を売っている。遺髪でレースを編む職人さんもいた。
印象に残ったのは、「輪っか屋さん」の結婚詐欺師さん。だまされなくて良かったなあーと思ってから、実は輪っか屋さんは騙されていた方が幸せだったのかもしれない・・・と思った。「百科事典少女」では、アーケードの図書室(これはいい!)で、百科事典を読んでいた少女が印象的だった。百科事典がものすごく不思議な読み物に思えた。「紙店シスター」では、主人公の母親が入所中の療養所で働く雑用係さんのお話が悲しかった。お姉さんからの手紙を自作しているなんて・・・。しかも、主人公、約束忘れちゃうなんて・・・。「フォークダンス発表会」では、主人公の配達人としてのこだわりに驚かされた。というか、そのこだわりは異常ささえ感じた。
ただの短編集かと思っていたけど、1冊を通して、娘が父親との別離を受け入れる過程が描かれていたように感じました。
「私のことは、どうぞおかまいなく。」そうやってひっそりと生きていくのが理想だけど、現代社会ではそんな生き方は難しい。人はさまざまな局面で競ったり、他人を蹴落としたり、時には陥れることもある。その逆も然り。だからこそ、小川ワールドの住人たちにこんなにも憧れるのかなあと思います。
酒井駒子さんの絵が、小説の雰囲気にぴったり。


「さようなら」

「さようなら、お父さん」


 
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