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読書の記録です。

「制服捜査」

佐々木譲/新潮社

札幌の刑事だった川久保篤は、道警不祥事を受けた大異動により、志茂別駐在所に単身赴任してきた。十勝平野に所在する農村。ここでは重大犯罪など起きない、はずだった。だが、町の荒廃を宿す幾つかの事案に関わり、それが偽りであることを実感する。やがて、川久保は、十三年前、夏祭の夜に起きた少女失踪事件に、足を踏み入れてゆく・・・。

私はミステリーでは圧倒的に探偵ものを好んでいると思います。警察小説が嫌いってわけではなく、ジャンルとして選んだことってあんまりないかも・・・。このたび目先を変えてみようと思って、歴代の「このミス」をパラパラめくって選んでみました。(ちなみに、このひとつ前の「ジョニー・ザ・ラビット」も「このミス」チョイスです。)
さて、舞台は北海道の志茂別。・・・は知らないんですけども、田舎町のようです。主人公は駐在所に勤務する川久保。川久保は、札幌の刑事で盗犯係などでキャリアを積んできた40代。北海道警察の大規模な人事異動により、畑違いの駐在所勤務となります。閉鎖的な田舎町で起こった割り切れない犯罪。読後にざらりとしたものが残ります。
「逸脱」いじめの延長で行われた暴行で、ひとりの高校生男子が命を落とす。しかし、オートバイの事故に偽装されていたため、交通課は事故として処理する。川久保は釈然としないものを感じながら事件は終わり、その半年後に起きた事故で幕を閉じる。失念していましたが、駐在さんは捜査権が無いんですね。元刑事としてのカンが、これはただの事故じゃないぞと言ってるけど、捜査に口を挟むことはできない。遠まわしに匂わせても、相手にされない。歯がゆい思いをしましたが、最後にスッキリしたかというと、全然スッキリしなかった・・・。むしろ後味悪い・・・。
「遺恨」飼い犬が猟銃で殺された!という連絡が入る。猟友会のメンバーなどに事情を聞き、飼い主の大西は篠崎という牧場主ともめていたことが判明する。篠崎は、中国人の労働者を劣悪な労働条件で雇っていたのだ。その最中、篠崎は刺殺され中国人労働者が逃亡する事件が起きる。わんちゃんがかわいそうで、かわいそうで・・・。どうも動物が死ぬ話に弱いです。外国人労働者の問題は、今は積極的に受け入れようという方向性ですが、安く利用できて手っ取り早い道具として見てないかな?と心配です。結果的に中国人労働者に罪を被せようとした者の犯行だったわけですが、ラストの川久保さんがニヒルすぎる。笑。
「割れガラス」ログハウス建築の助っ人として町に来た大城。前科があることで町の有力者からは煙たがられるが、川久保は好感を抱いていた。しかし最近多発している車上荒らしは、彼の仕業ではないかと疑われ、町から追い出されてしまう。途中まですごくいい方向で話が進んでいたために、最後はがっかりしました・・・。少年のいい兄貴分になってあげて欲しいな!それにしても、この町にはロクな大人がいやしねえ!特におばはん!川久保のちょっとチクッと刺す程度の仕返しが小気味いい。
「感知器」町で多発する空家の不審火。捜査する警察とは別に、独自に見回りを行おうとする町民たち。2者の板ばさみにあう川久保。警察はホームレスを逮捕するが、彼は1件だけ犯行を否認する。ミステリーとして一番いいかなあと思ったのがこれ。あの人、怪しいですよね。笑。実はこの人が犯人なのかなと思いましたが、そうか1件だけかあ。川久保さん、かっこつけすぎやー。
「仮装祭」13年前の夏祭りで起こった少女失踪事件。しばらく自粛モードだった夏祭りだが、今年は盛大に行われる。13年前の関係者が揃い、再び少女の姿が消える・・・。ひねりも何もない事件でしたが、最後は見つかってよかったなーと思うと同時に、13年前の少女がもう戻らないという事実に悲しくなった。変態の起こす事件は胸がムカムカします。子供を守るべき大人が、あろうことか子供を性の対象とするなんて、ケダモノ以下の行為です。
全編に描かれるのは、閉鎖された町の息苦しさと隠蔽された性犯罪の数々。性犯罪の被害者はほとんどが女性や子供です。恐怖と傷つけられた痛みを負いながら、町を去らねばならなかった彼女たちの心を防犯協会のオヤジたちにわからせてやりたい!教育委員長のあいつにもだ!
長期間同じ地域に勤務する警官がいない、ということは、その地域に精通するベテランがいないという弊害を生み出した。警察は頼りにならない(実際、私も警察にはイヤな思いをさせられたことがあるので現実の警察は嫌いです。)と言われ、犯罪は町民の間でもみ消されてしまう。しかし、長年の勤務は癒着も生み出す。この町は、川久保さんによって少し浄化されたのではないでしょうか。
川久保さん、がんばれ!


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