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読書の記録です。

「光圀伝」

冲方丁/角川書店

父・頼房に想像を絶する「試練」を与えられた幼少期。血気盛んな“傾奇者”として暴れ回る中で、宮本武蔵と邂逅する青年期。やがて学問、詩歌の魅力に取り憑かれ、水戸藩主となった若き“虎”は「大日本史」編纂という空前絶後の大事業に乗り出す。生き切る、とはこういうことだ。誰も見たこともない「水戸黄門」伝、開幕。

今年が終わってしまう前に、最後の悪あがき・・・で感想を書いてます。
「天地明察」で華麗に方向転換をされた冲方さん。今後は時代小説だけ書かれるのかなあ、と思っていたのですが、理想は歴史小説・SF・現代ものを並行して書けるようになること、だそうです。私は「カオスレギオン」が好きだったのですが、ラノベ系はもう書かれないということなのかな・・・。残念。そういえば「スプライト・シュピーゲル」はついていけなかった・・・。
さて、今回の主人公は、「水戸黄門」でおなじみの水戸光圀です。「天地明察」の渋川晴海に比べて、知名度の高い光圀ですが、テレビドラマではなく歴史上の人物として、どのような人だったのか、ということを説明できる人はあんまりいないのではないかと思います。(たくさんいらっしゃったらすいません・・・。)
そもそも、光圀は本来は家督を継ぐべきポジションではなかった、ということも知りませんでした。彼の兄が幼少時、病気にかかって生死の境をさまよった時に、次の世継ぎとされたのが光圀だったというわけです。兄は病気に勝ったけれども、長男を差し置いて世継ぎは自分のまま・・・。道理に反しているのではないか、これは不義ではないかという苦悩。生涯、光圀の心にあり続けた思いです。自分の子供と兄の子供を交換して、兄の子供を世継ぎとして育てることで、正しい流れに戻した・・・とされていますが、今では考えられない。子供って、道具なんやなーとしみじみ思った。
「水戸黄門」でおじいちゃんのイメージが根強く残っていたために、本で語られる光圀とのギャップに驚きました。獰猛な虎のような武人でありながら、詩をこよなく愛する文人の繊細な感性を持ち、若いころはハメを外し、交友範囲が広く、家督を継いでからは精力的に事業に取り組むエネルギッシュな人。近しい人を亡くす悲しみに打ちひしがれながらも、次世代への希望を忘れなかった光圀。こんなパワーに満ちあふれた人だったのか!
最後の方で、藤井紋太夫という目をかけていた家老を、光圀は自分の手で殺害する。なぜ、自分は彼を殺したのか各章の最後で光圀は自問する。すべては大義のもと・・・。うーん、当時の人はきっと使命感がすごくあって、マジメっていうか・・・、思いつめちゃう感じだったのかなーと思いながら読み終わりました。現代の私達が使命感を持ってないとか、不真面目ってわけではなく・・・、昔に比べて逃げやすくなったのかなあと。逃げること、悪いことじゃないですから。
光圀のまわりで、親しい人たちがばったばったと亡くなっていくのですが、泰姫が死んだ時が一番悲しかった!光圀の良き理解者がやっと現れたーと思ったのに・・・。左近とのプラトニックな関係も、良いなあと思いました。
光圀が生涯を賭けて取り組んだ史書編纂。人の命は尽きる。しかし、人の営み、生と死は連綿と続いていき、その人の生きた証は史書として後世に伝えられていくのである。光圀もその1人となったんだなあと思うと感慨深いです。時代の先を歩き続けた水戸光圀の生涯を堪能させていただきました。
他にも色々あったのに、なんだか書き足りない感じです。未読の方はぜひぜひ読んでみて下さい!


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