忍者ブログ
読書の記録です。

「幸福な食卓」

瀬尾まいこ/講談社

父さんが自殺を失敗した時も、母さんが家を出た時も、朝は普通にやってきた。そして、その悲しい出来事の後も。とっても切なくて、ちょっとおかしくて、あったまる長編小説。

家族のあり方には色々あって、外から見ただけじゃきっとわからない。
うちだって、人さまには言えないようなことがあります。
しかし、それにしたって、彼女の家庭は少し変。個性と言ってしまえば、そうなのかもしれないけれど。両親はもちろん、恋人に鶏をプレゼントする直ちゃんや、油の詰め合わせを持って挨拶に来る恋人のヨシコも変。そんな愛すべき変な人たちに囲まれて、幸せそうな主人公がうらやましかった。
後半のハードな展開にはびっくりしました。瀬尾さんは、なぜにこんなに痛い思いを淡々と書けるのかと感心してしまった。非常に客観的な感じがします・・・。不思議なことに、救いの無い結末だとは感じなかったんですよね。弟にマフラーあげただけで救われるわけが無い、とは思う。きっと、大浦君の国語力の無さと、瀬尾さんの冷静な筆致によるところが大きいのではないのかな。
食べるということは、生きるということだとは良く言ったものです。
ご飯は良く噛んで食べよう(関係ない)・・・。


PR

「チーム・バチスタの栄光」

海堂尊/宝島社

大学病院で結成された、心臓移植の代替手術である「バチスタ手術」の専門チーム。そこで術中死が続発。内部調査を押し付けられたのは、不定愁訴外来担当の万年講師と厚労省の変人役人だった。

インパクトのある黄色い表紙と、何かと色んなブログで見かけた本。いつも本屋でちらちら横目で眺めている間に、青が出てキラキラが出て、ついに赤い表紙を見かけるようになっていました。出すペースが早いのと、私のアクションが遅いのとの相乗効果ですな・・・。
専門分野を持つミステリーというのは、ともすればウンチク一辺倒になりがちです。ぱっと思いつくのは、京極堂とかQEDとか超常現象モノなんですが。苦笑。結論から言うと、専門用語は飛び交いますが、難しく考えなければ普通に楽しめました。外科手術中の心停止が医療事故かそれとも誰かの故意によるものか、という謎が、手術室という密室の謎も加わり、よりミステリーっぽかったです。トリックと犯人のあたりは、ストレートに攻めてきたなあ、という印象。あっけなかったです。ただ、動機は納得いかず。一番の被害者は患者さんだよなあ。すがる思いで手術を受けているのに、こんな目に合わされたらたまったもんじゃないよ。医者やってすごいハードワークで大変だと思います。ストレスも溜まるだろうし、待遇が悪いところだってあるかもしれない。だけど、それはあなたの問題でしょう?と思いますね。
探偵役は窓際族で欲がまるで無い不定愁訴外来の医師。ときたら、エンターテイメント小説にぴったり。途中から、白鳥という役人も加わるのですが、この人がまた独特です。伊良部に似てないこともないんだけど・・・。私は白鳥が好きになれなかったなあ。あの暴言はちょっと受け付けない・・・。うどんの食べっぷりはブラボー!でした。次作はマコリンの、より一層のご活躍を期待して読みたいと思いまっす!


「虹色天気雨」

大島真寿美/小学館

ある日突然、幼なじみ奈津の夫・憲吾が姿を消した。市子は、夫捜しに奔走する奈津から一人娘の美月を預かる。女性の影もちらつく憲吾の失踪だったが、事態はやがて、市子の元恋人も登場して意外な展開を迎える。

どんだけ年を取っても、友達と会っている時は心がその時代に戻ってしまうのです。中学・高校・大学・前職場・・・。その人を取り巻く環境が変わっても、その子の印象や本質は変わらないんだよなー、としみじみ感じました。
しかし、私は友達の友達とか、友達の彼氏・旦那さんとか、いわゆる友達ネットワークに乏しい人間なので、この集団には共感できなかった。うーむ。こう、私にとってはやりにくい人間関係のような気がする。
途中まで、憲吾さんは一体どこへいったのか、帰ってくるのか、非常に気になるところでした。奥さんとかわいい娘を置いて、ある日突然失踪。ちらつく女の影!今までの私だったら、「非常識な!許せん!」と思ってます。ところが、私、最近の心情の変化により「どうやって、妻子ある男性の心を掴んだのか」が非常に気になるところでした。えー、道徳的な問題は置いておいて。奥さんだけなら何とかなりそうな気がするのです!笑。だけど、子供って、奥さんより強敵やと思うんです。奥さんはさておき、子供を放り出すような人は嫌やというか。
これ、たぶん物語の本質から、かーなーり、ズレてます。悩める女性の友情を描いた作品です。美月ちゃんもかわいいしな!そして、意外というより、あっさり無難な着地点におさまったのが少し不満。


「大切な人を失って泣くことも、好きだった人とうまくいかなくなることも、その瞬間の痛みも、残念ながらお互い嫌になるくらい経験し、それがどういうことなのか、我が事のように理解できるようになってしまった。こちらもまだ初心者で、いちいち狼狽えたり、おろおろと戸惑うばかりだった頃は、失恋の傷が、ただ無意味な傷のようにしか見えなかったけれど、今では、そこにあるのが傷だけでなく、たくさんの勝ち取ったもの、手の中に思いがけず残ったものなどもまた、傷ついた皮を剥がせば、ちゃんとそこにあると知っている。」


「λに歯がない」

森博嗣/講談社

密室状態の研究所で発見された身元不明の4人の銃殺体。それぞれのポケットには「λ(ラムダ)に歯がない」と記されたカード。そして死体には歯がなかった。事件を推理する西之園萌絵は、自ら封印していた過去と対峙することになる。

今回は、いまいちでしたなー。
謎の提示と、可能性の検討まではとってもいい感じだったのですが・・・。ページ数が少なくなってきて感じた不安が、見事に的中しましたねー。現実には、事件が解決するきっかけなんて、こんなもんだろうとは思いますけれども。ええ、そのスジの情報からだと思いますけれども。・・・つまらんよー。ひねりがないよー。
あと、密室はお得意のジャンルのトリックで。きたきたきたーっ!と思いました。驚きも怒りもなく、ただ納得してしまったというか・・・。もう、これは森さんの特権ではないでしょうか。
萌絵さんの出番は増える一方で、海月とか加部谷の存在感が薄くなってしまっていたのが残念。犀川と萌絵をカルピスの原液だとすると、かれらはカルピスソーダみたいな薄さですから。霞むのは仕方ないかも・・・。おばさまが出てこないだけマシか。しかしながら、萌絵さんの内面に踏み込んだ場面があったのは良かった。最初から、メインをここに据えておけば良かったのでは・・・?


「人間って、結局は自分の人生しか知らない。自分の時間しか経験していない。すべては、それと比較して、それを基準にして、推論するしかないんだ」


「紅牙のルビーウルフ 5」

淡路帆希/富士見書房

奪われた神具を求め、ルビーウルフがやって来たローラティーオーは、二つの部族が暮らす外界から断絶された世界だった。次々とルビーウルフに襲いくる厳しい現実と裏切りの中、ミレリーナも神具と共にイグニスに連れ去られてしまう。

4巻から続いた話も決着。
期間をあけて読んでいるせいか、毎回世界観に疑問を持ってしまいます。うーん、他の作品ではそんなに感じないんだけどな・・・。
結局エリカさんの裏切りの理由は、期待ハズレなものでがっかり。ふーん、で終わってしまいました。あとひとやまで終わらなければ、このシリーズを読み続けるのはちょっと厳しいかも。あと、組織の姿がちらりと見えてきたので、そろそろ大ボスを出して欲しいなー。この話、前後編に分けるほどの内容でもなかったなあというのが率直な感想。今回は、エリカとローラティオーとあと神具のヒミツに迫って欲しかったなあ。ルビーさんの葛藤は、ここでは前面に押し出すべきではなかったと思います。というか、ジェイドとルビーの微妙な両思いも、いい加減くどい。うーん、ヘリオトロープとティグル、ラークとエミリエンヌのカップリングもいらんなー。そうね、さっさと子供作ってしまえばいいんでないの?と投げやりな気分にもなりますわな。
世界観が弱いのが一番の弱点。せめて、そこが気にならないような物語の展開を読ませて欲しい。


「自分を責めてはいけないよ、ミレリーナ。それは、諦めることだから。終わったものを振り返ることだから。まだ終わっていないんだよ。わかるね?」
ベルンハルトお兄様が、実はいい男だったという発見が一番の収穫。笑。