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読書の記録です。

「泣き童子」

宮部みゆき/文藝春秋

江戸は神田。叔父の三島屋へ行儀見習いとして身を寄せるおちかは、叔父の提案で百物語を聞き集める。

怪談にミステリーに時代小説にファンタジーに・・・と、幅広いジャンルの作品を執筆される宮部さん。私はミステリーメインで読んでます。三島屋のシリーズは怪談モノですが、奥が深くておもしろいので好きです。くどさもそんなに感じないので、色んな人にオススメできる本だと思います。今まで感想をあげる機会がなく、これはシリーズ3冊目。一番のオススメは2冊目の「あんじゅう」です。読みながらぼろぼろ泣いてました。
記憶に残っているものをいくつか。
「泣き童子」いつもは語り手は紹介でくるのだが、今回の語り手は行き倒れの男。孤児を引き取ることになった彼は、その子供の異常な能力に気付く。普段は泣きも喋りもしない子供だが、悪意を胸に秘めている者のそばへ行くと、火がついたように大泣きするのだ。ある日、男の娘を見て大泣きする子供を見て、男は自分の娘が何かを企んでいることに気付くが、時はもうすでに遅かった・・・。これは怖かったなあー。悪事を見抜いてくれるって、何かのセンサーみたいで便利だなーと思ったのも一瞬で、やっぱり人の醜い部分を見るのは恐ろしいと思った。それが自分の身内ならなおさらだと思う。娘が浮気男を殺し、罪を見透かした子供を殺し、そしてそれを黙殺した男。やがて嫁入りした娘が子供を産み、呪いの連鎖がまた始まる・・・。殺すことで本当に断ち切れたのかなあ・・・。
「小雪舞う日の怪談語り」これは、怪談語りの会におちかが誘われて・・・という話です。存在をすっかり忘れていましたが、先生が登場です。うーん、うまくいきませんね!笑。そのちょっと意地を張っちゃうところが、おちかさんのかわいいところです。家の話が怖かったなー。
「まぐる笛」結構な衝撃作。何せ人がぱくっと食べられます。スプラッタ・・・。まぐる、という名の獣を鎮める技が伝えられている村で起きた惨劇。ううむ、食べられたくない・・・。
「節気顔」節気日に死者の顔と自分の顔が入れ替わる・・・という契約を商人と交わした男。死者に顔を貸すたびに自分の顔はあちらの世界へ行き、そのたびに魂を削られてゆく。最後は、満足して死んだから良かったのかなあと思いつつ、あの商人だとしたら、善人ではないよね?と思った。また、おちかの前に現れるのかな・・・。


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「亡霊ふたり」

詠坂雄二/東京創元社

名探偵の資質とは、謎を解き明かす能力以上に、謎に出合う能力。名探偵志願の女子高生は魅力的な謎を求め、日夜努力を積み重ねる。自らの探偵活動に、彼女は毎度ボクシング部所属の男子高生をつき合わせるが、彼女は知らなかった。彼が卒業までにひとをひとり殺そうと計画している、殺人者志願の少年であることを!

ダ・ヴィンチのプラチナ本で紹介されていて、おもしろいのかな~と思い読んだのですが・・・。どうにも物語に乗り切れませんでした。
この本は、ミステリーと同時にボーイ・ミーツ・ガールの要素も併せ持った、いわゆる学園ミステリものです。ポイントは、探偵・・・ではなく名探偵志願というところ。謎は待っていてもやってこない。謎は自ら探しに行くもの!というアグレッシブなお嬢さん・若月ローコが登場します。そして、助手は殺人計画を練っている主人公・高橋和也です。
謎自体は、最初は青いカキ氷の謎とか、遅れて聞こえるピストルの音(陸上のスタートの合図)とか、結構おもしろかったです。しかし、廃校・吏塚高校が脱法ハーブの生産工場になってて・・・のくだりでは、ローコがエライ目に遭わされてたりして、若干ひきました。オムツのくだりとか、いります?
で、なんで乗れなかったかというと、ズバリ主人公たちの思考がよくわからなかったからです。「名探偵の証明」(市川哲也)でも感じたのですが、私は、名探偵とはいかなる存在か?どうあるべきか?という名探偵論には全く興味がありません。名探偵って、謎があれば解かずにはいられない、愛すべき変態なんです。もう、変態にどうして変態なんですかとか聞いても仕方ないっていうか・・・。まあ、例えが極端ですけど、もっと上品にいえば数学の公式の意味のようなもので、根拠はあるけどその根拠にはさして興味をひかれないし、知らなくても特に問題ないって感じ・・・。
和也が「自由に生きるため」に殺人者になりたいというのも、さらに意味不明。それは、邪魔者は抹殺して思い通りに事を運びたいというわけかね?まあ、殺人というものは個人のエゴイズムによって引き起こされることだから、あながち間違っちゃいないんだけど・・・。なんか、胸をはって宣言されるとものすごいダメ人間に見えてくる・・・。「これからの人生、俺は人知れず邪魔者を抹殺しながら自由に生きていく!」甘いな。思い通りにいかないことだらけ。それが人生・・・。
私は、詠坂さんの本を読むのはこれが初めてなのですが、何かのシリーズの一部?のようです。2人が理想としている名探偵と殺人者が出てくるような感じ・・・ですね。それを読んでいれば、2人の考えが理解できたのか、どうか。


「ホリデー・イン」

坂木司/文藝春秋

それぞれの夜。それぞれの朝。人気『ホリデー』シリーズから初のスピンアウト短編集。

ホリデーシリーズのスピンアウト・・・これは読むしかない!
大きい文字に薄い本で、2、3日で読めてしまいました。ここ最近の最短記録。笑。
ニューハーフのジャスミン、ゆとり世代のバイト・大東、寂しがりやのナナ、人気ナンバーワンのホスト・雪夜、そして主人公ヤマトの子供・進が主人公の短編集です。
一番意外だったのは、映画化されていたことなんですが(笑)、その他に、気になったお話があります。それは、あとがきで、その映画の監督が坂木さんに「ジャスミンは実はヤマトのことが好き(恋愛感情として)だったと思う」と言われたことを受けて、坂木さんも「そうだったのか!」と思ったというエピソードなんですが・・・。これには同意できない・・・。短編は、そこから着想を得ていますので、そのような書き方になっていますが、これまでの2冊を読んで、ジャスミンがヤマトを恋愛対象として見ていたとはどうしても思えないんです!なので、最後の「ジャスミンの残像」は違和感がありました。人たらしのヤマトのエピソードは良かったし、ジャスミンもかっこ良かったのですが、うーん、なんかちがう・・・。
あとは、いつもクールで一歩引いたところから見ている雪夜が、まあ子供っぽいったら。笑。唐辛子合戦は和みました。でも、ああいう風に率直に言ってくれる人って結構貴重だよね。
ワーキング・ホリデーの前日譚「前へ、進」もオススメです。母子手帳から出てきたのが、ヤンキーがメンチ切ってる写真で、それが自分の父親かもしれない・・・ってなったら、そりゃあ動揺しますよね。進君は将来モテ男になりそうだ!
当たり前ですが、スピンアウトなので必ず本編から読みましょう。


「キウイγは時計仕掛け」

森博嗣/講談社

建築学会が開催される大学に届いた奇妙な宅配便。中には、γと刻まれたキウイにプルトップが差し込まれたものがたったひとつ、入っていた。荷物が届いた日の夜、学長が射殺された。学会のため当地を訪れていた犀川創平は、キウイに刻まれたギリシャ文字を知り、公安の沓掛に連絡する。

「すべてがFになる」のドラマ、見てますか?
主役のキャラクターが原作とかけ離れているところは評価できませんが(特に犀川ティーチャーの謎解きシーンはひどい)、物語の見せ方、謎解きのエンターテイメント性が良いなと思って見ています。まあ、理系がウリといえばウリなんですが、私は森さんはロマンチストだと思っているので・・・。なんか、理系を前面に出すのも違うような気がします。あと、主題歌もどうにかならんかったんか。
何はともあれ、まだ作品を追いかけるモチベーションが残っていたようです。Gシリーズです。今回は、萌絵と犀川先生の出番が多く、半分S&Mでした。前作と変わらず、加部谷は県庁勤め、雨宮はリポーター、海月は院生?あと山吹は本格的に研究者として一人立ちしたようです。舞台は建築学会で、登場人物勢ぞろいといった感じでした。
殺害されたのは、学界が開催される大学の学長と副学長。副学長は女性で、海外にいたころに結婚・離婚を経験しており、その息子が留学生であった。今回は、その息子が犯人・・・という感じでした。相変わらず、事件については一歩引いた感じの扱いで、とても素っ気ない。おそらく、浴槽に浮いていたキウイや、キウイにプルトップのフタを挿して時限爆弾に見せかけたことにも意味はあったのかもしれませんが、なんかよくわかんなかったです。
注目すべきは、萌絵さんの心境の変化かなあ。事件に首を突っ込んでは、ひっかきまわしていたあの頃の自分を客観的に見ているシーンがあって、改めて、萌絵さんは大人になりましたなーと思ったのでした。
あと、山吹・加部谷・海月のトライアングルができるか?と思ったけど、どうでもよろしい気もします。うーん、そろそろ、謎解きに力を入れたミステリーが読みたいところです。


「アリス殺し」

小林泰三/東京創元社

複数の人間が夢で共有する〈不思議の国〉で次々起きる異様な殺人と、現実世界で起きる不審死。驚愕の真相にあなたも必ず騙される。鬼才が贈る本格ミステリ。

大学生の栗栖川亜理は、おかしな夢を見続けていた。夢を見ている間、自分は、不思議の国の住人になっているのだ。その不思議の国で、ハンプティ・ダンプティが殺される事件が起こった。時を同じくして、亜理の大学でも王子先輩が死んでしまう。2つの事件は関連しているのか?そんな中、亜理の前に不思議の国ではビルと呼ばれている井森が現れる。彼は、不思議の国の住人は、自分のアーヴァタール(化身のようなもの)であり、この世界には他に不思議の国のアーヴァタールを持つ人間がいるはずだ、考えている。王子先輩のアーヴァタールが、ハンプティ・ダンプティであることを確認した後の出来事だったという。不思議の国で起こる殺人事件の容疑者となったアリスは、不思議の国で死刑となり現実世界で死なないために、真犯人を探す。
夢の国のアーヴァタールを殺害すると、現実世界でシンクロしている人間はなんらかの事故で死ぬという関係を利用した殺人事件。とても不思議な世界観でした。ポイントとなるのは、現実世界の人と不思議の国のアーヴァタールの相関関係です。現実世界の誰が、不思議の国の誰と結びつくのか?つまり、私たちは(名前のせいもあるけど)亜理=アリスだと思っていたけれど、そうではなく、刑事たちも帽子屋と三月兎ではないのです。そして、広山準教授も公爵夫人ではないことが明らかになります。嘘と勘違いが交錯し、現実世界と不思議の国の事件が結びつくとき、全てが明らかになる。そう、夢の世界だと思っていた不思議の国が現実で、現実だと思っていたこの世界の方がレッド・キングが見ている夢の世界だということが・・・。いや、白兎が間抜けな勘違いをしてただけとも言えるんですけど・・・。
バンダースナッチって何?と思い、ググッてみましたが、キャロルの作品では素早い生物以外に具体的な記述はないそうで・・・。他の作品では、怪物として描かれているようです。あと、不思議の国の住人たちが身近に集まりすぎなのは、話の都合上仕方ないんですが、どうにもご都合主義なところが気になりました。
殺人のシーンになると、突然グロい描写になるのにはびっくりしました。笑。どうした?って戸惑いました。まあ、そこまでひどくはないんですが・・・。アリスが「ぐぼお!」とか「がはあ!」とか言うの、想像したくないっていうか・・・。なんか、もっと穏便な殺し方無かったの?っていうか・・・ねえ・・・。笑。最後の斬首シーンも、ずっとごりごりやってるから、もう、いいよって思いましたし。大変なのはわかったよ!って。猟奇殺人がダメ!っていう方はNGです。ご注意を。