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読書の記録です。

「名探偵の証明」

市川哲也/東京創元社
 
かつて一世を風靡した名探偵が、現代のアイドル探偵とともに再起をかける。“老い”という人間の宿命を、2人の名探偵を通じて活写する、第23回鮎川哲也賞受賞作。

題名がかっこよさげだったのですが・・・。
かつて名探偵だった屋敷は、60になった今は一線から退いている。しかし、当時の相棒で元刑事の竜人の紹介で、探偵として返り咲くことを決意する。それは、ある企業の社長に脅迫状が送られ、今をときめくアイドル探偵・蜜柑花子を呼べと要求している事件だった。事件は解決するものの、屋敷は探偵としての限界を感じ、今度こそ本当に探偵業を廃業することを決意する。
・・・が、探偵としての本能に逆らえないことを悟った屋敷は、探偵として生きていくことを決意する。その直後、彼は悲劇に見舞われる。
舞台は、俗に言う私立探偵、ではなく、本格なんかに出てくる難事件ばかりを手がける名探偵が職業として成立している世界です。世間からの知名度もあり、名探偵が存在するからこそ、難事件が起こるのだと逆恨みされることも多々あり・・・。まあ、架空の世界での名探偵が実在するとしたら、こんな感じになるんじゃない?ということを書いたんですかね。
名探偵、名探偵言うわりには、あれもあったこれもあったと過去の事件を例に挙げるだけで説得力がないし、実際に解決する事件も小粒でした。全体的なことを言うと、一度終わった事件を意外な人物が真犯人であると蒸し返すのも、構成として野暮ったい。名探偵論についても、本人が辞めるのか辞めないのか、うだうだ悩んでいる思考に読者を付き合わせているだけで、読んでいてイライラしました。最後の展開も自己満足ですよね。笑。最初から最後まで自分に酔ってるなーという感じがしました。
アイドル探偵との推理対決は楽しみだなと思っていたら、蜜柑ちゃんは屋敷のことを尊敬していたから、自分が先に真相に気付いても黙っておいて、事件解決のヒントを与えていた・・・という始末。後半に登場する屋敷夫妻の濡れ場も唐突で意味不明だし(まだ現役だと言いたいのか?)、前に書いたように、ミステリーとしても謎解きに面白みがない。ワトスン役の苦悩なんざ、知ったこっちゃないしなあ。(←ひどい)正直、女々しい男だなあくらいにしか思いませんでした。
物語の切り口は新しいのかもしれませんが、ミステリーはやっぱり謎解きがおもしろくなくちゃ!


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「苦手図鑑」

北大路公子/角川書店

居酒屋の店内で迷子になり、電話でカジュアルに300万円の借金を申し込まれ、ゴミ分別の複雑さに途方に暮れる・・・。思わず笑いがこみあげる、キミコさん(趣味・昼酒)の日常をつづったエッセイ集。

「野生時代」で読んだエッセイがおもしろかったので、いつか本になったら読もうと思っていたのでした。思い出して良かった。
久しぶりに読んでも、やっぱりおもしろかったです。ネタ・・・というよりは、日常のばかばかしいことや、不条理なことを語る切り口が独特だなあと思います。おもしろかったのをいくつか。
「扇風機」扇風機をつけると、紙がばさばさしてうっとうしい!ということを公子さん風に表現するとこうなる。若鳥は思いつかなかった・・・。「歩く」「なぜだ?なぜこんなに太い?」私もそう思っています。私流・足を太くする方法は「自転車で坂道をこげ」ですね。「おでんの記憶」最初から少なめに作ればいいのでは・・・と思ったけど、無意識に大量のおでんを作るのも業のうちなんですかね。そうなんですかね。「ホラー映画」ホラー映画の世界で生き残るコツは、無関心ですよね。シャワーの時も、背後への警戒は怠らずに!っていうか、シャワーに入らなきゃいい。「ある一日」私も骨が刺さったと思って、耳鼻科に行ったら何もなくて診察が秒速で終わり、待合にいたカップルに「診察終わるの早すぎ」と鼻で笑われ、「耳鼻科にカップルで来るんじゃねえよ」と心の中で毒づいたけど、ただのガラの悪い夫婦かもしれなかったなあということを思い出しました。骨が刺さったかどうかのジャッジは難しい。「方角」厨房を走り抜けたくだりがおもしろすぎる。引き返さないのか!その時、板前さんたちも動揺したに違いない。笑。「やぎさんゆうびん」うっかりお手紙食べちゃった☆エヘ☆という歌ではなく、抗い難い本能と友情との間で揺れ動く葛藤を描いた歌だったのですね!これはこぶしをきかせて歌わねば。「ぱなし人からの挑戦状」北大路家の人々はおもしろい。うちには、靴下を丸めて入れる人がいなくて良かったなあと思いながら読んでいた。ていうか、うちは洗濯する前に洗濯もののチェックをしないので(とりあえず放り込む)、父親の携帯は2回ほどご臨終されています。
「チーズ」「チーズ石けん期時代のことを私は懐かしく思い出す。あの頃世界は美しく、そしてシンプルだった。世の中はチーズと非チーズ界にきっぱりと分かたれ、我々はチーズの姿を常に目視することができた。」という語りが好きです。笑。公子さんとは逆で、モッツァレラチーズと思って食べたら豆腐でがっかりしたことがあります。トマトが添えてあって、上にバジルとか乗せられたら、そりゃチーズだと思いますわな。味噌汁に見えて実はチーズ。麺に見えて実はチーズ。マジでそんな時代が来るかも。
電車の中で読まなくて良かった。


「ロング・グッドバイ」

レイモンド・チャンドラー/早川書房

私立探偵フィリップ・マーロウは、億万長者の娘シルヴィアの夫テリー・レノックスと知り合う。何度か会って杯を重ねるうち、互いに友情を覚えはじめた二人。しかし、やがてレノックスは妻殺しの容疑をかけられ自殺を遂げてしまう。しかし、その裏には哀しくも奥深い真相が隠されていた。

ハードボイルドの代表作!と思ってましたが、まさしくハードボイルドでした。
NHKで、舞台を東京にアレンジしてドラマ化されていました。浅野さんの探偵役、ハマってましたね~。小雪と富永愛が美人の役どころというのが、納得いきませんでしたが・・・。小説とドラマは話の大筋は一緒でした。なので、新鮮な驚きは無かったなあ。私は珍しくドラマの方が好みだったので、先にドラマを見ておいて良かったと思いました。
始まりは、私立探偵のマーロウとテリーの出会い。男好きの億万長者の娘と結婚し、金銭的に不自由はしていないが、自堕落な生活を送るテリーがなぜか放っておけないマーロウ。2人は不思議とウマが合い、何度かバーで酒を酌み交わす仲になる。そんな中、テリーの妻が射殺され、血まみれで銃を持ったテリーがマーロウの事務所に現れる。知り合いにかくまってもらうと話すテリーを空港まで送ったが、その後テリーが遺書を残し自殺したことを知る。
編集者から依頼された、作家探しをきっかけに作家夫婦の問題に巻き込まれるマーロウ。しかし、この夫婦とテリーには意外なつながりがあった・・・。
村上春樹訳でずいぶんと話題になっていたような記憶があります。私には良くわからないのですが・・・。すごいんですかね・・・。とにかく、キザな(粋な?)言い回し?が多用されていて、非常にまだるっこしい感じがしました。もったいぶってるというか・・・。そのせいか、ネタを知っているせいか、物語にあまり乗れませんでした。
最後のテリーの登場やら、マフィアとのいざこざやらは蛇足だなあと思いました。
清水訳で読んでいたら、少し印象が違ったかも?


「魔法使いは完全犯罪の夢を見るか?」

東川篤哉/文藝春秋

美貌で美脚。傍若無人のキャリア系女子・アラフォー独身難しいお年頃の椿木綾乃警部。実はキレ者?それともただのマゾ?小山田聡介刑事。真面目にバイトで日銭を稼ぐ、魔法使い少女マリィ。魔法があれば、犯人なんてすぐわかる!・・・なんて都合良くありません。謎と魔法のユーモア・ミステリー。

烏賊川市シリーズ、毒舌執事に続いて、今度は魔法使い!短編をどこかで読んで、おもしろかったので・・・。犯人が冒頭で明かされる、コロンボ形式のミステリーです。
ミステリーとファンタジーの融合って、あんまりおもしろくないイメージがあったんですが(魔法のルールがご都合主義すぎるとか)、これはおもしろかったです。いい意味で役に立ってない魔法。笑。
「魔法使いとさかさまの部屋」映画監督の妻が殺害された。奇妙なことに、殺人現場の部屋の中にあるものがほとんどさかさまになっていた。容疑者である夫は片手が使えないため、短時間で部屋中のものをさかさまにするのは不可能なのだが・・・。魔法であっさり犯人自白!だけど、証拠が必要・・・ということで、小山田刑事のカンが冴えます。小山田刑事、キレものです。変態だけど。今回は、逆さの映像がキーポイント。液晶テレビって正面から見たら確かに上下の違いはないけど・・・。自立型なら逆さま設置は難しいけど、壁にかけるタイプ(あるの?)ならできんことはないのかな。
「魔法使いと失くしたボタン」容疑者は、ジムを経営するインストラクター。マッチョな体を生かした力技の犯罪を実行するが、現場で落としたひとつのボタンが、トリックの綻びとなる。またもや家政婦で登場のマリィ。魔法で犯行をゲロさせるも、やっぱり証拠がない!マッチョでなければできなかった、秘儀・イスごと死体を運んじゃえ☆だけど、マッチョであるがゆえに証言との矛盾が生まれてしまった・・・。アホな犯人に親しみさえ覚える・・・。
「魔法使いと二つの署名」彼はただの物まね芸人ではなかった。筆跡鑑定さえ欺くことのできる模写の達人なのだ!モシャス!社長を自殺に見せかけて遺書を偽造した犯人。しかし、その犯行が社長の愛人にばれ、彼女も殺すことになる。遺書の署名だけ直筆のサインって、おかしいような。2度目の殺人も全く同じ手口はまずいでしょう。笑。なんかもう、アホやなあ・・・。
「魔法使いと代打男のアリバイ」プロ野球選手の犯人は、自分と瓜二つの身代わりを用意して、犯行を行う。今回はビールの売り子として登場するマリィ。ボールに「私が犯人です」と書かせる魔法。これがあったら、警察も楽になるんじゃないの?笑。毎度のことながら、証拠がないため犯人のアリバイを崩さないといけない。スポーツ新聞の記事の差し替え、という結構マニアックな事例がトリックを崩す鍵になりました。最後は小山田家の家政婦に・・・。ハッピーエンドな感じです。
まあ、むずかしいことは考えずに、こういうものと思って読んだらおもしろいですよ。割りきりができる人向き?笑。推理にも一応スジは通ってるし・・・。
まさかの続編もでてますね。このパターンでずっとひっぱるのは難しいと思うんだけど。どうなってるのか興味はあります。


「舟を編む」

三浦しをん/光文社


玄武書房に勤める馬締光也。営業部では変人として持て余されていたが、人とは違う視点で言葉を捉える馬締は、辞書編集部に迎えられる。定年間近のベテラン編集者、日本語研究に人生を捧げる老学者、徐々に辞書に愛情を持ち始めるチャラ男、そして出会った運命の女性。個性的な面々の中で、馬締は辞書の世界に没頭する。言葉という絆を得て、彼らの人生が優しく編み上げられていく。

何年か前の本屋大賞1位だそうで・・・。なるほど納得のおもしろさでした。
少年時代に辞書の魅力にとりつかれ、辞書一筋の人生を歩んできた荒木。新しい辞書「大渡海」の編纂作業が始まったばかりだが、会社を定年退職することになった。そこで後継者として、玄武書房の営業部から馬締(まじめ)を引っ張ってくる。予想以上に辞書作りの才覚を備えていた馬締は、荒木の後を継ぎ、辞書編集部の面々とともに「大渡海」完成を目指し奮闘する・・・。
辞書作りのドキュメントをテレビで見たことがあって、すごく地道な作業だなーとびっくりした記憶があります。辞書に執筆者がいるのかー(今思えば当たり前だけど)とか、何回も手直しが加わっていつ完成するのかわからなくて気が遠くなりそう!とか・・・。こちらの本も、辞書がどのように作られているのか、わかりやすく説明されていて、ちょっと賢くなった気分になれます。紙のぬめり感なんて、考えたこともなかった。すいません・・・。
お話の主人公はまじめさんのですが、章ごとに視点が入れ替わって、辞書編集部の人たちの想いも語られていきます。まじめ&香具矢カップルも、微笑ましてくて好きですが、やはり西岡が良かったな!きっと西岡が好きな人っていっぱいいると思うんだけど。まじめさんって才能が抜き出てて、神のようなんですよね。だから私の仕事に関する感覚は普通の西岡に近いし、普段はお調子者の西岡が見せる葛藤、嫉妬、疎外感・・・それを乗り越えて、まじめを仲間だと認める男らしさがたまらん!さらには、対人スキルが低いまじめをフォローする細やかさ。軽薄そうに振舞っていても、仕事で押さえるポイントはしっかり押さえる。そんな西岡さんにやられました。笑。しかも、10年後には家庭を大切にする子煩悩になってるし・・・。いいなあ。
そうそう、本の厚さは薄いけど、この話は結構長い期間を描いてるんです。「大渡海」は、出版社の妨害などもありつつ、完成まで10年かかるのです。辞書の完成を待たず、亡くなってしまう先生。辞書を見せてあげられなかったことを悔やむまじめ・・・。辞書の完成は見れなかったけど、言葉に溢れた先生の生涯は、とても幸せだったんだなあ。最後は感動的でした。
情熱を傾けられる仕事と出会えることは、とても幸せなことだと思う。何を犠牲にすることになったとしても。だから、もし、あなたが今就いている仕事が愛してやまないものならば、決して手放さず大事にして欲しいと思う。
私も、そんな仕事に巡りあいたい。
ちなみに、映画版は観てません。観てませんが!香具矢さんは、宮崎あおいさんっていうのはどうなんすかね・・・。香具矢さんは本の中で「ちょっとそこらにいないような美人」と表現されています。あおいちゃん、好きな女優さんですが、ちょっとそこらにいないような美人となると、話は別っていうか・・・。美人ではないよねえ・・・。板前って感じでもないし。蛇足、失礼しました。


「だれかの情熱に、情熱で応えること。」