忍者ブログ
読書の記録です。

「赤朽葉家の伝説」

桜庭一樹/東京創元社

千里眼の祖母、漫画家の母、そして何者でもないわたし。高度経済成長、バブル景気を経て平成の世に至る現代史を背景に、鳥取の旧家に生きる三代の女たちを、比類ない筆致で鮮やかに描き上げた渾身の雄編。

長いこと積んでありました・・・。「製鉄天使」を借りてきたら、あらすじがスピンオフっぽかったので、こちらを先に読むことにしました。
物語は、鳥取の旧家・赤朽葉家の歴史を孫の瞳子が語る形式となっています。祖母・万葉は山の人が置いていった子で、未来視の能力がある。彼女は4人の子を育てるが、長男は死に、長女と次女と次男が残された。長女・毛毬は不良時代を経て売れっ子の漫画家となるが、12年の連載作品をかきあげた後急死。万葉は、「昔人を殺した」という謎の言葉を瞳子に残して死去。祖母は一体誰を殺したのか・・・?
桜庭さんといえば、少女の鬱屈した心の動きを描く作家さんだと思っていたのが、いつの間にやら家族、血の呪いを描くようになってました。ここらあたりが転換期だったのでしょうか。
時代の移り変わりと共に、人の価値観や関係が変わっていく。その「移ろい」の過程の描写が何よりも素晴らしかったと思います。私はどの時代かっていうと、瞳子世代になります。瞳子ほどの無気力感にはとらわれていませんが、自分は何者でもなく、また何も成し遂げないだろう・・・と流される感じがわかるなあ。でも、一番おもしろかったのは毛毬かーさんですね!ぱらりらと走り抜けた彼女の生涯は、まさに太く短く!って感じで気持ち良かった。
本書は、ミステリーというジャンルですが、ミステリー面ではあまり評価が高くないかな・・・と。予想通りというのもありますが、遺書のくだりはあまりにも安易でひねりが足りなかったかなーと。万葉お祖母ちゃんが誰を殺したのかっていうよりも、本当は誰が好きだったのかってことの方が大事なことのように見えてきます。私の祖母も万葉さんとはちょっと違いますが、結婚する前に他に好きな人がいたそうです。親の言いつけで祖父と結婚したことを後悔しているようでした。うーん、何十年も引きずるなんて、失恋って大変だなあ!と当時、子供心に思ったものです。これが現代なら、やれ不倫だ熟年離婚だとなるところが、互いを静かに愛情を持って見守るところが奥ゆかしい。・・・歯がゆい?笑。
子供って、どうしても親の影響からは逃れられなくて、自分の人生の軌跡と比べてしまうことがあると思う。そんな時、私が生きている現在の時代で、あるがままに生きることが一番大事だってことを忘れないようにしなければ。自由であれ。世界はいつだって美しい・・・らしいですよ。


PR

「サマー/タイム/トラベラー」

新城カズマ/早川書房

あの夏、幼馴染みの悠有は初めて時空を跳んだ。ぼくら高校生5人組は、「時空間跳躍少女開発プロジェクト」を開始する。けれど、それが悠有と過ごす最後の夏になろうとは、ぼくには知るよしもなかった。

新城カズマさんの作品は、ドラゴンマガジン購読時代に「狗狼伝承」と「浪漫探偵・朱月宵三郎」を読んだことがありますー。残念ながらどちらもイマイチでした・・・。で、たまたま図書館で見かけて思い出したので借りてみた次第。SFも久しぶり。
タイムトラベル青春小説な感じでした。ちょうど季節も夏だし。
タイムトラベルは、やっぱり時空間をねじまげるわけですから、やっぱり色々矛盾があるような気がしてならないんだよなー。
主人公のぼくが、とってもかわいくない。笑。自分がいい歳になってしまったせいか、世の中を俯瞰して見ているつもりでも、所詮は子供か・・・とイラついてしまいます。おっと、大人気ない。反面、悠有は天然でおもしろい子でした。これを読んでふと思い返すと、幼なじみって体の関係を持ってるパターンが結構あるような・・・。そんなもんなのかなあ。もっと、ピュアであって欲しいんですけど・・・。
全体的な構成が、ぼくの回想という形でして、最初にどどんと悠有が未来へ行ってしまうという結論を提示しています。他にも、この時こうしていれば、ああしていれば良かった・・・というモノローグが満載なのですが、「たられば」は個人的にスキじゃないもんで。連発は避けて欲しかったな。どんだけ女々しいんだ主人公。
正直ついていけないぜ!ってところもありましたが、色々な可能性を考察しているところがおもしろかった。特に、タイムトラベルの研究と称して小説を読み漁るのですが、作品が「タイム・リープ」と「時をかける少女」くらいしかわからないという私・・・!読書不足で恥ずかしい!それをもとに、タイムトラベルを分類しているのが面白かった。そんなの考えたことなかったなあ。最後には放火魔の犯人を暴いたり、プロジェクトの仲間の秘密も明らかになったりするので、ミステリーの要素もありかな、という印象です。1巻がのんびりしているだけに、2巻の盛り上がりはすごいぜよ!(この口調が最近マイブイーム)
たまにはSFを読むのもいいねえ。


「霧の塔の殺人」

大村友貴美/角川書店

岩手県・雲上峠展望台のベンチに置かれていた生首。地元の名士を残忍な手口で殺害したのは誰か?次の殺害予告は、岩手県選出の国会議員にまで及ぶ劇場型殺人へ発展。全国に厳戒態勢が広がる中、事件は思わぬ方向へ・・・。

知らない間に、デビュー作から2冊も出されていたんですね~。「死墓島の殺人」は無かったので、1作とばして、3作目から読んでみることにしました。デビュー作から、藤田刑事シリーズという名目らしいのですが、「首挽村」での藤田さんを全く覚えておりません。兄貴と熊は覚えているのに・・・。今回も、藤田さんが何したってわけでもなく、新聞記者が主役でもいいんでないかぐらいの存在感の無さ。
藤田刑事の勤務先の事情から、今回も岩手県を舞台にしています。岩手をベースにした推理モノってあんまり見ないので、隙間産業と言えるかもしれないですねえ。需要があるかどうかは別として。
本編は残念ながら、イマイチの読後感でした。ミステリー部分は無難で、あまり文句は無いのですが・・・。犯人の意外性にこだわるのは、悪くはないですよ。今回の犯人に異存はないです。ただ、「首挽村~」でもごちゃごちゃした印象を受けましたが、今回も複数の事件に複数の犯人が登場し、複数の視点で物語が進むものだから、さらにごちゃっと感がありましたねえ。もっとスマートに関連性を持たせてまとめられなかったのかしら。爆弾騒ぎも冗長な印象しか無かったなー。
社会問題を織り込んだのがさらにマイナスポイント。不況による就職難、若者の地方離れ、ひきこもりなど・・・。特に、ヒロイン(?)役の女性も東京での生活に限界を感じて、一時的に帰郷しているという設定から、就職難が強調されていたような。人間がこれだけたくさんいれば、勝ち負けは必ず出てきますし、ミステリーでそれを真面目に登場人物が論じても、興ざめ。なんかもうそれ、みんなわかってるしー。ここでつっこんでも仕方ない話だしー。という感じです。成一が猟銃ぶっぱなして火をつけたのは、時代のせいでも親のせいでもなく、彼が弱かったからですよ。全部自分のせいですよ、そんなもん。
新聞記者のロマンスなんかどうでもいいし。っていうか、第2章が「一方井の恋」なんですが、これも意味不明。一目ボレか?顔が良けりゃそれでいいのか?人間の心の機微を描けていないですよね。これ以外にも、小清水がどうして無茶をしたのか、何を考えて行動していたのかも良くわからないし。藤田刑事の上司、田代にいたっては、優秀優秀と書いておきながら、ただの煮え切らないおじさんでは・・・?
このシリーズ、一旦リセットした方が良いかもしれんですねえ。


「モダンタイムス」

伊坂幸太郎/講談社

渡辺拓海は、恐妻家の29歳・システムエンジニア。ある日、会社の先輩・五反田正臣が失踪する。どうやら、彼の関わっていた仕事のプログラムの解析に関係があるようだ。解析を進めていくうちに、あるキーワードにたどり着く。

「魔王」から何十年か経った世界。徴兵制が定められ、ちょっとだけ文明も進んでいる。魔王・・・。後半の話を気に入ったのは覚えているのだが・・・。はっきりした記憶が無いんだよ、セニョリータ!という私でもそこそこ楽しめました。
週刊モーニングで連載されていたとあって、章ごとの盛り上げ方とオチの落とし方がステキでした。臨場感がある。登場人物たちも、伊坂作品らしい、ちょっとシニカルで根はいい人みたいな方たちでした。(佳代子を除いて。)サイバーテロっぽい話で、情報化社会は恐いよーという話かなあと思ったりしました。確かに、事件の真相は情報操作にあるのですが、それだけではなく、やっぱりシュールな中に熱いものがあるんだなあ。愛だったり、信頼だったり。
主人公の周りの人間が死んでゆくところはミステリー的流れでした。中学校の事件と、超能力がどうからむのか。伊坂好太郎の小説から見えてくるものとは!?どきどきしますよー。私達が情報を受け取るときには、すでにそれはもう加工されたものであってもおかしくないんだなあと思った。物事を多角的に見るには、発想の転換が必要であって。頭が柔らかくないと!ネットで検索、って日常的にしていることなので、その検索のキーワードを誰かに監視されているなんて、あんまり考えたことなかった。そう考えると、検索も恐い。恐いが、一番手っ取り早いのも事実。
仕事って、仕事だからって割り切れるから、できるところがあって、それを逆手にとったからくりだったんだなあと思います。仕事だから、自分のすることだけしておけばいい、一体これがどこからきて、最終的にどうなるのかなんて、考えたって仕方ない。そうなったらあかんってことですよね。想像力を忘れるな、ってところでしょうか。
ところで、最強妻・佳代子さんは一体何者なんだろう・・・。


「でもね、それは言い訳なんだって」

「仕事だから仕方がなくてやりました、なんてね言い訳にすぎないの」


「ガリレオの苦悩」

東野圭吾/文藝春秋

湯川の頭脳に挑戦してくる犯人たち。科学を殺人の道具に使う人間は許さない、絶対に。

確か「聖女の救済」と同時に刊行されたガリレオシリーズ。こちらは短編集。内海刑事が、あまりにも鋭いせいか、草薙刑事の駄目っぷりが目立つ目立つ。ワトソンっぷりが板についてきました。それでいいのか?
「落下る」内海刑事と湯川先生の初顔合わせ。湯川先生が、もう捜査に協力しないことにしたのは、「容疑者xの献身」の件があったから・・・でいいのだろうか。鍋のふたは、苦しいか・・・?
「操縦る」メタルの魔術師の粋な心遣いが素晴らしい!ろくでもない息子が、本当にろくでもないことしかしていなくて、同情できない・・・。わかりやすくて、これはこれで良いのですが。変形する金属は、がんばればなんとかなりそうだ!
「密室る」うーーーーん、ホログラムは!それはちょっと!被害者はやはりろくでもない男で、以下略。
「指標す」ダウジングは無意識に手もとに意識が反映されるため、当てにならないって話を聞いたことがあったっけ。それにしても、付き合っちゃえば良かったのに!もったいない・・・。
「撹乱す」これも、またすごい装置が登場したなあ。逆恨み・・・。最後のいじけた湯川先生がかわいい。意外に、湯川先生は内海刑事のことが気に入ってるんですねー。今後の展開を、恋愛描写は淡白な東野さんが、どう書いていかれるのかも気になります。