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読書の記録です。

「イノセント・ゲリラの祝祭」

海堂尊/宝島社

今回の舞台は厚生労働省。なんと、窓際医師の田口が、ロジカルモンスター白鳥の本丸・医療事故調査委員会に殴り込み!?グズグズな医療行政を田口・白鳥コンビは変えることができるのか・・・。

日本は医療後進国である!という海堂さんの雄たけびが聞こえてきそうです。
映像化されている田口&白鳥シリーズも、この本を映画化するのは難しいのではないかと思いました。私は、このシリーズを一応ミステリーと位置づけているのですが、今回は乱暴にまとめると、エーアイを巡る会議の話で、それ以外何も起こらないという・・・。まさに、海堂さんの持論を延々読んでいるような心持ちでした。以前から「死因不明社会」を執筆されるなど、死亡時画像診断の普及に努めていらっしゃるなあと感じていたのですが・・・。それにしても、舞台がほとんど会議室とは・・・。
「医療事故調・創設検討会」なるものの委員になってしまった田口先生。様々な思惑が入り乱れる会議室をどう生き残っていくのか!?官僚VS医者の構図になってます。医療の実際を知らない官僚さんたちが、予算や制度なんかを決めていくことは、確かに良くないと思う。でも、根本的に政治を行っているのは厚生省なのだから、極論だけど医療庁を立ち上げたりしない限りは劇的に何かが変わるということは無いと思う。・・・というか、どうでもいいとまでは言わないけれど、今、私がこれを読んでも「何か大変なんだなあ」くらいしか感じないですよ。遠い世界ですから。
主張を織り込まれるのは大いに結構ですし、こちらも勉強になりますが、エンターテイメントとしての本を書かれるのであれば、ちょっと配分を変えて頂きたいなあと思いました。それとも、最早エンターテイメントでもミステリでもないところに向かおうとしているのでしょうか・・・。
姫宮って、優秀だったのかー!


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「ふちなしのかがみ」

辻村深月/角川書店

ひややかな恐怖が胸に迫る、現代の怪談。おまじないや占い、だれもが知っていた「花子さん」。夢中で話した「学校の七不思議」、おそるおそる試した「コックリさん」。その向こう側は、決して覗いてはいけない・・・。

辻村流怪談。
「踊り場の花子」。一番怪談らしい怪談。普通、花子さんはトイレに出没するものだが、この学校では怪談の踊り場に現れるらしい。だんだんと普通じゃない空気が漂ってくる流れが良い。モロゾフの箱の件に気づいた所が好きだなあ。また、学校の怪談特有の根拠の無いルールがリアリティがある。結局、彼女は花子さんだったということで、いいんだよね・・・・?
「ブランコをこぐ足」。こっくりさん、ありましたねー。最後は理解に苦しむ終わり方でしたが、結局のところ、想像で終わるか、実際に行動に移すか、という話?だと思ったんですが。度胸試し?それにしても、学校の人間関係って、複雑で子供の方が大変だなあ。
「おとうさん、したいがあるよ」。どうしても、「死体があるよ」を「したい(ことが)アルヨ」の片言日本語で脳内変換して読んでしまいます・・・。なんで?死体は想像の産物なのか、みんなの演技がうまいのか。どっち?
「ふちなしのかがみ」。そんなことだろうとは思ったが!複雑な家庭の事情の犠牲者は、いつも子供なのです。かがみといえば、「むらさきかがみ」ってあったよなー。ほら、20歳の誕生日に思い出すと死ぬという。思い出したらどうしようって心配していた若かりし頃が懐かしいぜ。
「八月の天変地異」。嘘にハラハラ!ゆうちゃんの正体が、セミではなく療養所の友達という落としどころがいい。とにかく、小学生の人間関係はどうしてこんなに複雑なのだ!確かに人気グループとかあったけど。あそこを抜けたら、あんなにアホらしい価値観ってないわって思う。この話が夏らしくて一番好きだなあ。怪談っぽくないんだけど。


「刻まれない明日」

三崎亜紀/詳伝社

「開発保留地区」、それは十年前、3095人の人間が消え去った場所。街は今でも彼らがいるかのように日々を営んでいる。“失われた時”が息づく街を舞台に描く待望の長編。

「失われた町」の10年後。もともと、「失われた町」がそれほど好きだったわけではないので(すいません)、リンクがわからなくてもいっか~という軽いノリ。
長編というよりは、連作短編集と呼んだ方が良いのでは?連作短編集はスキです!物語の中に、別のお話の登場人物がモブみたいに出てくるところが・・・。しかしながら、この世界設定を丸々1冊持たすのは少しきついかなあという気がしました。三崎さんの作品は、独特の文化や風習・仕事なんかがあって、それが魅力であり、実際私も短編集でその虜になりました。ただ、もやっとするところが多々あり、それを短編のように切り替えるのではなく、1冊分持ち越すのが私にはしんどかった。
今回のおもしろ職業は、歩行技師の彼かしら。本当に歩いているだけで、思いをつなぐとかその使命には、正直、なんじゃそら?という感想を抱きました。今回は、「思いをつなぐ」がテーマになっているのかな?相手を思いやる気持ちはとってもステキだと思います。
10年を一区切りにして、消えた人々はだんだんその痕跡を消し始めた。残された人々は、これからをどう生きていくのか・・・。新しく大事な人ができたって、愛している人は変わらず大事なまま。それが理想なんだけど。そうみんながみんな、うまくいくだろうか・・・って黒いこと考えちゃいました。反省。
なんだか、ひどい感じの感想になっちゃいましたが、一応消失のタネ明かし(にはなっていないが)らしきものもあり、前作より背景がクリアにされている点は良かったと思います。


「たのしいムーミン一家」

トーベ・ヤンソン/講談社
訳者/山室静

ニョロニョロは、怒ると恐いのよ!
知らない人はいないだろう、カバ型妖精・ムーミンのお話です。
ずっと前に読んだことはあるのですが、飛行おにの帽子で、ムーミントロールが変身したところで、読むのをやめたような。ムーミンのトートバッグ欲しさに文庫を買ったはいいけど、もう1冊読みたい本が見つからないという・・・。本末転倒になってしまいました。
この本を読んで、ムーミン一家は本当に懐の広い妖精たちだと思いました。お客さん大好き!なムーミンママ。なんか良くわからない人だけど、とりあえずウェルカム、のノリで。大丈夫か、ママ!?そんなにすぐ家に上げて大丈夫か!?と私の方が心配してしまいました。
とにかく彼らはおもしろいことが大好きで、いつでも冒険に出かけます。あまりに展開が突然すぎてついていけないぜ。笑。マメルク釣りのあたりは、一体なぜ、ピノキオみたいな展開になっているのか、一瞬悩みました・・・。飛行おにの帽子のせいで、家がジャングルみたいになったりしますが、超ポジティブなのにびっくりします。見習いたい・・・。
スノークのおじょうさんは、本当にかわいいなあ!ムーミントロールのことが、そこまで好きだったんだー。いじらしい乙女心・・・。しかし、目が異常におっきくなったり、前髪がなくなったり、ひどい仕打ちを受けててかわいそう。最後には、ムーミンが優しくなだめて丸く収まってる感じ?とにかくお似合いです。
ルビーは・・・。その手で来たか!と。最後の終わり方はかなりご都合主義的な印象を受けましたが、揉めるよりはいいのか、な・・・?
挿絵がかわいくて、なごみますなー。


「ゴールデンスランバー」

伊坂幸太郎/新潮社

仙台で金田首相の凱旋パレードが行われている時、青柳雅春は、旧友の森田森吾に呼び出されていた。森田は青柳に「逃げろ!オズワルドにされるぞ」と、鬼気迫る調子で訴えた。と、遠くで爆音がし、折しも現れた警官は、青柳に向かって拳銃を構えた・・・。

仙台を2、3日逃げる話。
それだけではなく、恐い話だった。
前からマスメディアは無責任で恐い存在だなあと思っていた。昨日もてはやしていた人を、今日中傷することだって平気でやる。自分じゃどうしようもできない、大きな力。その恐ろしさ。なぜ自分が?と何度も自問しても答えが出ない。青柳が巻き込まれる出来事のひとつひとつが、本当に理不尽だと思った。
映画では、堺雅人さんが青柳役を演じていましたが、原作を読んで「なるほど~」と納得。イケメンで優しくて、線が細い。しかしやる時はやる!笑顔で人を斬れそうな堺さんに適役ではないですか~。そんな彼が私は大好きですよー。
世間が青柳を犯人だと名指ししても、仲間と家族は信じてくれた。何年も会っていなくても、自分を信じて助けてくれる仲間っていいなあと思った。そう、たぶん伊坂さんはそういうアツイものをたくさん小説に注ぎ込んでいたのだと思う。時々織り込まれる過去のエピソードと、現在の時間がシンクロして、伊坂さんの小技が効いてるなあと感心しました。うまい!
最後は・・・、ある意味負けた感があるのは否定できませんねえ。そもそも、青柳を首相暗殺の犯人に仕立て上げた敵を国家、と仮定しても、その国家が漠然としていて、一体何と戦っているのかという気分になります。逃げ切ることが勝利なんでしょうけど、せっかくのイケメンが・・・。それが一番残念だなあ・・・。