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読書の記録です。

「我が夢に沈め楽園」

秋田禎信/富士見書房

レジボーンの温泉郷に向かう途中、オーフェンは何者かに荷物を盗まれる。犯人を追いかけて、温泉街へたどり着いた一行は、そこでペンション「森の枝」の親子とロッツ・グループの諍いに巻き込まれる。

温泉の無い温泉街へようこそ!
っていう謳い文句だったら、誰も来ないよね、普通・・・。そんな詐欺みたいな場所なのに、ある程度の観光客を集めるところがすごい。オーフェンのリアクションが、お笑い芸人みたいだなあと思いつつ、チャイルドマンやティッシは温泉無いって知ってたみたいなので、単にオーフェンが世間知らずだっただけなのかしら、と思った。今回、マジクが本当に何にもしてなくて、笑える・・・!本編とは関係ない肉体労働かよー。
東部編の入り口のお話で、ある意味一休みといったところ。ミステリ風味が強いのですが、あとがきに書かれているように、秋田さんのミステリは私の中ではいまいち・・・。「閉鎖のシステム」は絶賛されてましたけど、あれは私にとってはNGでした。
残っている疑問点としては、コンラッド・ノサップ・ボルカンは猿らしきものに殺された(と見せかけられた?)が、なぜ天人の遺跡に運ばれたのか?天人の遺跡が逆さまであることの意味?水槽(蘇生装置?)はなぜ逆さまではない?・・・等ありまして。自分が分かってないだけかなあ?と読んだあと少し悩みました・・・。
シーナとエリスの関係にしても、良く似ているのだから、実の親子かと思っていたのですが、後半の告白でクローン説が持ち上がったかと思えば、ぽしゃっ。シーナは一途に彼を想っていたようですから、別の男性の子供は考えにくい。一番有力なのは、養子説?
あとは、その後のことが気になりますねえ・・・。急にボスを失ったロッツ・グループが衰退したら、レジボーン温泉郷自体もしなびるんじゃないか、とか。あの天人の遺跡は破壊されたのかなー。肉塊は、まあ死んだとしてー。そういえば、コンラッドまっぷたつといい、肉塊といい、やはりオーフェンシリーズは地味にエグい。笑。今回おいしいところを最後の最後にノサップ君に持っていかれた地人兄弟、がんばれ!


「・・・・・・さあな。言ってただろ?自分で」

「時は終わるから、変えていくんだって」


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「小川洋子の偏愛短篇箱」

小川洋子・編/河出書房新社

「この箱を開くことは、片手に顕微鏡、片手に望遠鏡を携え、短篇という王国を旅するのに等しい」小川洋子が「奇」「幻」「凄」「彗」のこだわりで選んだ短篇作品集。

人に好きなものを紹介することは、とても勇気がいることだと思う。
その昔、好きな音楽と好きな本をそれぞれ別の友人に紹介したことがあったのだが、酷評された苦い思い出がある。読書が趣味と言うと、リップサービスか話題作りか、「おすすめの本ある?」と大体聞かれるのですが、その経験のせいか、「最近、おもしろい本が無くて・・・」と大嘘をついてその場を逃れるようになりました。「件」を薦めた男性に「僕にはよく分からなかったよ」と言われた小川さんの気持ち、良くわかります!お気に入りを否定されるということは、私という人間が否定されることでもあるのだなあ。
さて、小川さんの思い入れのある短篇を集めた本。読んだことのない作家さんが多数で、新鮮でした。本編も良かったですが、小川さんの解説もまたステキで、惚れ直してしまいました。今年は小川イヤーにしようかしら!
印象に残ったのは、以下の作品たち。
「押絵と旅する男(江戸川乱歩)」押絵の中に入ってしまった男という、奇想天外な発想。男の作り話だと言われた方がまだ納得できる。
「兎(金井美恵子)」血と臓物の匂いに満ちた作品。その匂いを嗅いだなら、どの少女もウサギの皮をかぶらずにはいられないに違いない。
「みのむし(三浦哲郎)」暗くて寒い。悲しいというよりも寂しい。ここまで絶望的な話を久しぶりに読んだ。
「力道山の弟(宮本輝)」男の子の素直さが本当にかわいらしい。対比して、大人たちの諦観が浮き彫りになっている。
「雪の降るまで(田辺聖子)」乃里子を彷彿とさせるような奔放な女性。私は、田辺さんの書く女性が、責任の上に成り立つ自由を実現させているところがうらやましいのだと思う。これを、本当の自立と呼ぶのではないだろうか。
「お供え(吉田和子)」斬新な切り口。途中までわけがわからなかったのが、だんだんと意味がつかめてくる。不気味なものが、恐怖へと変わる過程。
「花ある写真(川端康成)」名言だ!看護婦さんの名言にやられました!
現代の小説よりも、一昔前の小説の方が、なんだか変な物語で斬新だなあと感じました。全く掴みどころがなかったのが「過酸化マンガン水の夢(谷崎潤一郎)」。これは最初から最後まで「???」でした。笑。


「くれる方も、貰う方も、医者から申しますれば、ただの卵巣で――――――どの女のものでもございませんのでしょう?」


「聖女の救済」

東野圭吾/文藝春秋

男が自宅で毒殺されたとき、離婚を切り出されていたその妻には鉄壁のアリバイがあった。毒物混入方法は不明のまま。湯川が推理した真相は、虚数解。理論的には考えられても、現実的にはありえない。

ありえないっ!そんな、草薙刑事が人妻に恋なんてっ!・・・と、驚くほどのモンでもなかったなー、と安心(ひどい)。私の中の草薙ポジションって湯川の引き立て役なんです。地味なんです。
いつのまに、湯川と草薙が仲たがいを?てな感じで、ブランクを感じました。もう一冊の方で何かあったのでしょうか・・・?とっても仲の良いお二人なのに~。40代独身同士で仲睦まじいとくれば、もう、腐りかけの目線で見てしまうのは仕方ない!やむをえない。笑。
薫さんを本で読むのは初めて。テレビでのイメージとは違いますねー。テレビでの薫は理論的な湯川との対比のせいか、感情的な面が押し出されているイメージでしたが、小説の薫は、もっと理知的で冷静だなあという印象でした。女性の直感や、憶測を交えることもありますが、観察眼は鋭かったので。できる女は私大好きですので、今後活躍が増えると嬉しいなあ。
犯人が冒頭で判明する古畑(コロンボ?)方式で、メインはHOWの部分になってきます。どうやってコーヒーに毒を混入したのか?うーん、これは難しいのでは・・・。という気もしますが、1年というリミットがある前提なら、こんな犯人の心理もありえるのかなあ・・・。とにかく、被害者の男性の考え方(子供を産めない女性に意味はない等)からして共感できない。不倫の相手も、犯人にも、前の恋人にも共感する部分はなかった。タイトルの意味は最後に明らかに。一体誰が聖女なんだろうと思っていたので。しかし、相手の命が自分の手中にあるという優越感は、とても背徳的な感じがするので、聖女という響きがしっくりこないです。邪悪じゃん。笑。
福山雅治とのちょっと無理のあるコラボレーションは、正直蛇足だとしか言いようがありません。残念だった・・・!



「僕は君のことを、感情によって刑事としての信念を曲げてしまうような弱い人間ではないと信じている」
湯川先生、かっこいい!と初めて思った。笑。


「断章のグリムⅢ&Ⅳ」

甲田学人/アスキー・メディアワークス

泡禍解決の要請を受け、蒼衣たちは神狩屋がかつて暮らしていた海辺の町を訪れた。そこで、彼らは神狩屋の婚約者だった女性の妹・海部野千恵に出会う。婚約者の七回忌を明日に控え、悪夢の泡は静かに浮かび上がる。

ここから、上下巻構成になってますねー。今回のモチーフは人魚姫。
私は、人魚姫の王子が大ッキライでねえ。幼心にそんな男、刺しちまえ!って思ってましたねえ。笑。今回、神狩屋さんがめった刺しにされたのも、そんな私の呪いが届いたかのようです。違うけど。
いつも温和で冷静だけれど、どこか謎めいた神狩屋さんの過去が明らかになります。題材として取り上げるのが、予想より早くてびっくりしました。あとは、颯姫や夢見子ちゃんが残ってますよね。葬儀屋の2人の過去も気になるところです。
いやー、今回もエグかったですねえ。(褒め言葉)泡でだんだん溶けてゆく~。歯磨きしてて、口の中のもんが出てきたら、そら発狂しますわー。泡禍が、町全体に及ぶほどの規模だったということもあって、犠牲者の数もなかなかのもの。登場人物たちの壊れっぷりもなかなかのもの。いつものことながら、普通の感覚を持った蒼衣が、逆に浮いているという状況に・・・。不憫。笑。でも、誰よりも壊れているのは、やっぱり神狩屋さんなんだなあ。泡禍と元の人格を切り離して考えて、泡禍をただの現象としてとらえる・・・ようになったとはいえ、泡禍をモチーフに当てはめて考えるという作業をする上で、やはり人格を全く無視することはできないと思うのですが、これいかに。あくまでその作業(泡禍に対する共感・理解)が必要なのは蒼衣だけで神狩屋は無関係という感じかしら?
潜有者の正体にも驚きましたが、千恵ちゃんがまさかそんな・・・!という壊れっぷりもすごい。こ、こわっ・・・。海部野志弦・千恵姉妹の存在感におされて、雪乃・風乃の活躍の場が少なかったのが残念でした。
年明けてから、タンシチュー食べに行きたいねえって話をしてたんですが、この話を思い出すと、何だかもやっとした気分になったよう・・・。


「馬鹿馬鹿しいロマンチストだわ」

「可哀想な男」