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読書の記録です。

「黒猫の約束あるいは遡行未来」

森晶麿/早川書房

仏滞在中の黒猫は、ラテスト教授からの思想継承のため、イタリアへある塔の調査に向かう。建築家が亡くなり、設計図すらないなかでなぜか建築が続いているという“遡行する塔”。だが塔が建つ屋敷の主ヒヌマは、塔は神の領域にあるだけだと言う。一方、学会に出席するため渡英した付き人は、滞在先で突然奇妙な映画への出演を打診される。

文庫は買ってあるんだけど、買った本より図書館の本を優先させてしまいます。私のような人間にとっては、アクションを起こすには期限が必要なのです・・・。それにしても、森さんは続々と作品を出されてますね!気になるものが色々あるのですが、これは追いつかないな~。笑。
ラテスト教授の容態の悪化が進むなか、思想継承の一環としてイタリアの塔の調査を依頼された黒猫。この塔は、建築家の自殺により建設が途中だったのだが、最近になって塔が成長しているようなのだ。今はヒヌマという日本人の所有物となっている塔は、個人の敷地内にあり、第三者が勝手に侵入することはできない。さらに、この建築家は設計図を引かないことで有名で、彼が亡くなった今、建設を続行することは不可能なはず。黒猫はマチルダと共にイタリアへ向かう。リモーネ祭でにぎわう街中で、黒猫は成り行きから映画に出ることになった付き人と再会する。
第一部はマチルダ視点。第二部は付き人視点です。
塔の謎はおもしろくてスイスイ読めました。で、この塔が、ラッパ型に下に向かっているそうなんですけど、形がイメージしにくかったです。塔が勝手に成長するわけないんで、勘違いか錯覚か・・・という私の予想を裏切って、実は塔の設計自体が第三者の手によるものだったという結論に落ち着きました。付き人が出演することになった、映画の監督の話も関わってきます。この映画はトッレ監督が初恋の人に、15年後に撮るように言われた作品だったのです。そして、その初恋の人とは・・・。お屋敷の人々の謎もなるほどーではあったのですが、小手先で終わらせた感があって残念でした。黒猫シリーズの魅力といえば、黒猫のわけのわからん美学講義と情景の美しさ、色彩の鮮やかさ・・・といったところだと思うんだけどな・・・。
気になる二人の関係はちょっと前進。しかし、寝ぼけたフリしてキスするなんて、黒猫って精神年齢低いの?と呆れてしまいました。付き人も付き人で、キスされたのにものすごく冷静で不気味でした。好きな人にキスされたんでしょ?もっと、こう、うわーっとならないかい?と思ったのですが・・・。笑。私がおかしいんでしょうか・・・?ちょっとこの2人の不器用さ加減がよくわかりません。思わせぶりな仕草だけで、はっきりと言葉にせず付き人の反応を観察する。・・・だから、黒猫はズルいんだっての!日本男子たるもの、決めるときはビシッとキめなきゃ!
マチルダも付き人も、かわいらしいから、黒猫なんかに執着することないのにー。読めば読むほど黒猫の良さがまったくわかりません。最後はいいカップルだね、とコメントしたいものです。笑。


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「花とアリス殺人事件」

乙一/小学館

石ノ森学園中学校に転校してきた有栖川徹子(アリス)。しかし、転校早々クラスメイトから嫌がらせを受けるようになる。彼女の席に呪われた噂があるようだ。そんなある日、アリスは、自分の隣の家が『花屋敷』と呼ばれ、怖れられていることを知る。隣の住人は、不登校のクラスメイト・荒井花(花)だった。

ずーっと前に映画を見たことがあって、内容はよく覚えてないんだけど、たぶんおもしろかった・・・と思う。でも殺人事件とは全く関係のない話だったよなあ・・・。と思っていたら、これはアニメの話だそうで。久しぶりの乙一さんでもあります。
アリスが転校してきて、学校の噂話とか黒魔術っぽい話になってきたところまではおもしろかったです。特に、クラスメイトの男子を痛めつけるところとか。でも、その後に花が登場して、先輩の無事を確かめる・・・あたりから、つまんなかったー。花は、アリスが越してきた家の前の住人で幼なじみの光太郎が好きだったけど、その思いを踏みにじられたと思い込み、彼に復讐する。背中に蜂を入れられた光太郎は、アナフィラキシーショックで病院に運ばれるが、花はこわくて彼の生死を確かめていないのだそう。
そもそも女子に婚姻届を配りまくっていた光太郎は、何を考えていたのか?花のことをどう思っていたのか?無事かどうかを確かめるだけなら、アリスの提案どおり、前の担任教師に聞くとか方法はあるのに、わざわざスパイのようなわけのわからん手段を使ったのも、謎でした。
まあ、それでなんとか光太郎の住所をつきとめた2人は夜まで張り込み。さすがに遅いので、ご飯食べて帰ることにしたら、その間に終電に乗り遅れます。困った二人は、あったかいからという理由で、トラックの下で寝て夜を明かす。・・・なんやねん、その流れ!と心の中で全力ツッコミ。めちゃくちゃな上におもしろくないっていう・・・。しかも、花がトラックに引きずられてると勘違いして大騒ぎしたうえに、トラックを止めてもらって、勘違いやったら逃げるってどうなの?人として最低やん!ちゃんと謝らなきゃ~。
光太郎と再会も果たし、一件落着とまとまっていますが、とにかく面白くない。アニメのノベライズなので、本筋を変えるわけにいかなかったのかな?と思ったり。やっぱり、黒魔術のセンをもっと生かして欲しかったなあ~。あと題名もあかんわー。殺人未遂事件、もしくはイタズラでしょー。ただの青春小説やん。つまらんわー。殺人どころか、トリックもロジックもないし。
アリスの破天荒な性格や、花の不思議ちゃんキャラは好きでした。鈴木杏も蒼井優も好きだったなーと映画の雰囲気を思い出していました。だけどね、(最後にダメ押しで)話がつまらなさすぎ・・・。


「蜂に魅かれた容疑者」

大倉崇裕/講談社

新興宗教団体にかかわる事件で、捜査を指揮していた警視庁の管理官が銃撃された。庁内が緊張に包まれる中、都内近郊の各地ではスズメバチが人を襲う事故が続けて起こる。本庁の総務部総務課動植物管理係の須藤友三警部補と部下の薄圭子巡査は、捜査一課からの依頼で蜂の事故の調査を始める。

ペットのアンソロジーに収録されていた、ヨウムの話のコンビかな?
かつては捜査一課に所属していた須藤だが、頭部にケガを負ったことから、総務部総務課動植物管理係に異動となった。動植物管理係は、容疑者や被疑者の飼っていたペットなどの管理をする部署(だと私は理解しているのですが・・・。違うかも。)。警察博物館の薄(うすき)とともに、蜂の事故調査を行うが、鬼頭管理官狙撃事件から新興宗教団体「ギヤマンの鐘」との関連も浮かび上がってくる。
実際にこういう部署があるのかは知らないですが・・・。コワモテの須藤とタッグを組むのは、天然動物オタクの薄。福家さんとちょっと似た感じのテンポの外し方です。天然はかわいいんですけど・・・、後半まで聞き間違いのボケをかまされると、イラっときちゃうんですよねー・・・。「そんな奴はおらんやろ~」(大木こだま・ひびき)、何回思ったことか。
犯人は蜂の扱いに長けており、煙などで麻痺させた蜂を箱にいれ、現場に放り込みもしくは放置し、覚醒した蜂が人を襲う・・・といった方法で犯行を重ねていた。中には死者が出るケースもあった。犯人の狙いは何なのか?ただの無差別な犯行なのか?夫婦漫才をしながら捜査する2人だが、所轄の好青年・田之倉くんが蜂に刺され重傷を負ったあたりから、シリアスな雰囲気に。田之倉の無念を晴らすためにも、犯人は絶対捕まえる!・・・って、死んでないです。笑。良かったです。
その後、一連の犯行は犯人の誤認逮捕により、養蜂場が廃業に追い込まれたことがきっかけと判明。こんな悲劇を二度と起こさないように。これが、動植物管理係発足のはじまり。えーと、あとは、諸々の蜂被害は実験で、本丸の犯行は1件のみだったようです。いい迷惑だ・・・。さらっと読めますが、最後はごちゃごちゃした感じでまとまりが悪かったのが残念でした。
薄さんの動物ウンチクは楽しいし、人間より動物が好きっていうのもなんかわかるし、魅力的なキャラクターだとは思うのですが、どうにも聞き間違いネタが好きになれませんでした。ボケとアホは違いますからね・・・。そういう観点から、福家警部補寄りな私。


「股旅探偵上州呪い村」

幡大介/講談社

渡世人三次郎の行くところに事件あり。中山道倉賀野宿で若者が、村の名主屋敷の三姉妹の死を予言し果てた。よじれたシダ、滝壷に吊るされた女、モウリョウと化す棺の骸・・・。怪異に満ちた火嘗村を最大の悲劇が襲う!三度笠の名探偵は、すべての謎を解き明かすのか!?

題名だけでおもしろそうだな~と思い、図書館予約。まさか、時代劇モノだったとは・・・。
小さい頃に家を出て、渡世人となった三次郎。世間に背を向け、一般の人々と関わり合うことを避けているが、事件に首を突っ込まずにはいられない。三次郎は偶然行きあわせた村で、殺人事件の犯人にされそうになっていた男の濡れ衣を晴らす。その男・長吉は、主人・善七郎が謎の奇病に侵され、宿を追い出されてしまったのだ。善七郎から、自分が死んだら、村に残してきた妹たちが殺されてしまうという話を聞いた三次郎は、善七郎の生まれた村・火嘗村(かなめむら)に向かう。
三姉妹の連続殺人事件とくれば・・・「獄門島」をイメージしていました。他にも、ところどころ横溝正史の作品へのオマージュと感じられる部分があるそうです。地下の隠し洞窟とか「犬神家の一族」っぽい。お姉さんのお初さんがお面かぶってたりとか。
最初に殺されるのは、村の女・お仲。山中にはった縄からぶらさげられた状態で、頭と腕が水につかった状態で発見された。あたりは急斜面で、人が縄を張ることは不可能。さらに、お仲の頭部はひどい損傷を受けていた。次の犠牲者は、三姉妹の長女・お初。お初は病気のため離れで療養中でだったが、大雨による落石で離れごと押しつぶされて死んでしまう。三姉妹の警護を依頼された三次郎は、村の先生(?)慎之丞と連続殺人事件の解明にとりかかる。
「あっしには関わりのねぇことでございます」という言葉とは裏腹に、どんどん事件に深入りしていく三次郎。護衛をしているはずなのに、なぜか自分は犯人を追いかけなければならない。・・・などなど、ミステリーのセオリーを揶揄する場面もちらほら。作者のミステリ愛ですねー。この辺「名探偵の掟」(東野圭吾)に通じるところがありますが、あそこまではっちゃけてません。時々、役者がふっと素に戻る・・・ような感じです。時代劇の登場人物が、突然時代設定無視のミステリ論を語りだしますが、意外にすんなり受け入れられます。おもしろかったけど、ちょっと勢いは中途半端かな?という印象を受けました。
最後のオチは、「438ページもやってきて、結論はそれ?」と言うほどひどいものではなかったような。私は納得しましたし、銅のくだり(ガスとか、シダとか)はなるほどなあと思いました。宗教のあたりは、儀式を見られたら殺さないといけないって、キリシタンってそんな物騒な人々なの?と少々疑問を感じました。あとは、キノコ採りもアリでしょう!
仮面を被ってたり、顔面の損傷が激しかったら、そりゃ入れ替わりトリックを連想しますよ!セオリー通りという安定感もまた、必要なのです。「密室」ってやっぱり恥じらいを感じる言葉なんだなあ・・・。笑。


「それじゃあ、御免なすって」


「鹿の王(上) 生き残った者」

上橋菜穂子/KADOKAWA

強大な帝国・東乎瑠にのまれていく故郷を守るため、絶望的な戦いを繰り広げた戦士団“独角”。その頭であったヴァンは奴隷に落とされ、岩塩鉱に囚われていた。ある夜、一群れの不思議な犬たちが岩塩鉱を襲い、謎の病が発生する。その隙に逃げ出したヴァンは幼子を拾い、ユナと名付け、育てる。

本屋大賞・・・の前から注目していた作品。最近の本屋大賞って、ほっといても売れるでしょーっていう本を選んでますからね・・・。
上橋さんの本は「精霊の守り人」を読んで以来です。色々読みたいんですけど、読書のタイミングを待つことにしたいと思います。さて、今回の主役は男性2人のダブルキャスト。
アカファ出身で、東乎瑠(ツォル)との戦いに敗れ、岩塩鉱で奴隷にされたヴァン。犬の襲撃をきっかけに岩塩鉱にいる人々が全滅してしまい、生き残ったヴァンは、逃げる途中で見つけた乳飲み子と共に逃亡する。道中、足をくじいて動けなくなっていた青年・トマを助け、彼の集落に身を寄せたヴァンはそこでの暮らしに馴染んでいく。一方、オタワル人の血をひく天才医師のホッサルは、岩塩鉱で発生した謎の病の究明に着手する。
2人とも謎の病(黒狼病)に翻弄されます。ホッサルは治療薬の大きな手掛かりとなる生き残り・ヴァンの行方を追うが、雪に阻まれ断念。ヴァンは、ホッサルの存在にはまだ気付いていません。2人の話がいつ交錯するのかも楽しみです。
飛鹿(ピュイカ)やトナカイ・・・家畜と暮らす放牧民の暮らしは大変そうですが、自然と共に生きている姿っていいなあと思います。料理もすごくおいしそうなんですけど、これ、ジビエ料理なんだよなあ。ラムの臭みが~とか言ってる私は、トナカイとか食べれないだろうな・・・。ヴァンはユナと一緒に平穏に暮らしていて欲しかったですが・・・。後半の展開にはハラハラしました。山犬に噛まれたことで、何が体の中に宿ったのか?そもそも、山犬たちは本当に狼と山犬の相の仔なのか・・・。宿った何かから解放される時は来るのか・・・。
医学的に病と闘う医師のホッサル。まだ医療が確立しておらず、東乎瑠の医師たちは半分司祭のようなもの。そんな中で、真摯に病と向き合うホッサルの姿勢がいいなあと思いました。何についても、信念を持って物事に取り組むのは素晴らしいことです。原因究明を続けるホッサルたちだが、オタワル国のある人物が関与している可能性が浮上してきたことを受け、従者・マコウカンの出身である集落に聞き込みに向かう。マコウカンとサエはいい感じになるのかしら?と下世話な想像をした私でしたが、あっという間に離れ離れで肩すかしでした。笑。
下巻では、丸く収まるといいなあと思います。ユナが山犬の仲間入りとかイヤ!政治がからんできたので、お国騒動に発展するのかなーとぼんやり想像しつつ、下巻が回ってくるのを待ちたいと思います。
スイスイ読めますので、普段ファンタジーなんか読まないやい!という人にも読んでいただきたい。ご都合主義な感じもあんまりないですし。