忍者ブログ
読書の記録です。

「ハッピーエンドにさよならを」

歌野昌午/角川書店

望みどおりの結末になることなんて、現実ではめったにないと思いませんか?小説の企みに満ちた、アンチ・ハッピーエンド・ストーリー。前人未到のミステリ四冠を達成した偉才が仕掛ける未曾有の殺意。

どこかで、私は歌野さんのちょっと壊れた感じの描写が好きだ!と書いたと思うのですが、まさにそんな私のストライクゾーンを狙ったかのような短編ばかりが収録された本です。「正月一日、鏡殺し」が大好きな人は必読!
どれも良い感じの後味の悪さ。笑。そうですね、「正月一日・・・」と似たテイストという点で、「死面」が良かった。まさか、自分が殺されるとは夢にも思ってないのですよ!そのふいをつかれた「ごぶっ」がハートにぐっとくるというか。はい。・・・えー、他に良かったものは「消された15番」。お母さんの思考のねじまがりっぷりがステキなのです。よくぞ、そこまで・・・と、感動すら覚えます。あとは「防疫」を。新興宗教だって、悪徳商法だって、「自分だけは絶対大丈夫」と思っている人が最も危ないのです。自分が、こうならないという保障はどこにもない。そう思うと、ぞくぞくしてきませんか?
そう、極端なようでいて、ちょっとしたきっかけで、誰もがこうなるかもしれない。歌野さんの書く、そんな狂気が大好きなんです。ハッピーエンドな物語も素敵だけど、たまにはこんなものもいいですよ。オススメ。
・・・あかん、私の人格が疑われそうやわ・・・。


「中垣だ。中垣進がいけないのよ!次々と誘拐殺人をしでかしたからいけないんだ。事件を起こさなければ捕まることもなかったし、そうすれば野球が中断されることもなかった。いや、殺してもよかったの。でもどうして一人でやめておかなかったのよ。たった一人を誘拐して殺しただけなら、たとえ捕まってもこんなに大々的なニュースにはならなかったわ。ううん、十人殺しても百人殺してもよかった。うまうま逃げおおせていればよかったのよ。それがなによ、のこのこ捕まって。あんたの間抜けさかげんが、うちの息子の晴れ姿を奪ったのよ!」
お母さん、ステキすぎる・・・。




PR

「モップの魔女は呪文を知ってる」

近藤史恵/実業之日本社

深夜のスポーツクラブでひとり残ったスタッフの行動は。希少種の猫を入手するため、バイトをかけもちする女子大生が。小児病棟に配属された新人看護師の前に現れた“魔女”の正体は?謎を洗いたてて事件をリフレッシュ!

続きが出ていてびっくり。意外に続きますね、このシリーズ。
久しぶりに読んだのですが、相変わらず読みやすかったです。日常の謎系ミステリーのような、ほっとした空気が漂っているのですが、時々はっとさせられるような場面もあります。やはり、人間が集うところ悪意が存在するのだなあと感じさせられます。登場人物たちが、それを越えて、もっと先に進もうとする姿が良かったなあ。
印象に残ったのが、「愛しの王女さま」。うちも、ブリーダーから直接犬を買ったのですが、こんな悪どい業者は許せないですね。ニュースでも、流行の犬は、でたらめな交配をして奇形が出たり、遺伝病があったりという報道がありました。モラルの無い業者は言うまでもなく、流行の犬だからとか、茶色がいいとか白がいいとか、犬を選ぶ我々消費者の側にも問題があるのではないでしょうか。もう、どんなでもええやん。
キリコさんの旦那さん、大介(だっけ?)は、この本では登場しないのですが、うまくやっているようで良かったじゃないの。で、また続きを見かけたら読もうと思ったのでした。



「心臓と左手」

石持浅海/光文社

玉城聖子は、十一年前に沖縄で起こったハイジャック事件の人質だった。沖縄にある進学校を見学に行った聖子は、那覇空港で命の恩人と再会を果たす。そこで明かされる思わぬ事実とは?警視庁の大迫警視が、ハイジャック事件で知り合った“座間味くん”と酒を酌み交わすとき、終わったはずの事件はがらりと姿を変える。

しゅ、守秘義務が・・・、という一冊。笑。
優しすぎるエンディングも、座間味くんの最後の粋な一言で、まあ、許せるかなという気持ちになりました。ほんとに上手い。拍手!
ええと、印象に残ったものを。表題作「心臓と左手」。猟奇殺人なシチュエーションが良い。しかし、その目的と利用方法が・・・。「クビツリハイスクール」(西尾維新)のほうが1枚上手。「罠の名前」。警察がコケにされたところがおもしろい。座間味くんの毒舌もなかなか。「沖縄心中」。今、沖縄の米軍基地が問題になっていて、興味深く読んだ。外部の人間がとやかく言うのは簡単だけど、その土地に暮らしている人には生活がかかっている。撤去してしまえば良い、だけの問題ではなく、非常に難しい。だから、先送りにされてきたのかもしれないけれど、なんとか解決できるいい方法はないだろうか。
最後の「再会」は、唯一、残酷な真実だと感じたのですが、それだけに感動も一番大きかったなあ。ただ、短編で許せた優しさを、長編で私が受け入れられるか非常に不安なので、長編はしばらく読めないだろうな・・・。
基本的に、大迫警部と座間味くんの対談形式プラス回想なので、動きはあまりないのですが、毎回おいしそうな料理が物語を彩ります。一夜干しとかホントにおいしそう。おなかがすいてきます・・・。


「わたしは抱きしめた。わたしの心にいつもいてくれる愛を抱きしめた。」


「中庭の出来事」

恩田陸/新潮社

瀟洒なホテルの中庭で開かれたパーティーの席上で、気鋭の脚本家が不可解な死を遂げた。自殺か、他殺か?犯人は?あるいはこれも芝居なのか?錯綜し、増殖する謎のスパイラル。

難しい、という前評判を聞いてから読んだ本。心構えができていたせいか、そこまで複雑であるとは思わなかったかなあ。物語の後半でも言われますが、入れ子みたいな話なんですね。入れ子とか考えなくても、いくつかのキーワードと、中庭の雰囲気だけで一冊読めちゃうのですよ!ね?
それも、恩田さんの演劇シーンの巧みさゆえ。台本とか演出とか、良くわからないですが、恩田さんの書く舞台のシーンは好きなんですよね。女の人の一人語りを描くのがお上手。どこまでが現実で、どこまでが台本なのか。境目がわからなくなってゆくところがおもしろい。不思議なことに、名前が記憶に残らないのです。女優1、2、3とか、脚本家の人とか、そういう役割で登場人物を覚えていたなあ。
錯綜しつつも、最後はきちんと折り合いをつけて話は着地します。いや、たぶん風呂敷ひろげっぱなしだろうなーと予想していたので(失礼)、ちょっとびっくりしたなあ。だって、噴水の話なんか絶対納得のいく説明なんてないと思ってたし。自分の想像力の貧困さに悲しくなるよ・・・。
ああ、「猫と針」のDVDが欲しいなあ・・・。


「あら、あたしたち、今、どの中庭にいるのかしら?」


「名もなき毒」

宮部みゆき/幻冬舎

企業で社内報を編集する杉村は、調査のために訪れた私立探偵・北見の所で、連続無差別毒殺事件で祖父を亡くしたという女子高生と出会う。『誰か』以来、3年ぶりの現代ミステリー。

帰ってきた婿養子。前回より、ぐっと杉村さんの内面に迫っている印象を受けました。なんか、前より彼が幸せそうに見えなくなったというか・・・。むしろ、しんどい人生選んだよなー、ぐらいの気持ちになりました。
全く関係の無さそうな2つの事件が、最後にまとまってゆく過程がきれいだった。いつもはくどい、と思っちゃうんですけど今回は、緻密という印象を受けました。読みやすかったし。
後半の盛り上がりは、少しやりすぎちゃった感がありますね。原田いずみのような人間は、確かにいると思いますけどね。世の中には、想像の範疇を超えた人間がいっぱいいるんだなー、と実感しているところなので。良くわかるかも、うん。ただ、お話自体が地味ーな感じなので、もっと地味ーに終わらせて欲しかったなあと。
大きなテーマとして、人間誰しもが持っている「悪意」を取り上げていると思うのですが、これに関しては、うーん、安易な決着かなという気がします。そういう私が深い考察をしているかというと、そこが痛いところなのですがー。悪意は毒なのか。一概に、「こんな悪い出来事が起こったのは、世の中にはびこる悪意のせいなのだ。これは社会の毒なのだ。」と言い切っちゃっていいものかどうか。じゃあ、あなたには、何かを壊してしまいたいという衝動はないのか。それを悪だと括ってぽいって捨てれるのかな。


「毒ですね」

「は?」

「やっぱり毒だったんですよ」