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読書の記録です。

「ゴールドベルク変奏曲」

五代ゆう/ホビージャパン

妙なる調べは視覚となり、紡がれた幻が現実と交錯した時、“幻奏”能力者オルガの物語は始まる。至高の奏者・文殊の死によって出逢ったオルガと監察官・普賢。“幻奏”が織りなす謎は、やがて意外な真相へと普賢を導いていく。

「一番素晴らしい楽器は人間の声だー」という言葉を聞いたことがあります。一番かどうかはさておき、私も心を揺さぶってくれる、ヒトの声がとても好きです。
本作はそんな歌、そして世界にあふれる音を閉じ込めた一冊。「はじまりの骨の物語」でデビューする前の作品です。
しかしながら、前情報が無ければ普通に新作だと思うレベル。すごいなー。「はじまりの~」は未読なのですが、このクオリティならぜひ読みたいです。
私は五代さんの描く世界観がとても好きでして、今作も旋律で幻覚を作り出す技能が生かされた物語でした。ちょっとSFなところが意外な感じでした。最初はオルガが主人公かと思っていたのですが、実は普賢メイン。弱ってるところとか、こう、母性本能をくすぐられます~。オルガについては、気がついたらたくましくなって、気がついたら美人になっていたという印象を受けました。い、いつの間に!笑。
ラブストーリーとしても十分楽しめます。ライトノベルにもラブストーリーはたくさんありますが、例えば「腕に胸が当たってどきどきする」とか「何かのはずみで女の子を押し倒してしまった。」という描写よりも、ただ二人が見つめあったり相手の事を想う仕草が、艶っぽく感じてどきどきするのです。これは男性と女性の感性の違いというものなのかな。
感動のラストシーンだったのですが、私は「こうあるべきだった世界」なんて見たくないなあ、と思ってしまいました。うーん、うまく言えないのですが、すべてがうまくいった世界が正しくて理想的だ、とは思えないし、道を逸れてしまっても軌道修正する必要なんてないのではないかと思うのです。どんな道を辿って、最後に行き着くのはどこかなんて、行き着いてみなければわからないもので、こうしようああしようと考える事自体本末転倒というか・・・。考えすぎ?
心地よい文章が読みやすく、一気に読破してしまいました。ファンタジーが好きな人におすすめです。


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