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読書の記録です。

「いつも彼らはどこかに」

小川洋子/新潮社

たてがみはたっぷりとして瑞々しく、温かいーディープインパクトの凱旋門賞への旅に帯同することになる一頭の馬、森の彼方此方に不思議な気配を残すビーバー、村のシンボルの兎、美しいティアーズラインを持つチーター、万華鏡のように発色する蝸牛。人の孤独を包み込むかのような気高い動物たちの美しさ、優しさを、新鮮な物語に描く小説集。

動物が主人公かと思っていたので、動物の一人称で物語が進むと勝手に思ってました。登場する生き物たちが物語のモチーフになっているので、主人公といえば主人公ですけど。
「帯同馬」スーパーで試食係をする女といつも試食を食べにくる老女。2人は海苔巻きをきっかけに少し接近するが・・・。遠くへ行ったら帰ってこれないのではないかという恐怖感。ディープインパクトに帯同馬がついたように、彼女にも寄り添ってくれる人が現れたらいいのになあ。あのおばあちゃん、絶対現れないよね・・・。
「ビーバーの小枝」ある翻訳家は亡くなった作家の家を訪れる。手紙での交流はあったが、現地を訪れるのは初めて。作家の息子とその恋人にもてなされ、生前の彼に思いを馳せる。プレゼントにビーバーの頭蓋骨はちょっと・・・ですが、ビーバーの小枝は欲しいです。笑。ビーバー、いいですよねえ。生まれ変わりたい動物BEST5に入ります。無心にダム作りたいですよねえ・・・。
「ハモニカ兎」ある村では、イベントが決まるとカウントダウンのために、ハモニカ兎の銅像に日めくりカレンダーを設置する。代々喫茶店の主人が、カレンダーをめくる役割を果たしてきた。今回は、オリンピックの1種目が村で開かれることになったため、オリンピックの開会式までの日数をカウントする。村で行われる競技が意味不明で、村人も試合を見学したり、競技の説明書を理解しようとするんだけど、やっぱり意味不明。笑。最後には、開会式の日を間違えるという・・・。誰か気付こうよ!無事に競技が行われるといいんですが。
「目隠しされた小鷺」美術館の受付に勤務する女性。美術館には、修理屋のおじさんが訪れるが、彼は目当ての一枚以外は目を閉じて通りすぎるのだ。女性は、彼のために目隠しをプレゼントする。ゆったりと時間が流れていって、最後の鷺救出のくだりは気が抜けてしまった。
「愛犬ベネディクト」僕は妹が盲腸で入院中、ベネディクトの世話を頼まれる。ベネディクトは、ドールハウスの中にいるミニチュアの犬の置物だ。私はこの話が一番好きでした。ドールハウスが好きなので、小物のひとつひとつにうっとりしながら読みました。ミニチュアサイズの手作りの本、素敵です。ベネディクトが、まるで本当に生きているかのように感じられる。妹さんはちゃんと帰ってくるのだろうかと不安になりながらも、早く帰ってきてあげてねと祈ることしかできない。
「チーター準備中」動物園の中の土産物売り場で働く女は、チーターの綴りに含まれている「h」に強く惹かれる。この人がなくした「h」ってなんなんだろう?売店の正面にある授乳室に思うところがあるみたいなので、おそらく赤ちゃんなのかな・・・と思ったのですが・・・。
「断食蝸牛」病気の療養のため、施設に入所している女は、風車の管理人の男とと知り合い、通いつめるようになる。男は水槽でカタツムリを飼っていて、女は虹色に光るカタツムリを見つけ、男にプレゼントしようとする。男が何を考えているのかわからなくて、三角関係なのかなんなのか・・・。カタツムリパンを食べるくだりは、怪しかったです。食べているのは、カタツムリパンなのに・・・。
「竜の子幼稚園」女は、本人に代わって旅をする仕事をしている。首からさげたガラスには、依頼人の思い出の品や人形が納められている。女の弟は、幼少期に亡くなっているが、そのことが彼女に今もトラウマを与えつづけている。旅の途中で同じ仕事をしている男と出会う。彼は、ガラスの中でタツノオトシゴを連れていた。本人の代わりに旅行をする・・・っていう仕事、今流行ってるらしいですね。弟の死の呪縛(?)から自由になったようなラストは、すがすがしい。
穏やかで優しいと見せかけて、突然冷たく突き放されるような物語。小川さんの物語は、やはりクールだ。


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