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読書の記録です。

「蝶」

皆川博子/文芸春秋

インパール戦線から帰還した男はひそかに持ち帰った拳銃で妻と情夫を撃つ。出所後、氷に鎖された海にはほど近い“司祭館”に住みついた男の生活に、映画のロケ隊が闖入してきた。現代最高の幻視者が紡ぎぎ出す瞠目の短篇世界。

私はあまり作家さんの年齢が気になりません。若いから、深みのあるものが書けないとは思わないし、キャリアが長ければ技巧に優れているとも思わない。
だから、「この人何歳!?」って思ったのは久しぶりです。ほんと。例によって、表紙借りなので、どんな話なのか、どんな人が書いているのか、全く知らぬまま。年輪を感じさせる文体と雰囲気、そして選ぶ詩。奥付のプロフィールを見て納得した次第です。これは、いくらなんでも若輩者には書けんわ。うん。
そして、読み手としてもひよひよのヒヨコレベルな私は、この物語をどこに位置づければいいのか、未だにわからないのです。む、難しい。詩にこめられた意味も良くわからず・・・。
全体的に、空虚で、じめじめとした日陰のような雰囲気。子供の暗の部分を通して、大人の後ろ暗い汚さが垣間見える。「妙は清らの」「龍騎兵は近づけり」では残酷な心理を切り取って見せた。「幻燈」では官能的な描写。過激なことを書いているわけではないのに、なぜか濃厚。蜜柑を食べさせてあげるところが、もう、やられました。マイナーな嗜好だな・・・。笑。「遺し文」は青年のほのかな想いが微笑ましく、唯一読んでいて穏やかな気持ちになれました。しかし、あの落としどころは・・・!読後のダメージが大きかったです。めっちゃ落ち込んだ・・・。
そう、物語の落としどころがすごいんです・・・。これが理解できるようになる日はくるのか。


「海側の空はふくらんだ雲が裂けて血を滴らせ、東の空は牡蠣のような夜の色になる頃合いだった。」
一番美しいと思った描写。


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「二枚舌は極楽へ行く」

蒼井上鷹/双葉社

「オレの愛する妻を殺した犯人がここにいる。犯人には密かに毒を盛った。自白すれば解毒剤をやる」袋小路に入った主人公と、思わず一緒になって手に汗にぎる「野菜ジュースにソースを二滴」ほか、12編のミステリー短編集。

表紙のかわいさは2割増。物語の黒さは2割減。
印象に残った短編だけ・・・。

“野菜ジュースにソースを二滴”
巡り巡る疑心暗鬼。毒薬の仕掛けがおもしろかったです。
“待つ男”
最後のオチは微妙だなあ、と思いつつ、途中まではおもしろかった。新境地を開拓しようとしているのかと思わせる1作。
“ラスト・セッション”
オチも何もなかったのがこちら!普通にいい話じゃないですか・・・。路線変更か。物足りない・・・。
“二枚舌は極楽へ行く”
逆にブラックユーモアたっぷりなオチがこちら。色々な可能性を探る過程が良かった。まあ、しかし、そんなに気に病むようなことでもないと思うんだけど。っていうのは、少し冷たいのかな。

前回が小心者なら、今回は女性のしたたかな部分が良く表れていたと思います。あとは、物語同士のつながりを匂わせる描写もありました。私は余計かな・・・と感じたのですが・・・。
うーん、物語にキレを感じないものが多かったかな。残念。


「恋をしよう。夢をみよう。旅にでよう。」

角田光代/ソニーマガジンズ

たのしいこと、うれしいこと、悲しいこと、怒ったこと。ささやかな日常こそがいとおしい。「今日、今、この瞬間」を綴った日常エッセイ。

エッセイなんて、つまらない、とずっと思っていました。「だって、その人の話やろ?私、作品には興味あるけど、その人自身のことに興味なんかないねん。」と言ってきました。昔の読書を振り返ってみても、さくらももこさんのエッセイを2冊ほど読んだくらいです。(当時りぼんっ子だったので)
作品には、作者の品性や人柄、それまでの生き方みたいなものが、どこかでにじみ出ているものだと、今は思っています。作者の人格を認めずして、本を語ってはいけない。本当に大馬鹿者でした。
まあ、そこまで深く考えたわけではないのですが(笑)、そういう心境の変化もあって、ここ1、2年たまに手に取るようになりました。びっくりしたことに、どれもおもしろいんです。この本も、とってもおもしろかった。
エッセイって、共感するだけじゃなくて、そうじゃないよって反発することもある。そうやって、作者と対話したり、その人の思考に直に触れることで、大きな刺激を受けることができる。多くの人には、当たり前のことかもしれないけれど、やっとそういう楽しみ方を会得できたような気がします。
というのも、この本では、著者の角田さんが各章の最後で「あなたはどう?」と問いかけてくれているからです。問いかけに「うーん、私の場合はー。」と瞬間的に考える時間が用意されています。まるで、角田さんと部屋でだべっているような気分になります。
“見た目の占める割合は?”が、一番笑えた。私も、あります。都会に近づくにつれ、「この服ダメ!帰る!着替えるー!」という気分になることは数知れず。笑。小学校のトイレ話は、電車の中で思わず吹いてしまいそうになりました。ストレートな言葉で語られる角田さんの生活は、とても潔いです。「私は本質的に輝けない種類の女なんだろう」としみじみ思いながらも、「心のどこかでは、輝かんばかりになりたいといつも願っていたい」。とってもかわいいなあ、と思います。私も、乙女心を忘れないように、日々かわいいものを愛でていたい。
・・・とまあ、ここまで書いておいて何ですが、角田さんの小説未読でして・・・。こんな角田さんの書く小説、ぜひ読んでみたいと思います。


「εに誓って」

森博嗣/講談社

山吹早月と加部谷恵美が乗車していた東京発中部国際空港行きの高速バスがジャックされた。犯人グループは、都市部に爆弾を仕掛けたという声明を出す。乗客名簿には≪εに誓って≫という名前の謎の団体客が載っていた。

前作に比べて、格段におもしろかったです!
連作としてのポジションがはっきりしていたのが、良かった。今までの事件も、いわゆる実験だった、と言われれば納得できるような気がします。背後に、大きな意思があるってことなんだろうな。
お騒がせ娘・加部谷さんと山吹君が主役でしたが、全然色っぽくならないのが、彼ららしくてとてもいい。そして、萌絵さんがどんどん出てきます。犀川先生を引っ張って、一緒に主役の座を奪いそうな勢いです。さすがの存在感なのですが、少し抑えてもらいたい。クラゲ君は、ほんま地味なポジションでしたね・・・。でも、一言一言が鋭くて好きだなー。
そして、今作はトリックも良かった!森さんと言えば、密室、建物トリックが主流なのですが、こちらもなかなかですよ。短編で、同じようなものがあった気がするのですが、どうだったっかな・・・。
真賀田博士は一体何をしようとしているんだろう?彼女が出てきた(ようなシーン)だけで、文章が研ぎ澄まされます。人心を掌握すると言えば、独裁者みたいですが、そんな小さいことはしないだろうしなあ。続きが気になってきました。S&Mシリーズもそろそろ読み返さないとー。実は最終巻未読です。いや、あの厚さにびっくりしちゃって・・・。


「知るという行為は、情報を自分のものにする。それは明らかに、ある種の支配です。」


「GosikⅡ」

桜庭一樹/富士見書房

「“灰色狼の末裔”たちに告ぐ。・・・」新聞の広告欄に掲載された謎のメッセージを見て、学園を飛び出すヴィクトリカ。彼女と九条一弥は、ある山間の小さな村を訪れる。そこは、ヴィクトリカにとって忘れ難い場所であった。

ヴィクトリカのお母さん話。
森の中の閉ざされた村が舞台です。そそられますね!
誰も彼もが怪しく見える~と思いつつ、モノローグにしてやられました。予想は外れちゃいましたよ。動機は結構、どうでもいいというか、そんなことで・・・?という感じでした。最後は好き放題に荒らしていってましたからね。いやー、あれはちょっとやりすぎでは・・・。トリックはマジックの原理と同じですね。昔、ちょっとかじったことがあるんです。でも、結構好きだな、うん。
ヴィクトリカ嬢が、とにかくかわいい!お風呂好きという好みも発覚・・・(めもめも)。一弥君も、小さなナイトという感じで、かわいらしいですねえ。ほのぼのします。
森の中の不気味な情景や、くらーい、閉鎖的な雰囲気が出てて、そこがすごく良かった。ミステリー初心者さんや、ライトなミステリー読者の方にはオススメできそうです。富士見ミステリー文庫だから、という理由で、敬遠していた時期もあったのですが、こんなにおもしろい作品があったとは。レーベルやジャンルに対する偏見っていけないなあ、と反省しました。可能性を自ら狭めているんだなー。色々手に取ってみないといけませんね!
言い訳なんですが・・・、本当につまんなかったんだもん。「浪漫探偵・朱月宵三郎」・・・。