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読書の記録です。

「煉獄のエスクード ARCHIVES」

貴子潤一郎/富士見書房

魔族と闘う者、人生を狂わせられた者たちの物語を描く、書き下ろし2本を含めた5つの中短編を収める『煉獄のエスクード』待望の短編集。

短編集において、貴子さんは、ミステリーを織り込むのがとても上手だと思います。「眠り姫」を読んだ時は、何故、富士見ミステリー文庫は貴子さんを引き抜かないのか・・・。と首をひねったものです。やっぱりファンタジアの大賞なだけに、マズイものがあるのかなー。
今回も、「誰が魔族か」という謎が、様々な角度から暴かれていきます。字数が限られてると、やっぱり、「WHO」を持ってこざるをえないんだろうなあ。唯一「HOW」をメインに据えているのが「美女と野獣」。なんだか、貴子さんの短編は、ミステリー目線で読むクセがついてしまったようで、これからマンネリ化しちゃったらどうしよう・・・。と勝手に心配しています。
一番おもしろかったのは、「鏡の国のクラウディア一門」。いや、真澄さんファンとしては、ここを押さえておくべきかと・・・。笑。ああ、平和だ・・・。続編があるようなので、一門の隠された実態をどんどん暴いていって頂きたいですね!もうひとつの短編「本日快晴」では、レイニーさんのキャラクターが、私のイメージとは合わず、しっくりきませんでした。若かりし頃のレイニーさん・・・?とも思ったのですが・・・。うーん・・・。
さてさて。表紙のレイニーさんで、この前来日したビヨンセの素肌オンスーツを思い出しました。自信があるのはわかった!わかったから、スーツには、シャツを合わせて欲しいー。男物ならなおさらです。


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「エンド・ゲーム」

恩田陸/集英社

「裏返さ」なければ「裏返される」。正体不明の存在と長年にわたり闘い続けてきた拝島親子。母が倒れ、最強の力を持つ娘・時子が残った。時子の前に現れた男「洗濯屋」は敵か味方か。

超能力者常野一族シリーズ3冊目らしいです。
「蒲公英草紙」も何がなんだか、という内に終わってしまったので、正直良く覚えていないのですが。笑。たぶん、前作とのつながりはそんなに無かったのではないかな。このシリーズ、カバーは好きなんですけどねー。
今回は、前に比べておもしろかったです。やはり、文体は重要だなあと。謎めいた人間関係と、隠された過去に興味をかきたてられます。前は「包む」人が主役でしたが、今回は「裏返す」人。いまいち、この概念が理解できないのは、私に想像力が足りないからなのか・・・!
しかしながら、最後はうやむやのにょろにょろーで終わってしまいましたね。笑。
途中までの盛り上がりはとても上手いのに、物語の落としどころがいまいちだなあ。
戦いに終わりはない。ということで、まだ続きそうな匂いがします。
・・・と書いた後に、ネットを巡ってみると「最終章」の文字がちらほら。「光の帝国」が未読なので、私の知らない暗黙の了解が存在するようです・・・。うーん、続きそうな気がしたのになあ。


「銀の犬」

光原百合/角川春樹事務所

この世に想いを残す魂を解き放つ伝説の祓いの楽人(バルド)オシアン。妖精にしか伝わらない歌の数々をも口伝されたといわれる彼は、相棒のブランとともに、救われぬ魂や悪鬼を竪琴の調べにのせて解放していく。

ケルト民話をベースにしたファンタジー。
私の光原さん作品に対するイメージは「十八の夏」「最後の願い」のミステリー色が強いです。本作がファンタジーだという予備知識はあったのですが、「大丈夫かいな」という心配を持ちつつ読み始めました。しかし・・・これがとても良かった!
若干謎解きの部分はあるのですが、素直なストーリー展開で、ミステリーとしては物足りないですが、ファンタジー風味を損なわない加減で良かったと思います。前から透明感のある文章だとは思っていたのですが、さらに磨きがかかっています。幻想的な森も、のどかな田園風景も、鮮やかな色を持って目の前に浮かんできます。
情緒たっぷりなのですが、最後の最後のヤマ場で、ブランが亡霊に状況説明をしてあげるところで、ちょっと萎えてしまうのが残念!大枠は理解できるので、細部は読者の想像に任せた方が良かったのではないかと。「実は、誰々はこう思ってて、こういう行動をとってー」という説明は、この物語では無粋だなあと感じました。
ほんの小さなすれ違いから離れ離れになった恋人達。傍から見てると簡単なようでいて、いざ当事者に回ると、すべてを解決する魔法のような「たった一言」がなかなか伝えられない。もどかしくも、優しくて美しい物語たちです。猫スキーとしては、トリーの出番が増えそうな続編が楽しみです~。


「独白するユニバーサル横メルカトル」

平山夢明/光文社

メルカトル図法によって書かれた地図による独り語りという奇抜な手法を用い、幻想ホラー小説として高い完成度を誇る表題作をはじめ、生理的嫌悪感を感じさせたら随一の著者が、奇想を駆使して読者に襲いかかる。

どこかでも触れたのですが、私はホラーが苦手です。
なぜかというと、読後に残るものが「気持ち悪い」ものしか無いからです。「だから何?」と言いたくなる結末がほとんどでした。
ところが、この作品は読後に鳥肌が立ちました。余韻を噛み締めていたい。ホラーで感動したのは初めてです。という事実にも感動しました。
感動と言っても、何か教訓めいた事が書いてあるわけでも、涙が出るような良い話なんて一つもありません。人の体が物体のように切り刻まれ、皮が剥がされ、ウジ虫がたかるような話です。時々思い出したように性器の話が織り込まれ、通勤電車の中で読むのは大変危険な作りになっています。生理的嫌悪感という言葉がぴったり。人によっては、全く受け入れられないでしょう。
でも、眉をひそめながらページをめくっていくと、時々不思議と穏やかな気分を感じている。それはオメガが「お母さん」と呟くシーンであったり、殺人鬼が少女の手を握り締めるシーンだったりします。そして、その瞬間をうらやましくも感じる自分がいるのです。
一番のお気に入りは、表題作「独白するユニバーサル横メルカトル」。切り口がおもしろい。そして何より地図の執事口調がツボでした。か、かわいい!次点は「Ωの聖餐」「無垢の祈り」。「オペラントの肖像」「卵男」は、どちらかというとSF的な要素の方が強いかもしれません。一番残酷なのは、一番最後。
吐き気を催すような精緻な描写。物語の中に塗り込められた絶望と、そこに浮かぶ一欠片の希望。倒錯した世界を、ぜひご堪能頂きたい。


「輝石の花」

河屋一/富士見書房

田舎の村に暮らす少女ベルネージュは穏やかな日々を過ごしていた。しかし突如村は“黙”によって滅ぼされ、幼なじみの少年カッサはベルネージュをかばって傷を負う。半年後、孤児院で暮らすカッサの身体に“黙化”の兆候が現れる。

表紙や挿絵が、ベルネージュを前面に押し出した感じだったので、てっきり彼女が主人公かと思っていたのですがー。カッサもがんばっていたので、表紙に登場させてあげれば良かったのに・・・。
物語の方は、ファンタジーな世界観が素敵だったと思います。
五竜、輝石、歌い手、雪月花、妖精。どれも物語を彩る魅力的な素材です。ただ、残念なことに、盛り込みすぎてぼやけてしまっているんですね。特に、題名にも使われている「輝石」は重要な概念だと思うので、読後に「結局輝石って何なの?」と思われたらダメなのでは?輝石を使う時に、五竜の存在を感じるあたり躍動感があって良かっただけに、おしい!
話変わって登場人物たちですが、悪役以外は魅力的でした。特にベルネージュの繰り返して言う喋り方。自分に一回言い聞かせる感じの喋り方をする知人が思い浮かんで、おもしろかったー。カッサは後半だんだん男前になってー!って感じだったんですけど、最後はベルネージュより成長遅れたまんまなのかな、と思うと少しかわいそう・・・。リアーレリとクレオン。リアーレリの葛藤が興味深かった。クレオンは、まあ、ありがちなキャラクターですね・・・。
アジスがもっと魅力的だったらなあ。小さい男だなーとしか思えなかったな・・・。もっとロマンを感じられたら良かったんだけど。
ベストな終わり方をしていると思うので、早くも2巻が出ている受賞作がありますが(笑)、次回作は別の物語を楽しみにしたいと思います。