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読書の記録です。

「ジョニー・ザ・ラビット」

東山彰良/双葉社

マフィアのドンに飼われ、雄としての誇りを胸に生きてきたジョニー・ラビット。いまはシクラメン通りに探偵事務所を構える彼のもとに、行方不明の兎の捜索依頼が舞い込んだ。兎の失踪なんて珍しくもなんともない。だが、単純なはずの事件は思わぬ展開をみせ、やがてジョニーは仇敵の待つ人間の街に・・・。

ウサギの探偵!かわゆい!
・・・と思った私が浅はかでした。冒頭からキメまくるジョニー。あんた、男だね・・・。と呆気にとられているうちに、依頼を受けたジョニーは捜査に乗り出す。その依頼は、雌ウサギのソフィアから弟のテリーを探してもらいたいというものだった。しかし、実はテリーは弟ではなくある宗教団体の関係者だったのだ。やがて、テリーにたどり着くジョニー。事件解決かと思いきや、彼の心の闇を見ることになる。その後、テリーを始め、一帯のウサギが大量死する事件が起きる。どうやら、原子力発電所が関係しているらしい。この原子力発電所をめぐる事件には、ジョニーの元飼い主のドン・コヴェーロを殺した敵が一枚噛んでいたのだ。巡り巡って、敵の懐に入ることに成功したジョニー。仲間割れを画策するも、内部には裏切り者が潜んでいた・・・!
酒と女とタバコと銃と。そして背中に漂う哀愁。ザ・ハードボイルド。・・・実はハードボイルドはちょっぴり苦手。男のロマンというヤツについていけないのさ。人間(しかもマフィア)に飼われたことのあるジョニーは、臆病なウサギたちに苛立ちを感じながらも、人間とウサギの違いについて哲学したりします。人間なんて大嫌い!というウサギもいれば、ジョニーやテリーのように人間とウサギの違いについて考えを巡らすものもいます。人間の書いた本を訳すことが生きがいのウサギもいたり(こいつはおもしろかった)。ウサギもいろいろです。
ウサギは愛が無くてもラビッチ(ウサギの雌のことです。ラビット+ビッ〇=ラビッチ)と行為に及ぶが、人間には愛が必要(一部例外もありますが)。愛ってなに?それは何にもないところから生まれる優しい気持ち・・・。言葉では説明できても、ジョニーにはその気持ちを理解することができないのだ。
・・・というウサギ的哲学はおもしろかったのですが、後半、ラッキーボーイに拾われてからのミステリーパートにはついていけず。ミステリーとしてはちょっと雑かな?という印象を受けました。お前の正体はどうでもいいから、ちゃんとジョニーを看病してやれよ!と警察に怒ってました。笑。もう、そのときには、ジョニーはウサギには見えなくなっていたのだと思います。エピローグはうるうるでした・・・。最後にはソフィアもエディもロイも、みんなウサギじゃなかったもん・・・。ついていけないところもありましたが、物語はきれいに幕を閉じました。
最後まで男の中の男だったジョニー。あんたが次に生まれ変わるときは、きっと人間だよ。


「俺はただ愛ってやつの正体が知りたかっただけなんだ。」

「ただそれだけさ。」





そういえば。
他にもハードボイルドなうさぎがいました。
 スイス銀行にニンジン百本。
(ダ・ヴィンチの「おとぎの国のメメント・モリ(しりあがり寿)」より)
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「華竜の宮」

上田早夕里/早川書房

ホットプルームの活性化による海底隆起で、多くの陸地が水没した25世紀。未曾有の危機と混乱を乗り越えた人類は、再び繁栄を謳歌していた。陸上民は残された土地と海上都市で高度な情報社会を維持し、海上民は海洋域で「魚舟」と呼ばれる生物船を駆り生活する。陸の国家連合と海上社会との確執が次第に深まる中、日本政府の外交官・青澄誠司は、アジア海域での政府と海上民との対立を解消すべく、海上民の女性長・ツキソメと会談する。両者はお互いの立場を理解し合うが、政府官僚同士の諍いや各国家連合の思惑が、障壁となってふたりの前に立ち塞がる。同じ頃、「国際環境研究連合」はこの星が再度人類に与える過酷な試練の予兆を掴み、極秘計画を発案した。

気になっていたSF。上田さんの本も色々気になってます。
分厚い上に、上下2段組!つまんなかったら、拷問だな・・・と心配していましたが、全くの杞憂でした。とてもおもしろかったです!
ざっくりとした世界観は、海面上昇により、ほとんどの陸地が水没した未来の地球が舞台です。限られた陸地で人類が生きていくには、海に生活の場を求めるしかなく、そこで海上民が生み出されます。陸上民と海上民に分かれての生活は、陸上民の政治の駆け引きなどにより、徐々に均衡を崩していくことになります。次の変異が起こることが発覚し、両者の溝は決定的なものとなる・・・。主人公は、日本政府の外交官・青澄(あおずみ)。海上民のトラブルを解決するのが彼の仕事。陸上民が増えすぎた海上民を駆逐し始め、これを阻止しようと独自に動き始めます。・・・が、途中で地球の環境がまたもや大きく変わることが発覚し、今度は人類滅亡を防ぐことも視野にいれた活動になっていきます。果たして人類滅亡は阻止できるのか?ってな感じです。
入り込むのに少し手間取る世界観ですが、スケールが大きくて魅力的です。大海原を人と魚が歌を歌いながら悠々と渡っていく様は、とても美しい光景だろうなあと思いました。物語の重要な役割を担うことになる魚舟。魚舟って、すごく不思議な存在です。海上民のパートナーとして産まれるけれど、すべてがパートナーと再び巡り会えるわけではない。他にも、諸事情により1匹で生きていかなければならなくなった魚舟たちは、野生化して獣舟になり、時には上陸して人を襲うこともある。獣舟は進化し、物語後半では驚くべき秘密も明かされます。魚舟は陸上民が海で生活するために作った存在だけど、もう陸上民が制御できないような状態になったら、殺戮するって勝手だなと思います。実際に、どんなに環境が変わっても、人が本当の意味で協力しあうことはないだろうなー。悲観的だけど・・・。
政治上の駆け引きがメインで、そんなにドンパチはしてないです。・・・が、どうしてタイフォンが死んでしまったのか・・・。生きようという執念が見えた瞬間だっただけに、残念。ザ・海の男って感じで好きな登場人物でした。実際の会話でも駆け引きで、頭の中でも駆け引きで。未来の官僚はどれが本当の自分かわからなくなりそうで大変そうです。精神分裂とかになりそう。
地上民には、脳に人工知性体がパートナーとして埋め込まれ、人間をサポートしています。海上民にとっての魚舟のようなものなのかな、と思います。魚舟と人工知性体、全然違いますけど、常に寄り添ってくれるもうひとりの自分のような存在がいるってうらやましいなーと思います。
人間って、救いようがないくらい貪欲な生き物だと痛感させられました。こんな過酷な状況でも、あらゆる手段を使って生き延びるなんて、ゴキブリ並みにしぶといですよね。人間という種族は絶滅するかもしれない。けれど、第3の人類(もう魚類に近いかも・・・)のルーシィが生き延びるかもしれないし、もしかしたら、マキたちが別の惑星にたどりついて、新しい人類を生み出すかもしれない。どちらにしても、人類のひとかけらは残るのだ。
人類(すくなくとも人という形態)が滅亡する、という局面にあったとき、自分がどのような選択をするのかわからない。けれど、ひとつだけ。ルーシィにはならない、と断言できる。


「だからおれは、人間という奴が大嫌いなんだよ」

「自分の罪を平気で他の生物になすりつける。いいか。本当に、本当に、彼らはただ生きようとしているだけだ。」


「感染遊戯」

誉田哲也/光文社

捜査一課殺人犯捜査係のガンテツこと勝俣・倉田・葉山がそれぞれ担当した殺人事件。事件の規模も様相もさまざまだが、共通している点が、ひとつあった。それは、被害者の個人情報を、犯人は何らかの手段で手に入れているらしきこと。事件の背後には何があるのか・・・。

しまった、またやっちまった!「インビジブル・レイン」が先だったか!
・・・読んでしまったものはしょうがない。インビジブル・レインも映画で見たので、まあ、いっか・・・。と言いつつ、今回は自信を持って選んだだけに、ちょっとショック。
連作短編集、と見せかけて大きなひとつの物語としてまとまっていました。お見事!今回は、玲子主任の出番は少なく、お下品なガンテツ、子供が殺人犯になってしまった倉田、姫川班解体後のノリが主人公です。オヤジ祭りです(ノリはまだ若いかー)。
第一話では、製薬会社サラリーマン殺害事件。事件発生後、しばらくしてから犯人が警察に出頭してきたが、黙秘を続けている・・・。実は人間違いで、官僚である彼の父親がターゲットだったという話。第二話は、倉田が刑事を辞める前の事件。通り魔殺人事件と思われたが、実は被害者の男女は外務省の役人と愛人だった。かつて彼らにはめられた記者が、恨みを晴らすため犯行に及んだ。第三話は、老人同士のケンカの背後にあった意外な動機。ここで、読む順番を間違えたことに気付く。第四話は、総まとめ。一連の事件から官僚の個人情報を流しているサイトがあることにたどりついたガンテツたち。関係者をつなぐものとは?
非加熱製剤によるHIV感染や、年金問題、官僚の殺傷事件など、5・6年前?(もうちょっと前かな?)の社会問題が取り上げられています。外務省がホンマにクズみたいに書かれてて、大丈夫なのかしらーと思いました。ゴムボートで亡くなってた方もいましたよね~。あれ、なんだったんでしょうね~。
倉田のその後も出ていました。かわいそうな人だよね、倉田・・・。彼女が殺して欲しいって頼んだのかもしれないけど、ダメだよ!そんなの理由にならない!だから、息子のことは特にかわいそうだとは思わないんだ・・・。倉田さんの「殺人は選択の問題」説には納得です。後半のすさんだ倉田さんもなかなか良いです。まあ、倉田さんも罪を犯しているので、幸せにはなれないか・・・。
最後は、スペシャルドラマの方が好きだなあ。悟っちゃうより、恐怖に怯えて欲しいというか・・・。自分は手を汚さないで、人の気持ちを操って復讐を果たすなんて、卑怯だよなー。私は社会に対する漠然とした不安や不満があるだけで、明確な恨みはない。だけどもし、政府や社会なんて捉えどころのないもののせいで、自分の大事な人が亡くなってしまった場合、一体何に怒りをぶつければいいのだろう?裁判で勝ったって、何かの罪で悪い政治家や官僚が捕まったって、彼らにとっては大きなダメージではないし、失われた命は戻らない。そこで、殺人という手段をとる人がいても少しも不思議ではないと思う。
結局、殺意が巡り巡って、自分のところに還ってきたようなもので、ガンテツと一緒に何だか徒労感を感じました。他人を巻き込むからこういうことになる!最後のガンテツと玲子とのやりとりに和みました。仲良しじゃないけど、張り合いのあるライバルってとこですかね。そうそう、いつの間にか玲子さん本庁に戻ってたんですね!だめだ、もう時系列がわからない~。
JTのサイト内(ちょっと一服広場)で、姫川玲子シリーズの短編が読めますよー。


「きょうの猫村さん5」

ほしよりこ/マガジンハウス

心もときめき、お肌もピカピカ、綺麗になった奥様の美の秘密は、もしや岸先輩との恋のフェロモン効果? 一方、宿命のライバル久との頂上決戦に臨んだ尾仁子。矢も楯もたまらず現場に助っ人よろしく乗り込んだ猫村ねこは、思わぬアクシデントに巻き 込まれ、人生(猫生?)最大のピンチに。

岸先輩が何やらちょっかいを出して、奥様の心も穏やかではない様子。同級生のお母さんって、結構な年上。・・・アンタは綾部かっ!
今回の大事件は、尾仁子の集会ですかね。久との対決に負けた尾仁子は、五月雨連合の解散を決意することになります。・・・どうでもいい・・・。
スケ子に未練たっぷりな旦那さま。スケ子のお店って、犬神家の近くだったのか!徒歩で行けるくらいだし・・・。なんてしたたかな女・・・。
また、スキャナーをひっぱりだして、あれこれやってみました。うーん、私もスキャナーもパソコンもロートルなので、これが限界ですー。ナナメだったり、歪んでますが、お許し下さい・・・。
自己紹介風に編集してみました。

①村田家政婦、猫村ねこ!ヨロシク!
 

②歌が好きです!


③芸達者です!


③自然に溶け込めます!
 


④お毛毛の手入れもバッチリです!
 

ああ、猫村さん、かわいすぎる・・・。笑。


「体育館の殺人」

青崎有吾/東京創元社

放課後の旧体育館で、放送部部長が何者かに刺殺された。外は激しい雨が降り、現場の舞台袖は密室状態だった。死体発見現場にいあわせた卓球部員・柚乃は、嫌疑をかけられた部長のため、学内随一の天才・裏染天馬に真相の解明を頼んだ。なぜか校内で暮らしているという、アニメオタクの駄目人間に・・・。

鮎川哲也賞受賞作品。受賞時は現役大学生だったそうです。(現在は卒業)若いな~。
殺人事件の舞台はある進学校の体育館。放送部の部長が遺体で発見される。旧体育館に早めに到着しており、なおかつ殺害の機会があるのは卓球部の部長だけだった。部長の無実を信じる部員の柚乃は、学校のテストで9科目900点満点・首位の裏染天馬に事件の解決を依頼する。
ロジック重視のミステリ。動機も一応はありますが、動機からのアプローチは難しいと思います。私は普段動機とか、怪しそうな雰囲気から犯人を予想する読み方をしているので、純粋にロジックだけで犯人を当てるのは難しいな!と思いながら読んでました。現場の証拠から、犯人の条件を洗い出し、消去法で犯人を追いつめていくラストはわくわくして一気読みでした。
しかも、ロジックもシンプルで、理詰めとしては弱いという指摘もありましたが、非常に理解しやすかったですし納得がいきました。私は、外部関係者のセンを全部消す方に注力しても話がくどいだけなんで、一定の説明があれば、あとは暗黙の了解で(犯人は関係者の中にいるという)進めちゃっていいんじゃないかなと思います。ゆるい性格全開ですね。笑。
キーポイントは傘・リモコン・リヤカー!舞台装置も普通の体育館で、上に放送室の小部屋があるっていう・・・懐かしい!誰でもぱっと思い浮かべられる小道具を使っての謎解きが、いいなあと思いました。特に、傘からあれこれと推理をめぐらすのは、おもしろいなと。傘は犯人があらかじめ用意したものなのか?わざと置いていったのか?傘が置かれたポスターの絵の具がにじんでいなかったことの意味するところは?リヤカーはちょっと苦しいですが・・・。あれしかないかー。
裏染天馬のキャラクターについては賛否両論あるようですが、私はもうどうでもいい感じです。(←ひどい)これが、仮にミステリ部分がズタボロだったら(受賞してないけど)、天馬のアニメオタクキャラはおかしいとか、学校に住んでるなんて無茶やろとか、関係者の兄が警察って・・・とか、まあ、色々つっこみまくってたと思います。でも、そんなのどうでも良くなるくらい謎解きがおもしろかったので、多少キャラクターの演出が過剰でも特に文句はないですね。ポアロだって叫びながらカボチャ投げてたし。笑。いいんじゃないの、アニメオタクでも。
エピローグで意外な真相が・・・と同時に、私にとっての一番のつっこみどころが。
生徒会長ってそんなに魅力的な役職でしたっけ?毎年、生徒会選挙のときは、「こんなめんどくさいことをやりたがる人がいるなんて!」という驚きでいっぱいでした。そんな学生でした(遠い目)。