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読書の記録です。

「宵山万華鏡」

森見登美彦/集英社

祇園祭宵山の京都。熱気あふれる祭りの夜には、現実と妖しの世界が入り乱れ、気をつけないと「大切な人」を失ってしまう。様々な事情と思惑を抱え、人々は宵山へと迷い込んでいくが…!?

人ごみが苦手な私は大人になってから、自然とお祭りから足が遠のきました。お祭り前夜のどきどき、お祭り最高潮のわくわく、お祭りが終わった後のさみしさ。しばらく触れていなかったお祭り気分を一通り味わえた一冊でした。
「宵山姉妹」姉妹がお祭りではぐれ、妹がこの世ならざるものに、かどかわされそうになったが危機一髪でお姉ちゃんが助けたぞ。やる時はやるぞお姉ちゃん!という姉妹愛の物語。ですが、実は色々な話の伏線になっています。私は妹寄りな性格なので、お姉ちゃんのフリーダムな振る舞いが非常にうらやましかったです。
「宵山金魚」藤田さんが、宵山の夜に不思議な体験をする。孫太郎虫とか、超金魚とか、「夜は短し歩けよ乙女」を彷彿とさせる、めくるめくこの世ではないかのような世界。このままでもおもしろかったのですが、次の章でおもしろさ2倍に。うまいなあ、森見さん。
「宵山劇場」前の章の種明かし編。あの、不思議な世界は、実は壮大なドッキリだったというオチ。ゲリラ演劇「偏屈王」を手がけた小長井と山田川が活躍していて嬉しかったなー。とにかくみんなが楽しそうで、一番好きなお話です。孫太郎虫は創作かあ。良かったあ・・・。
「宵山回廊」宵山の夜は心が騒ぐ。私の従姉妹は宵山の夜に失踪した。あれから何年後かの祇園祭前夜、叔父は私に別れを告げた。雰囲気は一変し、物語は「きつねのはなし」のようなしっとりとした雰囲気をまといます。叔父さんは、宵山に娘を見つけたと思っているけれど、実はこの世ならざるものに連れていかれたのかもしれない。
「宵山迷宮」前章の柳さん視点の物語。同じ日を繰り返す、という話は結構あるので、目新しさは無かったかなと。万華鏡は果たしてお祭りアイテムなのか、という疑問が。やっぱり、儚く寂しい気持ちになるお話。私は森見さんのコミカルな描写が好きなので、この2話は好みでなかった。
「宵山万華鏡」1話のフリーダムお姉やんサイドのお話。視点が違うだけで、話自体は流れがほぼ一緒だったので物足りなかった。しかし、もし手を離すとどうなるか答が提示された後にもう一度読むと、お姉ちゃんグッジョブ!という気持ちが一層強くなった。素晴らしき姉妹愛。
ちなみにカバー絵&扉絵が野生時代で連載していた「本日は大安なり(辻村深月)」の扉絵と同じ人が描いてるのでは・・・。と思ったのですが、雑誌捨てちゃったので確認がとれず。ステキな装画です。


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「扉守」

光原百合/文藝春秋

瀬戸の海と山に囲まれた懐かしいまち・潮ノ道にはちいさな奇跡があふれている。こころ優しい人間たちとやんちゃな客人が大活躍。

久々の光原作品。目立つ作風ではないのですが、なんともいえない味があって、時々読みたくなるのです。
尾道をモデルにした架空の街・湖ノ道を舞台にしています。「てっぱん」を見ているため、すぐに分かりました。「がんぼたれ」で。
「帰去来の井戸」まだ舞台のイメージを掴めていなかったのですが、幻想的で優しいお話でした。魂になっても戻ってくる、そんな故郷を持てることって幸せだなあと思います。
「天の音、地の声」青空劇場っていうのがおもしろい。ただ、劇自体の雰囲気や描写は恩田さんの方が一枚上手ですな。
「扉守」「セルベル」の店主も良いのですが、一番は犬が、犬のストラップがかわいい!このあたりから、「あ、ファンタジーなんだな」と認識した(遅い)。
「桜絵師」なので、絵の中に入っていっても驚かなかった。笑。美しい、の一言に尽きる作品。
「写想家」怨念を念写。おネエ言葉といえば、最近武田鉄也のオカマ役を見てから、彼を「鉄子さん」と呼ぶようになった。金八先生と鉄子ママ、定着して嬉しいのはどっちなんだろ・・・。それはさておいて、身にしみる話でした。既婚女性が、独身女性に「自由でいいね」とか「うらやましい」とか言うのはタブーです。好きで独身やってるアラサーやアラフォーはなかなかいないからねー。主婦は大変。でも独身も結構大変なんだよ。
「旅の編み人」編み物がパタパタ飛んでいく様子がなんとも和みます。これまで、何度編み物にチャレンジして挫折したことか・・・。肩こりとかないんかしら。編み物ができる女子、うらやましいー。手作りは重いものですが、中でもお菓子と編み物は重さダントツだと思います。編み物って、怨念こもりやすそうですよね。ひと編み、ひと編み・・・うふふ・・・。
「ピアニシモより小さな祈り」ピアノな話。てっきり静音と神崎の間にラブが芽生えるかと思ったのですが、さらりとスルー。いや、私だったら、こんな王子さまと連弾したらだな、ロマンスの一つや二つ期待しちゃうのに!っていう話じゃないですからね。はい。すいません。いい話でした。


「SPEC Ⅰ」

西荻弓絵・豊田美加/角川書店

通常では捜査の対象にならない“特殊”な事件を取り扱う、警視庁公安部公安第五課未詳事件特別対策係、通称ミショウ。そこに所属する奇妙な女性捜査官・当麻と敏腕刑事・瀬文が、特殊能力「SPEC」を持つ犯罪者に立ち向かう。

ぱったり本が読めなくなってしまいました。睡眠時間だけはどうしても削れないの・・・!
さて、観てると餃子が食べたくなるドラマ「SPEC」のノベライズです。今はまってるもんで、買ってしまいました。私はドラマが好きなので、ドラマのノベライズとしてはアリだと思いますが、小説としてはいただけないですね。やっぱり先に脚本ありきなので、若干ト書き調なのが気になります。なので、結果的にはオススメできない部類に入るかと・・・。
ドラマ好きの目線からでは、内容が忠実に再現されているので、ドラマのおさらいにちょうど良いです。1~3話目はなかなかおもしろかったのですが、4話目は少し崩れましたね。矛盾だらけ・・・。どうなるのかな・・・と心配していたら、5話目は瀬文がアツくて良かったな。当麻の過去なんかも出てきて、やはりおもしろくなってきました。
まとまるか、空中分解するか、紙一重な「SPEC」の世界観。私は気に入っているし、当麻も瀬文も好きなのであと少し追いかけてみようと思います。
それにしても、戸田恵梨香がかわいい。鼻ほじってもノーメイクに近くてもかわいいなんて、ズルイなあと思う。


「あきれてものも言えねえぜ!」

秋田禎信/富士見書房

今日も無能警官に振り回される日々。
「俺の税金を返せー」
えっ、納税してたの?とつっこみたくなる無謀編・第5弾!

「俺に構わず死んでくれ」存在の引き算がおもしろい。自分を貶めていくことで、より強い力を得るという両刃の剣・・・!しかし、冷静に考えれば自分がヒモやらマッチやらになってまで強くなる意味などない・・・。シビリアス婆さんの祈祷がおもしろかったー。
「お前のツラはみたくねえ!」それは別の商売だああああっ!・・・かなーり高く買い取ってくれるのならば、売らんこともない・・・。と考えた私はコギーと目くそ鼻くそ。
「馬鹿馬鹿しいにもほどがある!」ひたすらオーフェンと地人兄弟がじゃれている話。まとめようとすると、びっくりするくらい中身が何も無い!ボルカンが楽しそうだったなあ・・・。
「あきれてものも言えねえぜ!」ファンタジーの世界でも警察には無能がごろごろしているのか・・・!ぶるぶる。派遣警察・・・、恐ろしいところだな・・・!っていうか、オーフェンも牙の塔の一件がなければ、派遣警察に入れるよなあ。
「タフレムの震える夜」プレオーフェン・失楽編。天人の遺品を、間違えてゴミに出しちゃった、うっかり☆アザリー姉さんの尻拭いをさせられる羽目になったハーティアとキリランシェロ。そんなことも、良くある日常のひとコマ。捕獲用って言っても、鋼鉄製のワニに襲われたら、それだけで死んじゃいそうな気がするんだけど・・・。個人的にはマジク君のお母さん編の方が気になります。


「訪問者」

恩田陸/祥伝社

三年前の冬の朝、謎の死を遂げた実業家朝霞千沙子。彼女に育てられた映画監督・峠昌彦の親友・井上は、カメラマンの長田とともに、ある館を訪ねる。嵐に閉ざされた屋敷、真相を追う昔語り、そして新たな訪問者・・・。

恩田節炸裂!な一冊。雰囲気で読ませてくれます。でもって、今回はオチもしっかりついてます。オマケみたいだなあ。結末が丸投げという可能性を第一に想定してますので(笑)。すいません。
主人公・井上は、雑誌の取材と偽って朝霞家にもぐりこむが、実は昌彦の親友であり弁護士だった。彼の目的は、昌彦の遺産相続者である父親を探し出すこと。昌彦は、その家に集った4人の男性(千沙子の兄弟と義理の弟)の中に父親がいると思っていたのだ。しかし、想定外の人物が朝霞家を訪れ、井上は翻弄されることになる。
昌彦の父親は誰か?朝霞千沙子の死、昌彦の死の真相とは?訪問者とは誰のことを指しているのか?殺人者は誰だ?そんな謎が折り重なって、時に鋭く、時に恐怖を伴って読者に問いかけてくるのです。
嵐で孤立する家、1つの死体、まねかれざる客。そして、悶々と考える井上。くすぐられます~。井上は、最初は自分がイニシアチブを取っていたと思ったら、いつの間にか、巻き込まれていたというか。その計算外な展開に抵抗しているのが良い。劇団員の小野寺の飄々としたキャラクターも、憎めなくて好きです。ただ、最後の最後まで胡散臭さバツグンでしたが!湖のくだりは、珍しく現実的な謎解き。
昌彦が残した映画の脚本「象を撫でる」のモチーフとなっている「群盲、象を撫でる」の話がおもしろかった。それぞれが、象の一部に触れて、象という動物のことを分かったような気になる、ということ。これを脚本では、ある人間を理解しようとしても、その一部にしか触れていなければ、その人間の全体は理解できない、というテーマで取り入れています。ううむ、ひとつ賢くなったような気がする!
このまま事件は闇に葬られるのかと思うと、やっぱり読後はぞくりとしました。