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読書の記録です。

「短劇」

坂木司/光文社

たとえば、憂鬱な満員電車の中で。あるいは、道ばたの立て看板の裏側で。はたまた、空き地に掘られた穴ぼこの底で。何かがあなたに、話しかけていますよ。坂木司の奇想短編集。

短編と言っても、ショートショートくらいの短さ。
坂木さんの作品といえば、ひきこもり探偵の偽善さを始め、とにかくいい人が出てくるいい話という先入観がありました。しかし、この本を読んで意外な引き出しにびっくりさせられました。ブラックですな~。説教めいた話がいけない、と言う気はありませんが、少し人間の黒い部分が見えた方が私好み・・・。
さっ、それでは、印象に残った短編をいくつかチョイスしたいと思います。
「目撃者」ベタな展開でしたが、勧善懲悪は、とてつもない安心感があるのです。悪が罰せられて良かった。明日も正直に生きよう!
「ケーキ登場」この短いページ数の中で、群像劇が描かれているところがすごい。いいところで終わってます。年下から告白されるというシチュエーションにヨダレが出そうだなんて、そんなこと・・・。
「しつこい油」怨念に敬意を表したい!そんな性悪女に私もなってみたいもんだ・・・。落としてみたいもんだ・・・。(遠い目)
「肉を拾う」これもSF的ベタさ。しかし、きっちり騙されてしまうあたり、自分は律儀だなあと思います。そっかあ、食用トカゲかあ・・・。そんな未来、いらんわ!
「ゴミ掃除」こんな仕事人がいたら・・・と一瞬でも思ってしまった自分を猛省した。
「物件案内」おばさーん、ぜひ、私にも良い物件を(以下略)。
「壁」恐い~。壁の中に誰か住んでるというオチかと思ったら、こっちの方が恐い~。
「秘祭」ああっ、痛い!自分が死ぬと同時に、恥ずかしい思い出も爆破できる装置はないだろうか。ブログも消滅しないだろうか。
「いて」私のトラウマ映画、プレデターを思い出す・・・。透明って、ほんとこわいわー。しばらく歪みがないか、じっと目をこらしていたなあ。



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「我が運命導け魔剣」

秋田禎信/富士見書房

レジボーンを後にし、ナッシュウォータ市に滞在中のオーフェン一行。次の目的地を決めかねていた彼らは、市内の剣術道場の抗争に巻き込まれる。

ロッテさんだ!最初は大人しそうだったのに、実はおっとろしい女子なのよ~。女難の相が出ているオーフェンは、姉たちを始め、クリーオウやら色々な女性に振り回されているのですが、みんな結構にぎやかであっけらかんとしてますよねー。それが、ロッテさんは静かに恐いんです。きっと、怒らせたら、存在無視される感じですよね。抉るタイプですね。
東部編は、ロッテさんの父親が持っていた剣・フリークダイヤモンドを巡るドラゴン種族と、エド(コルゴン)、ロッテさんの三つ巴の戦いから始まります。ライアンとかヘルパートとか、名前を見ると思い出すなあ。けど、話の展開はさっぱり・・・。
待ってましたのコルゴンが登場!と思ったら、結婚してましたとさ。改めて挿絵を見ると、なかなかのイケメンですよね~。当時はロン毛が駄目で、今も好きではないのですが・・・。それを差し引いても、確かに美形だな、コルゴン・・・。抜けてるけど・・・。ロッテのエドに対する憎しみは、不思議な愛の形だなあと思います。めっちゃ歪んでません?笑。殺したいほど愛してる~。斬られてしまったが!
ライアンがクリーオウに感じたのは、嫉妬だったのかなあと思ったりした。クリーオウはただのお嬢様ではなくて、鋭い指摘もできるし、自分の主張を持った芯の強い女の子だと思う。けれど、恵まれた環境で育った彼女には、人間のあらゆる負の部分を本当の意味で理解することはできないのだ。何故なら、それは体験することではじめて理解できるものだから。今までのように、まっすぐな思いをぶつけてそれで解決できるような相手ではないだけに、クリーオウが揺さぶられています。同時に、レキとの別れの時も近づいているんだなあ。・・・って、マジクの出番が少ない!?笑。薄幸・・・!
しかし、オーフェンも夫婦喧嘩に巻き込まれるなんて、なんてツイてない・・・。


「持っていけばいいわよ!」

「そんなもの、持っていけばいいじゃない!」


「鴨川ホルモー」

万城目学/産業編集センター

新入生の安倍は葵祭からの帰り道、新勧コンパのビラを受け取る。参加したコンパで、早良京子にひと目惚れした彼は、“京大青竜会”というサークルに入部。しかしこのサークルは式神や鬼を使った、通称“ホルモー”を行う奇妙なサークルだった。

ホルモーって競技名だったんですね、ホルモー。ホルモンと響きが似てるもんだから、もっと肉っぽいものを想像してました。物語終盤に、ホルモーのもう一つの意味が明らかになるのですが、最後までホルモーの語源は謎でしたねー。なぜホルモー?
先に「鹿男~」を読んでて、その時は何も感じなかったのだけれど、この本を読んで、すごくモリミー節に似てるなあと思いました。舞台が京都ってのも関係してるんだろうなあ。主人公のやたらと勿体ぶった喋り方も、雰囲気が似てる~。やはり妖怪が似合う町、京都。どんな世界観もどんと来い。顔が絞りの先みたいな鬼だってオッケーさ。京都の懐の広さを再認識しました。
ホルモーという競技を戦うことになった主人公。そう、この物語は、若者が仲間たちとぶつかり合いながら成長し、ホルモーを戦い抜く熱い青春小説・・・!という皮をかぶった恋愛小説です。最後、ほんま甘いですから。一目ぼれ三段構え。
主人公の鼻フェチは、結構理解できる人多いんじゃないかなあ。かく言う私も、指のきれいな男の人に弱いです。笑。フェチズムはみんな持っているもんだ!触りたいと思うのは、自然な欲求なのだ。変態じゃない!
最後に、男たちの熱き雄たけびで締めくくりたいと思いますです。


「ホルモオオオォォォー!」



「新・垂里冴子のお見合いと推理」

山口雅也/講談社

小説家を志し、毎日、原稿ばかり書いている冴子だが、周囲からは次々とお見合い話が舞い込む。それでも、やっぱり、お見合いするたびに事件に巻き込まれ、お相手そっちのけで謎を解くはめに!

とうとう、冴子姉さんの境遇が他人事ではない年齢になってしまいました。 叔母さん、私にもヴェリースペシャルロイヤルグッドな縁談を、ひとつよろしくお願いします・・・(真面目に)。
いつもと毛色が違い、今回の縁談は、お見合いの鉄人が持ってきた縁談ではなく、垂里家の父と娘の紹介。まず、最初の縁談はフロム父。お相手は、優秀な研究員で水族館勤務の青年。ペンギン担当。ペンギンのことになると熱くなりすぎるという難あり。毎度のことながら、事件が起こってお見合いとかうやむやになってしまうのですが、今回は冴子姉さんが一味違うのよ!縁談破滅の運命に立ち向かう決意を固める姉さん。まあ、要するに、積極的に事件解決に動き出すという・・・。駄目じゃん!笑。ネックレスを飲み込んだペンギンが、腹を裂かれて殺害される場面はまさに猟奇的!ショック!しかし、あんまり謎解きにインパクトが無くて残念・・・。ペンギン無念・・・。
お次は次女・空美より。友人・笑窪ちゃんの元彼・東京茶夢(アメリカ人)。なんか読んだことあるなあと思っていたら、「日本殺人事件」の日本オタクの彼ですか!あんまり覚えてないんだけど、最後ねえ、女の人ともやっとした別れ方してたよねえ。あれが笑窪ちゃんかあ・・・。とそっちばっかり気になるったら。「日本殺人事件」はいつか再挑戦したい本のひとつでして、あの日本の文化をからめたミステリーは高度すぎて私、全くついていけなかったという苦い思い出があるのです・・・。今回は、ダイイングメッセージの解決にからめて、漢字のへんとつくりについての日本豆知識。ダイイングメッセージってご都合主義だなあとか、顔がねー、ばれないっていうのはねー、ありえないよねーとか茶々を入れながら読んでました。すんません。むしろ、こんなけしからん刑事の方を不審に思わねばならないのに、さほど不自然に感じないあたり、昨今の警察のだらしなさを再認識するわけです!と真面目にまとめてみました。
結局、2話とも登場人物たちの個性の濃さが際立ちすぎ、事件そのものはさらっと流されてしまったところが残念でした。意外に空美の身勝手さは可愛げがあって、結構好きです。
シリーズ3作目にして、とうとう冴子さんの縁談もまとまるかなあと思ったのですが・・・。小説が書きあがるのが先か、縁談がまとまるのが先か・・・?私が先か、冴子姉さんが先か・・・?


「沈黙博物館」

小川洋子/筑摩書房

博物館専門技師の僕は、老婆の博物館を作るため、ある村を訪れる。老婆の理想とする博物館とは、形見の博物館であった・・・。

小川イヤー作戦を着々と遂行しております。
博物館専門技師・・・という謎の職業の主人公。学芸員のようなイメージで読んでいましたが、立案・改築・展示・管理と博物館全体のプロデュースまで手がけいるので、学芸員の数倍ハードだと思います。
老婆の指示で、形見を収集することになった僕。形見の博物館、というコンセプトがとてもおもしろい。家族ですら、故人に相応しい形見を1つ選べと言われても、困ると思います。ましてや、村に赴任したばかりの僕が、何を形見に盗ってくるのか。はらはらしながらも、その選択に納得したり、殺人鬼の被害者の形見にはぞくりとしました。想像するだけで痛いわ!しかし、このエグいところを綺麗に描写してしまうところが小川マジックなのです・・・!
僕が沈黙博物館を作るかたわらで、沈黙の伝道師見習いの少年の変化、爆弾魔、連続殺人鬼の物語が語られます。特に、少年が沈黙の行に入ってしまうところ、だんだん無口になっちゃうところは、娘さんと同じく私も悲しくなりました。連続殺人鬼の正体は、やっぱりなーという感じでした。しかし、僕が疑われたままでいいんかいな?と思うのですが・・・。うーん、あと「アンネの日記」と顕微鏡の行き先が博物館になるとは。主人公はこの村に骨を埋めるのかしらん。
収集するという行為は、単調な作業のイメージがあったのですが、収集にも分類にも、その人の意思が関係してくるわけで、非常にクリエイティブな作業ですよね、そういう意味では。


「みんな世界を分解したがっている。不変でいられるものなんてこの世にはないんだ」