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読書の記録です。

「MAMA」

紅玉いづき/アスキー・メディアワークス

これは、孤独な人喰いの魔物と、彼のママになろうとした少女の、儚くも愛しい歪んだ愛の物語。

人喰い物語3部作の2作目!挿絵がラノベらしくなりましたねえ。
MAMAでは、魔術師の血筋に生まれながら、魔力を持たない少女・トトと、人喰いの魔物・ホーイチとの話。学校ではサルバドールの落ちこぼれと呼ばれ、両親にも悩みを打ち明けられず、一人ぼっちのトト。ガーダルシアの人喰い魔物として、力を封印され眠りについていたホーイチ。孤独な者同士がひかれあい、依存しあうのは当然の流れと言えるかもしれません。しかし、彼らが「私にはあなただけ」「僕にはキミだけ」と言い合うたびに、何か見えないものでお互いを縛りつけているような・・・。悲しい気持ちになりました。
成長したトトは、外交官として城に入ることになります。そこで出会う末姫のティーランというお嬢さんがかっこいいのです!毅然として、社交界を生き抜いていっているという・・・。トトが自分を頼ってくれないことで、がっかりしたり、怒ったりして、本当にいい友達だなあと思いました。恋の相手となるゼクンもなかなかの好青年。私には、この、追いかけられてる構図というのがたまらんシチュエーションですな。もう、悶え苦しみました。笑。なんて甘酸っぱいんだ!
いつまでも、2人で完結した世界にはいられない。だって、世界は閉じていくものではなく、広がっていくものでしょう?ホーイチが、トトから優しく手を離していこうとするシーンは感涙ものです。
ANDでは、盗人・ダミアンと占い師・ミレイニアの話。2人は同じ孤児院の出で、表向きは兄妹ということになっている。ガーダルシアの秘宝を盗み、赤い耳飾に呪われたダミアンは人喰い魔物・アベルダインの魂を鎮めるため、ガーダルシアの元外交官の元を訪ねる・・・。トトの子供の後日談。残念ながら、トトとゼクンは出てきませんでしたが、息子のホーイチくんがいい男になりそうで良かったなあ。(そこか)ティーランは相変わらず粋な女ですね・・・!棘だらけの女性ってステキ!
自分が守ってあげなければならない存在。同時に、その存在を誰よりも必要としているのは自分。意外とみんな守っているつもりで、守られているのだなあ。


「この名をひとつ。そしてこれからの未来を全て」

「キミに、あげる」


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「きつねのはなし」

森見登美彦/新潮社

細長く薄気味悪い座敷に棲む狐面の男。闇と夜の狭間のような仄暗い空間で囁かれた奇妙な取引。私が差し出したものは、そして失ったものは、あれは何だったのか。端整な筆致で紡がれ、妖しくも美しい幻燈に彩られた奇譚集。

今までの森見さんの作風とは違う感じ?と思わせておいて、細かいエピソードが積み重なっていくところは、いつも通り~なモリミー節がきいていました。では、各話の感想をちょろりと。
「きつねのはなし」天城さんと古道具屋・芳連堂の店主ナツメさんの話。この天城さんという人が、物々交換が好き?な人。人畜無害そうなナツメさんが、意外にしたたかであったことに驚いた。能面もこわいと思ったけど、狐面もこわいなあ・・・。
「果実の中の龍」先輩と結城さんの話。ほら吹きの先輩が愉快だった。でも、嘘の話って、やっぱりどこか悲しい気持ちになるよね。
「魔」剣道少女萌え・・・!
「水神」男4人兄弟の話。私の中で、4人姉妹といえば「木曜組曲(恩田陸)」。4人兄弟といえば「有頂天家族」。森見さんの書く兄弟の関係がステキなのです。
読み終えて一番記憶に残っているのは、雨の匂い。それも、暗い夜にしとしと降る感じ・・・。


「廃墟建築士」

三崎亜記/集英社

ありえないことなど、ありえない。不思議なことも不思議じゃなくなる、この日常世界へようこそ。七階を撤去する。廃墟を新築する。図書館に野性がある。蔵に意識がある。ちょっと不思議な建物をめぐる奇妙な事件たち。

表紙が気に入りました。レタリングっていいなあ。
一筋縄ではいかない作品だと思って読みましたが、予想の斜め上をいく世界観でした。それでは、各話の感想を。
「七階闘争」七階にそんな歴史が!正直、私は躊躇なく十階へ引越しできる女なので、七階護持闘争に参加する面々の熱い思いを共有することはできなかったー。七階と運命を共にした並川さんは、“となり町戦争”を思い起こさせる。現実味のない、死。
「廃墟建築士」とても好きな世界観。私も廃墟が少し好きになった、かもしれない。廃墟を造るという感覚がまずおもしろい。本末転倒な感じ。例えるならば、ダメージジーンズを作るようなもので、人はまっさらなものよりも、使い古されたものに愛着を感じるようにできているのかしら?
「図書館」本が空を舞う。図書館好きにはたまらない話。ヨダレが出てきそうですよ。じゅるり。図書館と言えば、「静」のイメージだったんですが、実は野生を秘めているなんて、危険なオトコみたいでかっこええなあ。“動物園”の彼女とは、思わぬ再会で嬉しかったです。相変わらず、男運が無いっすねえ。笑。
「蔵守」蔵と蔵守の心が最初はすれ違っていたのが、最後に「ありがとう」と思いを通じあったところが熱かった!蔵の中に入っているものを中和するために、また新たな蔵を「略奪」しなければならない。人類はゆっくりと破滅への道を歩んでいる・・・。中身が何かわからなくても、守るという行為自体に満足を覚える。守るということは、非常に動物的なのだなあと思った。
世界観の特異性は、三崎作品の大きな魅力で、今回もその力が発揮されていたわけですが、それ以上に、登場人物たちがひたむきに注ぐ愛情、もしくは情熱に心を動かされました。特に、自分の仕事に対するプライドは頑固親父の域で、ラーメンは汁まで飲め!という心意気を感じたのです・・・!いやー、おもしろかった。


「廃墟を造るということは、我々すべてが逃れることのできない生命の有限性と、受け継がれゆく時間の永続性とを、俯瞰した位置から眺める視点を持つことに似ている。いつかは崩れ去るという万物に定められたる道程を宿命とせず、むしろ使命とすることのできる者だけが、このはかなくも偉大なる建築を成し遂げられよう」


「我が神に弓ひけ背約者」

秋田禎信/富士見書房

ネイム・オンリーを殺したことをきっかけに、魔術が使えなくなったオーフェン。牢獄でサルアと合流し、ユグドラル神殿の地下を目指す。しかし、そこには数十人の神官兵とクオ・ヴァディス・パテルが待ち構えていた。

下巻の帯「元気、勇気、天気!」のキャッチフレーズに小首を傾げつつ、折り返し地点に到達しました。
ファンの方には袋叩きにされそうなんですが、アザリーが結界の外へ出るのって、すっごい最後の方だと思ってましてー。私が最後の山場だと思っていた場面って一体・・・って感じでした。この先の展開、ほとんどが細切れ・・・!ちゃんと読んだんですよ!?読んだんだけど、記憶がところてん式に・・・ごにょごにょ。
上巻では、オーフェンが魔術を使えない状態のまま、クオ率いる神官兵との戦闘に突入。しかし、女神を見られたため、クオが暴走。オーフェンは凶弾に倒れ、アザリーは彼を助けるため、洞窟に留まることに。その他のメンバーは脱出。下巻から、巻き返しの反撃に出ます。クリーオウ、復活!一方、オーフェンはアザリーによって助け出され、再び地下でクオと戦闘に突入。勝利するが、クオが天人の始祖魔術士・オーリオウルを攻撃し、女神の侵入を許すことに…。
ざっと流れをまとめると、こんなとこでしょうか。結構動きがあるように見えて、実はオーフェンとアザリーは地下から一歩も出ていないという・・・。実はマジクの反抗期もあっさり終わっていたという・・・。いやあ、新発見がいっぱいだなあ。HAHAHA。
オーフェンが再び魔術を使えるようになるまで、かなり焦らされましたねえ。それだけに、地人を吹き飛ばした時の爽快感といったら!もう、この回における地人兄弟の存在意義って、吹っ飛ばされることにあると言ってもいいと思います。
一応、女神の侵入は阻止できたのですが、教主ラモニロックはまだ生きているわけですし、カーロッタもしたたかに生き残ってるんですよね。このあたり、この後出てきたかどうか記憶にないのですが・・・。人間の始祖魔術士が、人形の姿をしていることにもびっくりですが、人形が元は人間から作られたというのもびっくりです。サルアの兄ちゃんは目玉をくりぬかれ、クオは手足ちぎれるしー。やっぱり、このシリーズ地味ーにエグいなー。
そして、幕間で語られるチャイルドマンの過去。おお、そうだった・・・。あんた、数百年の時を超えてきた男だったんだっけ・・・。チャイルドマンとイスターシバの問答も好きです。絶望の中に横たわる愛。
次は東部編スタート。温泉で、ボルカンの首が飛ぶ!?ハービバノンノン。


「(愛ではない)
 彼は胸中で断言した。そんなものではない。恐怖。畏怖。不理解。理解。だが、すべてがそろえば――――それはおおむね、愛のようなものだ。」


「南極(人)」

京極夏彦/集英社

笑撃のおすもうさん小説『どすこい(仮)』から8年。再び、小説の常識を打ち破るスラップスティック・ギャグ小説が登場!

このミス2010年版の、今年発売されたミステリ本が収録されているところに、この本が載ってまして・・・。・・・このカテゴライズで良いの?という感じのアホっぷりを発揮している一冊です。パロディなのは言わずもがな。コラボなんかもやっちゃってます。京極さん、楽しそうだなあ。
前編「南極探検隊」では、南極夏彦と彼を取り巻く面々がオカルトに立ち向かって?います。この売れない作家・南極は56歳の通称・簾禿げ。ちびでデブで寝汗はすごいわ、汚いわ、臭うわ、バカでアホと、人間のありとあらゆる負の特徴を寄せ集めたかのようなおっさん。話は、もう一人の売れない作家・赤垣廉太郎が、超凶暴な女編集者・椎塚有美子の企画に振り回されるところから始まるのですが、最終的には、南極が出てきて、ふっとばされて終わってるような感じ。
「海で乾いていろ!」心霊写真の回。ウミウシの腹みたいな顔ってどんなのだ!?中大岡と無田和尚のエセ霊能者がおもしろかった。
「宍道湖鮫」UMA。U・M・A。ウ・マ。うま。馬。なんじゃこのオチー!ダジャレ!?
「夜尿中」題名といい、法繞寺(ほうにょうじ)といい、この展開は予想していたけれど、こんなに臭い漂うオチだとは・・・。しかし、聖骸布ネタは好きだったりします。
「ぬらりひょんの褌」こち亀とのコラボ。私、原作が未読なもんで両さんがいかなる人物か存じ上げないのですが、幼少時からこんなゴキブリ並みの生命力を備えているなんて、ただものではないですね・・・!
後編「帰ってきた南極探検隊」は、10年後のお話になります。大盛望が売れっ子書評家になっています。書評家に売れっ子とかあるのか。あと、有美子が編集長になってます。それ以外の愉快な仲間たちも相変わらず元気な様子。
「ガスノート」このノートに名前を書かれた者は、必ず放屁する。・・・お、おそろしやー。
「探偵がリレーを・・・」く、苦しいっ!展開やオチに無理を感じましたが、干菓子野ケーキ先生が楽しそうだったのでよしとしよう。
「毒マッスル海胆ばーさん用米糠盗る」おっと、泥沼にはまったか!?まさかこれをパロディのネタとして持ってくるとは・・・。その心意気に完敗だぜ。ちなみに、毒マッスル海胆っていうは、巨大除霊ウニのことなんですよ。そいつがね、米糠をね、食べるんですよねえ。何の話でしょうねえ。
「巷説ギャグ物語」こちらは、赤塚不二夫作品とのコラボ。小説と漫画の世界について、登場人物が思索するという、メタな雰囲気が流れています。ある意味、一番真面目な作品ではないかと思います。ウナギイヌが出てこなかった・・・。しょんぼり。
いやー、長かった。これだけ長いのに、本当にバカなことしかやってない小説もなかなか無いよ、きっと。ぷすっ、と笑いたい人にオススメ。