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読書の記録です。

「海」

小川洋子/新潮社

世界の美しさ、かけがえのなさを不器用ながらも丁寧に伝えてくれる老人や少年、少女。『博士の愛した数式』に連なる、著者の魅力が蒸留されて、結晶した短編集。

ちょうどパソコンが故障している間に、「博士の愛した数式」を読んでいた。私にとっては2冊目の小川作品。不思議ワールドでした。
ある風景の一場面を切り取ったかのような短編で、例えばあらすじが一言で終わるような話もありました。結局、これは何・・・?って思ったり。うーん、でも、全然不快感はないのですよ。ミステリー系が続いていたので、ちょうどいい気分転換になったのではないかと思います。
私はですね、ダントツで「風薫るウィーンの旅六日間」が大好きです!たぶん、私が彼女の立場だったら同じように、おばあちゃんをほっとけなくて、ついて行くと思うから。それで、最後にそのオチかい!って。笑。あとは、「バタフライ和文タイプ事務所」が印象的でした。エロティックなんです。でも、いやらしい話ではないんです。あくまで雰囲気を匂わせるだけ。このさじ加減が、上品で素敵だと思います。こんな感じのエロなら「薬指の標本」も読んでみたいかも・・・。
振り返ってみると、どの作品も優しくて暖かい雰囲気が流れているのだなあ。「博士の~」とは文体が違うから、最初は全然違う人が書いたみたいだって感じたけれど、このほっこり感はやはり同じ人が書いたんだなあと感じさせられた。小川さんは、言葉をとても大事にしていることが伝わってくる。だから、どの作品でも世界の息遣いを感じることができるのだと思う。ステキ!


「とにかく、遠い場所に、たとえ一瞬でも自分のことを思い出してくれる人がいるなんて、うれしいじゃありませんか。そう思えば、眠れない夜も安心です。その遠い場所を思い描けば、きっと安らかに眠りにつけます。」


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「断章のグリムⅡ」

甲田学人/アスキー・メディアワークス

媛沢遥火は通学の途中、駐車場に泊まっていた車の窓に、赤ん坊のような白い手形が2つ浮かんでいるのを目撃してしまう。一方、白野蒼衣は禍々しい人食い物語(ヘンゼルとグレーテル)の予言を受けた。

雪乃さんのふわふわポニーが好きです。
私は世界観が薄らいだ頃に読むので、毎回ちょっとした解説が入るのは嬉しいなあ。逆にまとめ読みする人にとっては、くどいのかな。
今回のモチーフは「ヘンゼルとグレーテル」。お菓子の家と、パンくずの印象が強くて話のオチを覚えていなかったのですが・・・。グレーテルが魔女を殺した場面があったのねー。そして、この構図こそが物語のキーポイントとなるのです。グレーテルの配役は意外だったなあ。今回は、蒼衣の断章が出てこなかったので残念だったー。結構好きなのです、あれ。今作のゲストキャラは、1巻に引き続き、期待を裏切らないベタキャラです!その名も「孤立しているクラスメートにかまう、世話好きの委員長」。これ、見るたびに現実的にありえないと思うの。こんな人、いないよね?
しかし、2巻も容赦なく殺してますね。恐るべし泡禍。グロな描写より、雪乃さんがリストカットするシーンが一番痛い。この本に限らず、私はリストカットの描写に弱いんです。トリハダが・・・。
泡禍が存在する限り、彼らの戦いは続く・・・ということで、この物語がどう決着するのか非常に気になるところです。ウワサでは、どんどんグロさが増してきているようで、不安を感じつつ、今度はどんなトラウマが描かれるのか楽しみにしています。・・・我ながら、ねじくれてるなあ・・・。


「赤い指」

東野圭吾/講談社

身内の起こした殺人事件に直面した家族の、醜く、愚かな嘘に練馬署の名刑事、加賀恭一郎が立ち向かう。ひとつの事件を中心に描き出されるさまざまな親子像。東野圭吾にしか書き得ない、「家族」の物語。

加賀刑事って、「嘘をもうひとつだけ」にも出ていたような。記憶力が乏しくって情けない・・・。一見クールだけど、実は情に厚く、鋭い観察眼を持ったカッコイイ刑事さんって印象がありました。今回は、加賀刑事の従兄弟、松宮刑事がコンビを組んで、家族事情にも踏み込んだ内容となっています。この本が家族の絆について触れているからかな。読む前は、「認知症の老人に関わる事件」だと思っていて、介護疲れで殺してしまったとか、そんなんかしら・・・って感じだったんですが、全然違うあらすじでした。一体私の脳は何をどうしてそんなストーリーをでっちあげたのだ!
反射的に、新聞でよく目にする類の殺人だなって思ってしまうあたり、世の中狂い始めているんじゃなかろうかと思う。未成年による殺人。崩壊した家族関係。しっかりしてよ、おとーさん!と何度思わされたことか。
最後に、最も重要な真実が明らかにされます。一緒に暮らしていて、どーして気がつかないのよ!って感じですが、家族全員が無関心だったと考えれば納得がいきます。うちは核家族で、祖父母に気を使わないで楽だなーと思ってたんですが、祖父母が体調を崩して入退院を繰り返し、亡くなるたびに、一緒に住んでいたらもっと悲しかっただろうか?と考える時がありました。あと、一緒にいたら、もっと話ができていたかなとか。あとだから言えることなんだけど。だから、政恵に対する一家の仕打ちはあんまりだと思うけれど、核家族な私には偉そうなことは言えないなあと、反省しました。家族の形ってほんと、他人にはわからんのだけど。松宮が、加賀親子の関係を理解できなかったように。
でも、八重子さんの息子溺愛ぶりはダメだと思う。自分が子供を産んだとしても、こうはなりたくない・・・!と強く思った。そして、もし、自分の子供が犯罪を犯したとき、自分はどうするかな?って脳内シュミレーションをしてみたけれど、架空の子供ほど空しい想像はないので、すぐやめちゃいましたよ。ぐすん。


「ウォッチメイカー」

ジェフリー・ディーヴァー/文藝春秋
訳者/池田真紀子

うちの父親が大好きなんです。リンカーン・ライムシリーズ。本の感想が辛口で、自分の好きな本をけなされるたびに、プチ喧嘩になります。そんな父の数少ないベタ褒めシリーズ。
「読め、読め」言われてたんですけど、翻訳の本は・・・。としぶっていたところ、「このミス」で紹介の記事がおもしろそうだったので、勇気を振り絞って読みました。だって、あのぶっとさで2段構えで翻訳本って!
ところが、意外にもスラスラ読めました。訳も上手だし、あれだけ長いのに気持ちがだれない。
私の想像と違って、ライムは一筋縄でいかない人でした。こんなに毒舌だとは。そして、こんなにツンデレだとは・・・。笑。色々想像以上だったなあ。サックスも想像と違ってスタイル抜群の美人さんでした。
最後は、どんでん返しがいっぱいありすぎて、ハラハラしました。汚職事件でまとまるかと思いきや、ライムとウォッチメイカーの頭脳戦でもう一度盛り上がりを見せるところがすごい。キャサリン・ダンスのキネシクスのシーンもかっこよかったなあ。羊のメガネと狼のメガネ!私はどちらかというと、たぶんライム派(証拠至上主義)だけど、ダンスの観察眼の鋭さには憧れる!
7作目からでも確かに十分楽しめたんだけど、登場人物の生き方にフォーカスした部分もあり、やはり順を追って読んでいくほうが良かったかなーという気分です。これまでも気になるし。これからも追っていきたいシリーズです。ちょっと腕まくりして頑張って読んでみようかな。
最後に、ここで父親に苦情を言わせて頂きたいのですが、本についてすごく喋りたいって気持ちはわかるんだけど、最後のオチを言ったらあかんやろ。笑。そのせいで、私、ハラハラしながらもウォッチメイカーが最終的にどうなるか、最初から知ってたんですよー。もー。それでも、十分楽しめた作者の手腕に拍手したい。
これで2000円は安いです!こんなお得感を味わったのは久しぶり。


「片眼の猿」

道尾秀介/新潮社

俺は私立探偵。ちょっとした特技のため、この業界では有名人だ。今はある産業スパイについての仕事をしている。地味だが報酬が破格なのだ。楽勝な仕事だったはずが、気付けば俺は、とんでもない現場を「目撃」してしまっていた。

携帯サイトで連載していたものをまとめたものだそうです。そのせいか、章立てが細かくて、36章くらいまであったんじゃないだろうか。短くてもちゃんと動きがあって、1話1話飽きないように書かれているのは、すごいなあと思いました。ですが、パソコンだろうが携帯だろうが、液晶画面で小説を読むなんてまどろっこしいわー!という私は、何だかんだ褒めても、本でまとめて読むのが一番好きだったりします・・・。
今回は、特殊能力か!?と思ったのですが、最後の最後に違うオチがつきました。冬絵のことといい、残念ながら、今作のどんでん返しは無いほうがいいな・・・というものが多かったと思います。ほとんどの人が、なんの疑いもなく三梨と冬絵の間には恋愛感情があったって思ってますよ。だって、そういうふうに書いてるもん。それを実は違うだなんて!読者心をもてあそんだのねー!・・・まあ、時には読者心はもてあそぶものかもしれませんが・・・。アパートの住人にまでどんでん返しが及んだのには、びっくりしたし、それは少し残酷ではないかなあと思った。ちょっと良い子の皮を被って言わせていただくと、身体の障害を小道具の一つとして多用するのはいかがなものかと。
思い返せば、そんなどんでん返しばかりが思い出されて、本筋の事件はどうやって解決されたのか思いだせないぜ・・・。