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読書の記録です。

「<日本文学100年の名作 第1巻> 夢見る部屋」

/新潮社

1914年~1923年に発表された作品。全10巻。
たまには文学が読みたくなるときもある・・・。何を読めばいいかわからないときは、アンソロジーが便利!ちょろっと感想を。
「指紋」(佐藤春夫)大正時代の純文学の作家たちが、探偵小説を書いてたなんて知りませんでした。もっと馬鹿にされてるんだと思ってた。これは、アヘン漬けになって帰ってきた古い友人を、家にかくまっていた主人公が、彼の妙な言動が、殺人事件の犯人を指し示していたのかな?と思う・・・みたいな話です。同じ指紋は存在するのか?という命題は、なるほどミステリーです。しかし、そもそもそれを言ってる本人がアヘン漬けなもんだから、色んな証言も夢と現がごっちゃになって、幻想小説寄りだと思います。ホラーでもないしな・・・。もったりした読み心地。
「小さな王国」(谷崎潤一郎)谷崎さん、プライベートがちょっとアレなイメージがあります。(上の佐藤春夫さんと三角関係とか・・・。)真面目な小学校教諭の貝島のクラスに、転校生がやってくる。転校生は沼倉といい、だんだんとクラスの実権を握り生徒たちをコントロールしていく。沼倉少年は、自分の名前を押した通貨を作り、生徒たちに持ってこさせた品物を売買できるような市までたてていた。生活が困窮しミルクを買うお金がない貝島は、沼倉の手下になるのでミルクを買わせて欲しいと頼む。沼倉少年がじわじわとクラスを支配していく様子と、貝島の壊れっぷりの描写がすごいです。先生が貧しいのは、現代ではあまり考えられないですよね。本人には、それと気付かせず、人の心をコントロールすることの恐ろしさが表現されています。沼倉・・・恐ろしい子!
「妙な話」(芥川龍之介)芥川さんといえば、「羅生門」「鼻」「蜘蛛の糸」・・・などなどありますが、これは読んだことがなかったです。「私」は旧友の村上から、彼の妹が話していた「妙な話」を聞く。夫の帰りを待つ妹の周りに出没し、夫の近況を語る赤帽。彼は本当に存在するのか、妹が見た幻覚なのか・・・。赤帽が実在するかどうかはさておいて、「私」の最後の告白が最後にすとんと落ちてきました。伏線なんて全くなかったと思うのですが、この展開に妙に納得です。
「件」(内田百閒)からだが牛で顔だけ人間の生き物、件(くだん)になってしまった男。人々は、件の予言を聞くために集まってくるが、男は予言することができない。予言を待つ人々と、人々を観察する件。気になってた話なんですが、わ、わかんねえ・・・。あまりのわからなさに脱力しました。私だけなのかな・・・。
「夢見る部屋」(宇野浩二)男は妻帯者であるが、恋しい女性の面影を忘れることができない。趣味の部屋を持つことにした男は、想い人の面影を持つ女性との逢引にこの部屋を使おうと思い立つ。お気に入りを部屋に運び込む男は、その内、この趣味の部屋を誰にも打ち明けず、一人で楽しむことにしたのだった・・・。ブンガク的なことはわかりませんが、読んでる間ずっと思ってました。「なんてダメ男なんだ・・・!」ズルズルひきずっちゃって、女々しいったらありゃしない。出版社から前借とかしてるけど、大丈夫なの?仕事してるの?なんでこんなダメ男と結婚しちゃったの、奥さん!
「二銭銅貨」(江戸川乱歩)貧乏暮らしをしていた「私」と友人の松村。机の上に置かれた二銭銅貨をきっかけに松村は、世間をにぎわせている泥棒が奪った金の隠し場所を探し当てる。江戸川乱歩は昔一回挫折したんです。なんか良くわかんなくて。でも、今読むとめっちゃ読みやすいですね。作品によるのかもしれないですが・・・。このお話は「ビブリア古書堂~」でも取り上げられていましたねー。暗号は考えるの放棄タイプの私ですので、あるがままを受け入れました。最後は、実は「私」がお金を手に入れてました・・・なんて結末を予想していました。まあ、そこまで性格悪くないか~。ただのイタズラというオチが、ほど良い軽さです。色々と出来すぎじゃないの?と思いましたが、最初から仕組まれていたとすればこれはアリですね。


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「有頂天家族 二代目の帰朝」

森見登美彦/幻冬舎

狸の名門下鴨家の三男・矢三郎は、親譲りの無鉄砲。ある日、老いぼれ天狗・赤玉先生の跡継ぎである“二代目”が英国より帰朝。狸界は大混迷し、平和な街の気配が一変する。しかも、人間の悪食集団「金曜倶楽部」は、恒例の狸鍋の具を懲りずに探している。阿呆の誇りを賭けて、尊敬すべき師を、愛する者たちを、毛深き命を守れ!

待ちに待った毛深い続編!
めくるめく、やはらかい毛玉ワールドを堪能させていただきました。
今回は、赤玉先生の跡継ぎとされていた二代目が京都へ帰ってきます。昔、赤玉先生と二代目は同じ女性を取り合って大喧嘩してから、絶縁状態にあった模様。同じ頃、日本を離れていた弁天も戻ってくる。今度は弁天を取り合うのかしら・・・という私の予想は大ハズレ。二代目と弁天は、お互いに相手が大嫌いで、こちらも大喧嘩。最強の弁天が二代目にあっさり負けて、びっくりです。赤玉先生は、弁天にゾッコンなんですけどねえ。
一方、狸界でも、次期偽右衛門(京都界隈の狸のボス?)を巡って、下鴨家長男の矢一郎は大忙し。父・総一郎を狸鍋にした叔父との確執も、クライマックス!陰謀だけでなく、狸界は恋の嵐も吹き荒れる!赤い糸でぐるぐる巻きになったカップルも・・・。矢三郎は地獄に行ったり、五山送り火で空を飛んだり、逃亡したり、大忙しです。随所にあらわれる、狸的表現もみどころです。尻にキノコが生えたり、もふもふしたり、やわらかかったり、尻の毛をむしったり。吹けばとぶような白い毛玉の長老たちも元気です。笑。
お気に入りの矢四郎くんの出番が少なかったなあ。残念。次男の矢二郎は、相も変わらずカエル三昧。でも、いい奴なんだよなあ。カエルサイズの将棋駒ってどんなだよ!下鴨家の四兄弟は本当にいいチームワークだなーと思います。最後に矢一郎が虎になって矢三郎を助けに行くところなんか、かっこよかったね。玉蘭も、矢一郎の良き理解者でいい夫婦になりそうです。末永くお幸せに。
怪しい人間の幻術師・天満屋が登場し、矢三郎は化かされ返されたり苦戦します。天満屋と、もう一人の真犯人が金曜倶楽部、天狗たち、狸たちを翻弄しますが、最後は2人とも仲良く地獄に連れて行かれてスッキリしました。ざまあみやがれ。
矢三郎も、破談になった海星との縁談が復活し、まとまったかな・・・?と思ったのですが、最後のシーンでまだ弁天に心残りがあるのかな?と心配になってしまいました。海星は口は悪いけど、すっごいいい子なんだから!また破談なんてことになったら、ダメだからね!海星を見ると、矢三郎の化けの皮がはがれちゃって、彼のプライドを傷つけると思ったから、ずっと姿を隠してたなんて健気過ぎるやん!狸は健気過ぎる!
なんとなく、あとを引く終わり方をしているなあと思っていたら・・・。第三部があるんだって!天地鳴動、執筆未定って。笑。お願いしますよー、森見さん!弁天がしょんぼりしたまんまなんて、スッキリしないよう!


「蛙の子は蛙、毛玉の子は毛玉だ。」


「空想オルガン」

初野晴/KADOKAWA

穂村チカは、憧れの草壁先生の指導のもと、吹奏楽の“甲子園”普門館を夢見る高校2年生。幼なじみの上条ハルタとは恋のライバル。夏の大会はもうすぐなのに、ハルタが厄介な事件を持ち込む。 

ハルチカシリーズ3作目です。夏休みのコンクール中に起きたアレコレ。
「ジャバウォックの鑑札」コンクールの地区大会の会場で、チベタン・マスティフという珍しい犬種の所有権争いの大岡裁きをすることになったハルタとチカ。本当の飼い主は、青年なのか少女なのか?首輪に記されたローマ字「PIE SIMATA」が、大きな鍵になります。しかし、これを解読できる人がいるとは思えない・・・。怪しげなライター・渡邊が登場。意外に重要人物。
「ヴァナキュラー・モダニズム」前の話で、やけに臭かったハルタの謎が明らかに。実は、アパートの取り壊しの関係で立ち退きを余儀なくされたハルタは、学校の裏庭で野宿していたのだ。チカはハルタの姉とともに物件を探すが、お得な物件にまつわる噂の謎を解くことに・・・。ハルタのお姉さんがカッコイイ。一級建築士だって!そういえばハルタは一人暮らしだったなあ。女兄妹の中の男1人は確かに厳しい。笑。半分予想はついていたけど、良い話でした。大きな地震が起きなくて良かったね。
「十の秘密」地区大会を勝ち抜いた吹奏楽部は、県大会へ。県大会の会場で知り合った、ギャル集団の吹奏楽部にはある秘密があった・・・。パンダギャルにチョコボールギャルって・・・。笑。彼女達の吹奏楽部も無名だが、ある部員の入部によって生まれ変わった。しかし、彼女はアルコール依存症だったので、部員達はルールを決めて彼女を監視することにした。高校生でアル中ってありなのかな?結果としてはいい話だったんですが、なんか話の構成がごちゃごちゃしていて伝わらない部分もありました。明らかにギャルが主役でした。
「空想オルガン」県大会を勝ち抜いた吹奏楽部は、東海大会へコマを進めた。一方、オレオレ詐欺グループのまとめ役である男も同じ会場を目指す。お金を騙し取るために・・・。前の話よりもさらによくわからなかった・・・。とうとう、芹澤さんが吹奏楽部のメンバーに加わりました。オルガンが臓器提供とかけてあるのは、なるほどですが、犯人が・・・。ポカンとしてしまいました。いい話なはずなんだけど、最後で全部パーな気がします。なんでこんなことしたんやろ・・・。


「つまずいたっていいじゃない。」

「上に向かってつまずけば高く飛べるかもしれないじゃない。」


「スペードの3」

朝井リョウ/講談社

ミュージカル女優のファンクラブまとめ役という地位にしがみついている美知代。地味で冴えないむつ美。かつての栄光は見る影もない女優のつかさ。待ってたって、「革命」なんて起きないから。私の人生を動かしてくれるのは、誰?

やーらーれーたー!
朝井さんは、学生時代女の子だったんですか?っていうくらい、女の生態を良くわかっていらっしゃる!笑。心にいっぱいのトゲが刺さりました。これは是非とも女性に読んで欲しいなあ。
私自身が受け身のタイプなので、1話目の「スペードの3」が特に刺さりました。主人公の美知代は、小学校の時に転校生の愛季に自分の居場所を奪われたことを、今もひきずっている。大人になり、自分の思うままに動く集団(ファンクラブ)を手に入れた美知代。しかし、新しい入会者が現れ、少しずつ歯車が狂っていく・・・。最後の彼女の正体には私も騙されました・・・。美知代とは友達になれそうにありませんが、そんなに腹を立てることもありませんでした。計算だらけで、上手く立ち回っているつもりでも、本当に欲しいものを手に入れることができない。臆病者が虚勢を張ってるだけだもの。かわいそうです。もっとも嫌いなのは、もちろん愛季に決まってます。トンビが油揚げとってくみたいな、おいしいとこどりな感じが腹立つわー。こいつ絶対全部計算しとるで。一番の腹黒さんは絶対愛季だね!と思っていた私は、愛季の転落人生を望んでいたのですが(←性悪)、どうやら幸せそうで、余計にむかつきます。・・・いやいや、そんな昔の人気者が今どうしているかなんてどうでも良いのです。今いるところは学校の教室じゃない。まずは、届かなくても、欲しいものに精一杯手をのばしてみようよ。という、あきらめ気味な人に対するエールなのかなと思いました。
2話目「ハートの2」の主人公は、いじめられっ子のむつみ。1人ぼっちじゃないから、あの子よりマシじゃんって安心してた自分を思い出します。同じ学校の出身者がいないっていう、あの開放感もわかります。むつみが新しい学校で、自分の居場所を作っていくところは本当に良かったなあと思いながら読んでいました。好きな人もできた。でも、どうしてもコンプレックスから脱け出すことができない。自分を変えたいのは、好きな人に好かれたいから?弟に自慢して欲しいから?誰かのためは、裏返せば自分のため。ただの自己満足でいいじゃない!ここから、スペードの3の彼女につながったんやなーと納得。
最終話「ダイヤのエース」の主人公は落ち目の女優・香北つかさ。(架空の宝塚のような)劇団時代の思い出とともに、今の彼女の葛藤が描かれています。ライバルに努力や実力で負けたと思いたくない!っていうつかさの気持ちがわかるなあと思った。平凡なことが一番幸せなんだけど、特別な生い立ちとか非凡な能力とか、自分にもあったら自分は特別な人間になれてたのかなって。そういう「たられば」は言っても仕方ないのですが。このまま、ぱっとしないまま消えていくのならば、まだ注目が集まるうちに引退した方がいいんじゃないか。打算が心の中を渦巻くけれど、つかさは最後に芸能界にしがみつくことを選ぶ。ないものをねだってもしょうがない。人生は配られたカードで勝負するしかないんだから!(BYスヌーピー)


「夜の蝉」

北村薫/東京創元社

呼吸するように本を読む主人公の「私」を取り巻く女性たち。ふと顔を覗かせた不可思議な事どもの内面にたゆたう論理性をすくいとって見せてくれる錦繍の三編。色あざやかに紡ぎ出された人間模様に綾なす巧妙な伏線が読後の爽快感を誘う。

「円紫さんと私」シリーズにはまってます。こちらは2作目の短編集。
初めてこの本を見かけたのは、大学時代にミステリ好きの友人の部屋へ遊びに行った時でした。あれから十何年。気になりながらも読む機会を見失っていたのですが、新作「太宰治の辞書」の発売を知って「こりゃ読まねばならん!」と重い腰をあげました。どっこいしょ。
本作は、今さらこんなひなびたブログで説明なんぞ不要の、日常の謎というジャンルの先駆けです。私は日常の謎は、物事の切り口を変えると見方が変わる・・・という点が好きです。ただ、気をつけなければならないのは、日常の謎=怖くない、とは限らないということです。場合によっては、殺人事件よりも深い心の闇を垣間見ることにもなるのです。
「朧の底」正ちゃん(「私」の友人)のバイト先である本屋を訪れた私は、不思議な現象に気がつく。ある売り場の本が逆さまにされていたのだ。奇妙な現象はまたも起こる。一体誰が何のために本を逆さまにしたのか?こういう回りくどいことはしないとしても、似たようなことをする人はいそう。明らかに犯罪なんだけど、本人は大して悪いことだと思わず、無自覚に罪を犯す。無自覚だから反省しないし、すぐに忘れて同じことを繰り返す。最近は、そういう人が増えたなあーとしみじみ思った。一方で「私」のほんのりとした恋心を微笑ましく見守った。私も、あのくらいの年頃は無駄に自意識が高くって、今思い出すと悶絶しそうなことを平気で言ってましたね。笑。正ちゃんの誕生日は、なるほど!でしたが、どうでもいいといえばどうでもいい。
「六月の花嫁」1年半前の出来事。江美ちゃん(「私」の友人)がサークルの先輩たちと別荘へ遊びに行くのに同行した私は、軽井沢でちょっとした名探偵を演じる。その後、江見ちゃんが就寝前に私に残した「ごめんね」の意味を図りかねている私に、円紫さんは1つの正解を導き出す。まあ、アリスの方はいいとして。一般的にはいい話なんでしょうが、どうにも気持ちの悪さが残りました。私としては、そもそも江美ちゃんが「私」を軽井沢に誘った心境が謎でした。だって、江美ちゃんと先輩はかなりいい雰囲気だったってことでしょ?もう一組は既にカップルだし、これってダブルデートじゃん!4人で楽しめばいいじゃん!なんで「私」を誘ったの?2人っきりになるのが恥ずかしいから?(まあ、当日にチューしてるわけですけど)にしても、その後に打ち明けるべきだったのでは?内緒にしておきたいのならば、「私」を誘うべきではないし、「私」を自分の都合に巻き込んだ以上説明責任があるのではあるのではないかと思います。円紫さんの言うとおり、秘密の割合がその人を形作っている、のならば江美ちゃんはただの秘密主義の自分勝手な人になってしまいます。私の江美ちゃんのイメージと合わずモヤモヤしました。
「夜の蝉」これまでもチラ見せされてきた「私」のお姉ちゃん登場です。絶世の美女で華やかな印象のある姉に、コンプレックスを抱いてきた「私」。そんな姉が、男女の三角関係に巻き込まれる。姉の誤解を解くために動き出した「私」。しかし、事の真相が明らかになったとき、確かにそこには幽霊が現れた・・・。女の醜さむき出しのお話です。まあ、嫉妬に限らず人間は感情の生き物ですから。色々な感情が渦巻いているのが普通ですよね。「私」と姉の関係にも一歩踏み込んだ内容でした。最後にわだかまりが解けたようで良かったなあ。しかし、凄味のある美女の妹なんかやってたら、そりゃ誰でもコンプレックスの塊にもなるわなー。円紫さんのお嬢さんがかわいらしい。
ミステリーなんですが、風景の描き方とか心理描写も素晴らしく、一読の価値ありです。