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読書の記録です。

「朝日のようにさわやかに」

恩田陸/新潮社

ビールについての冒頭から、天才トランペッターや心太へ話題は移り、最後は子供の頃に抱いていた謎の解明へと至る。表題作「朝日のようにさわやかに」他、あらゆる魅力がたっぷり詰まった短編集。

恩田さんの短編集といえば、「図書室の海」。「ああ、いいなあ」と思うものもあれば、「何がやりたいのか、さっぱり」という印象のものもあり、まさにごった煮という感じでした。今回の短編集も、色々な切り口の短編集がずらり。ホラーとSFのインパクトが強かったです。この2大ジャンルは、私の苦手とする区域でして。最近ホラーはいけるかしら、と手応えを感じたりもするのですが、SFはさっぱりです。笑。恩田さんのSF(ロミオとロミオは永遠に、上と外)も、つまらない、ということはないのですが、どこかついていけてないよ私、感があるのです・・・。
と、色々書いても、大好きな恩田さんの短編は、なんだかんだと大抵当たりなのです。どれがいいか、選ぶとなると・・・。

《ヨハン君賞》「水晶の夜、翡翠の朝」
別のアンソロジーで読んだことがあるのですが、何度読んでも、ヨハン君にしびれます。おいら、理瀬ちゃんみたいにクレバーじゃないので、到底つりあわないけれど・・・!
《夜のお供はラジオで決まり賞》「あなたと夜と音楽と」
「Q&A」は、構成が足を引っ張っていると思ったが、この短編は、ラジオであるという前提の下に、会話オンリーの形式が活きている。スタンダードなトリックですが、私は好きだなあ。
《ええ話や・・・賞》「おはなしのつづき」
連作の長編でもおもしろそう。「暗い森を一人で歩いていくことなんかないんだ。」にうちのめされた。目がうるうるします。
《続きをぜひお願いします!賞》「淋しいお城」
ミステリーランドの予告編、とのこと。映画のようなストーリーと、子供の心の闇にそそられます。オカマしゃべりは恩田さんの得意分野ですね。笑。
《オチのなさにビックリ賞》「卒業」
スプラッタな作品にもびっくりしましたが、これだけドタバタ死闘を繰り広げて、最後がこれとは。置いていかれました。どうしたらいいのやら。

・・・と、勝手に賞を作ってしまいましたが・・・。とにかく、全然飽きないので、オススメですよ。


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「銃とチョコレート」

乙一/講談社

少年リンツの住む国で、怪盗ゴディバに挑戦する探偵ロイズは子どもたちのヒーローだ。ある日リンツは、父の形見の聖書の中から怪盗ゴディバが描いたと思われる古びた手書きの地図を見つける。彼は「怪盗の情報に懸賞金!」を出すという探偵ロイズに知らせるべく手紙を出した。

ゴディバのチョコアイスはおいしい!
・・・で終わりそうになった。題名からも推測できますが、登場人物の名前がすべてチョコレートブランドの名前なのですね。ドゥバイヨルってとこもあるんですねー。デメルとか。知らんかったー。
久しぶりにミステリーランドを読みましたが、これ、読みにくいわー。小学生は読んでるのかな?果たしてこの振り仮名は必要なのかなー?という疑問を感じました。
話は、やはりというべきか、探偵活劇風味です。しかし!しかしですね、さすがミステリーランド、えぐいどんでん返しがいくつも少年を待ち構えているのです。いやー、予想を裏切らない黒さです。笑。意外に読むのに時間がかかりました。読み応えたっぷりという感じ。
事件が解決しても、すべてが元通りには戻らない。残酷なことに、おそらく友人がリンツに投げかけた言葉は、心の奥底の本音なのだと思う。民族の問題って、なかなか乗り越えるのは難しいんだろう。そして、母親と祖父の懐の深さを感じました。同じ愛を持って、他人同士も分かり合える日が来ることはあるのだろうか。


「それでも怪盗はぬすみに入るものなんだ。なぜなら怪盗だからね。」

「人はなぜ山に登るのか?」「そこに山があるからだ。」を思い出した。理由になってない・・・。


「家日和」

奥田英朗/集英社

ずっと外にいた夫の王国か。ずっと家にいた妻の城か。ビター&スウィートな“在宅”小説。

この前に読んだ、綿矢さんの文章が叙情的というか繊細な感じだったので、奥田さんのスパッとした文章が際立ちました。あれ、ここまで淡々としてたかしらっていうくらい。
しかしながら、物足りないということはなく、すごくリアルな感じがして良かったと思います。淡々としているのに、登場人物たちの気持ちが伝わるっていうのはすごいと思う。
あの、買い物っぷりがうらやましい。私もホームシアターのセットが欲しいよう。いい音がするステレオが欲しい。独身貴族の男性の気持ちがよくわかる。確かに、自分の趣味に100%お金を使えるということは、かなり魅力的な条件だ。私も、結婚はしたいけど、仕事は辞められないと思う。仕事はイヤだけど、自分で自由に使えるお金は欲しいもの。
最終的に、すべてがまるーく収まるお話で、非常に安心感がありました。まあ、短編なので、多少ご都合主義だろうという所はありましたが・・・。何だか、人生にパートナーがいるっていいよな。家族っていいなあ、とやっかみ半分な気持ち。夫婦や家族の形はそれぞれで、喧嘩とか離婚とか、仲良くすればいいのにって思っても、なかなか口は出せない。それは私にも当てはまる。けれど、最終的には仲直りして元のサヤに収まって欲しいなあ。未婚の私が言うのもアレですが・・・。


「夢を与える」

綿矢りさ/河出書房新社

私は他の女の子たちよりも早く老けるだろう。チャイルドモデルから芸能界へ、幼い頃からTVの中で生きてきた美しくすこやかな少女・夕子。ある出来事をきっかけに、彼女はブレイクするが…。少女の心とからだに流れる18年の時間を描く。

金原ひとみさんの「蛇にピアス」を先に読んで、「ああ、最年少受賞も話題作りかあ・・・。」となんとなくがっかりして、綿矢さんの「インストール」は読まずに来ました。映画化になっても興味も沸かず。
まあ、本当になんとなく表紙がいい感じだしー、と思って借りてきたノリだったのですが、これが予想以上におもしろかったです。読みやすい!
夕子が誕生する前から描かれており、とても丁寧に心の動きが感じられた。小さい頃はまっすぐで、でも、どんどんずれていっちゃって・・・。
芸能人とはいえ、一人の女の子。何も悪いことはしていない。・・・とはいえ、やはり大人サイドにまわってしまった私には、そんな彼女の思いよりも、彼女を商品として見て、彼女の身勝手によって振り回されているマネージャーの心労の方がわかってしまうのです。自由がない生活。だけど、それと引き換えに人気を手に入れたのだから、いまさらそれがイヤだったなんて、自業自得でないかい?と。悲しいやら安心したやら・・・。色々な選択肢があって、こちらを選んでおけば、ここまで落ちなかったかもしれない、と思ったりもしたのですが、結果的に最後には一緒だったんだろうなあ。避妊具に細工をした、そもそもの始まりから間違いを犯していたのかもしれない。この母にしてこの子あり。


「そう、嘘ばかりだ。だから夢なんだよ」


「少し変わった子あります」

森博嗣/文藝春秋

大学教授の小山が魅了されるようになった料理店は、予約のたびに場所が変わり、毎回違う若い女性が食事に相伴してくれるという変わったお店だった。その店に通っていた後輩が行方不明になったわけとは。

ミイラ取りがミイラになるんだろうなあ、と思っていたら、半分当たりで半分ハズレ・・・?のような気分。そもそも、主人公とは、一体誰のことなのか。本当に小山という男は存在していたのか?という何とも懐疑的な印象を受けました。
話はとてもシンプルで、毎回異なる場所で、見知らぬ女性と一度きりの食事をする、というものです。となると、自然に小山と女性の会話が中心となるわけで。森さんの作品の特徴として、お洒落・・・?というか、ウィットに富んだちょいと小粋な感じの会話を挙げることができると思うんですよ。それを丸々収めちゃった感じ。そして、毎回タイプの全く異なる女性が登場し、小山さんのハートともども私のハートもわしづかみにされてしまいます。特に印象に残ってるのが、ゴジラのお姉さんと、寡黙なお姉さん。お店が開かれている場所も魅力的。絶対高いと思う。←最終的に値段が気になる庶民。
今回は、ちょっと説教臭い文章が目立ちました。しかし、さすがはロマンチスト森。スイートなお説教がたっぷり詰まっています。


「動物は皆、ものを食べる、それは自分が生きるために必要な行為であるが、一方では、他の生命の殺生である、それを忘れてはいけない、本心から感謝をしていれば、おのずと正しい食べ方になるであろう、そういった道理がわかることが、人間である、それがわからなければ、すなわち動物の食べ方になる、動物の食べ方がいかに見苦しいものであるか、そこに存在する野蛮を、人間は隠さなければならない、そうすることで、人間たりえるのだ」