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読書の記録です。

「レディ・ジョーカー」

高村薫/毎日新聞社

「要求は20億。人質は350万キロリットルのビールだ。金が支払われない場合、人質は死ぬ。話は以上だ。」日之出麦酒を狙った未曽有の企業テロはなぜ起こったのか。いま、人間存在の深淵を覗く、前人未到の物語が始まる。

久しぶりの社会派。
男たちの生き様がかっこ良かった。仕事=男だとは思わないけれど、やはりこの物語は、男性メインでなければここまで熱くならなかったと思います。犯人達も、金銭が目的ではなくて、自分の存在意義を問いかけているような哀愁が漂っています。ただ、それで企業恐喝というのは、ただのひがみか逆恨みでは?と思わなくもない。城山だって、それなりの努力で成功しているわけですし。ううむ。
下巻から、事件は2転3転の展開を見せます。次はどうなるのか、非常にはらはらしました。事件の間、犯人側の視点が語られないので、実は第3の集団の犯行だったりしてーと深読みしてしまいましたが、その辺りは正統派の物語の流れでした。いやー、良かった良かった。
後半の半田と合田の心理はちょっと理解できなかったんですが・・・。っていうか、お義兄さん!?あなたの気持ちに、私、全然気がつかなかったよ!引いちゃったよ!
最後に、トマトを抱えながら畑を駆けるヨウちゃんの姿を思い浮かべて、なぜだか胸がいっぱいになりました。
高村さんの作品は有名で、題名は良く聞いていて知っていたのですが、本のぶっとさ故に手が出せずにいました。やはり読了には時間がかかりましたが、すっごくおもしろかった!他の本にも手が伸びそうな勢いです。


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「くつしたをかくせ!」

文・乙一 絵・羽住都/光文社

“SantaClaus is coming! Hide the socks!”

日本語と英語で語られる絵本です。
とにかく、羽住さんの美しく且つチャーミングなイラストは、一見の価値あり!です。お話も不思議で、一般とは少し違うサンタ像が伺えます。
サンタクロースの持っている袋は、元々は悪い子供を袋に入れて、あの世に持ち去る為の道具。いい子にはプレゼントをあげて、悪い子には厳しいというのがサンタクロースなんだって!(世界一受けたい授業より。)それを踏まえて見ると、サンタさんは大人にとって子供を連れ去るかもしれない脅威である、とも考えられるけど、プレゼントを見て悲鳴をあげるってことは、やっぱりサンタさんの存在自体を恐れているということなのかしらん。よくわかんなくなってきた・・・。
このごろの日本のクリスマスフィーバーは、少々異常だと思います。クリスマスとは、イエス・キリストの生誕を祝う宗教行事の日であり、物事の一つ一つに意味があるということに無頓着すぎるのではないかということです。そういうことを少しでも考えていれば、「恋人からのクリスマスプレゼントの期待額は?」とか、アホなインタビューなんてありえないわけです。いつから高級プレゼントを交換し、高級ディナーを食べる日になったのか。非常に浅はかです。残念です。


「姑獲鳥の夏」

京極夏彦/講談社

東京・雑司ヶ谷の医院に、娘は20箇月も身籠ったままで、その夫は密室から失踪したという奇怪な噂が流れる。うつ病文士・関口は古本屋陰陽師・京極堂と躁病探偵・榎木津らを巻き込み、噂の解明に乗り出す。

4度目のチャレンジで、やっと読了できました~。
3回とも、冒頭の関口と京極堂との問答?で挫折したのです・・・。妖怪に関するウンチクは大丈夫なんですが、事が精神論やら何やら屁理屈としか思えない話になると、拒否反応が出てしまうんですね、これが。それをなんとか乗り切れば、事件の展開は普通に受け入れられるもので一安心。(榎木津のあたりでまた一度つまづきましたが・・・。)
旧家のおどろおどろした感じが良かった。お姉さんの妖しい美しさが瞼に浮かぶようでした。予想外なことに、ウンチク以外はとにかく本当に読みやすい。
最後は、「クリスマス・テロル」(佐藤友哉)を彷彿とさせるオチが・・・。順番としては、こちらが先だったのかな?見ることを脳が拒否してしまえば、見えない、・・・見えないの?そんな感じで小首を傾げること数回。一番かわいそうだと思ったのは、顔を切られた警官さん。いくら仕事とはいえ・・・。

京極夏彦といえば!テレビで見かけたんですが、着物に指先が出る皮手袋(グローブ?)をあわせるファッションセンスはいかがなものかと思った。


「随筆 本が崩れる」

草森紳一/文芸春秋

著者が、何万冊もの蔵書に時に襲われながらも、本と共存する様子を綴った「本が崩れる」他、幼少時代の思い出や、タバコ論が繰り広げられるエッセイ集。

羨ましい。常々書庫が欲しいと思いながら、本を処分しておりますので・・・。
断っておくと、著者は書庫を持っているわけではなく、自宅(マンション)のいたるところに本を積んでいるのです。写真に写っているのは、積み上げられた、あるいは雪崩を起こした本、本、本。著者の味のある文章も、どこか飄々としていて楽しめました。偏屈なおじいちゃんという感じ。
著者のタバコ論には賛同できない。私も嫌煙家の一人だからなー。煙草を吸う権利ももちろんあると思うので、「タバコ吸わないでよ!」とは言いませんが、近くで吸われるとやっぱりいい気はしないです。副流煙云々というよりも、服や髪に匂いがつくのが嫌い。ヤニの付いた歯も嫌い。要するに私の美意識にそぐわないだけです。
本の話は3分の1。私の場合、予想外に著者の視点と語り口がおもしろく、他の話も楽しめたので良かったけど、購入される際はぱらぱらっと中身を見てから決めた方がいいかもしれません。


「最後の願い」

光原百合/光文社

劇団Φを立ち上げた度会と、劇団員が様々な謎に遭遇し仲間の輪を広げていく。

推理と同時に、心の中のわだかまりを溶かしていく様は、まるでカウンセラーのようです。謎解きはシンプルな印象。動機もトリックも大体の予測がつく範囲。で、これで頭の回転がいいとか言うのは少しオーバーでは。個人的に、度会・風見・吉井(だっけ?)の三人のコントのような絡みが好きです。
最後まで、表題の意図がわからなかったのですが、私の読みが足りないのでしょうか。そうですか・・・。

私はお芝居を観るのは好きですが、役者の人とはどうも相性が良くないようです。過去に劇団の人数名とちょびっと話をしたことがあるのですが、全然波長が合わなかった・・・。