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読書の記録です。

「注文の多い注文書」

小川洋子・クラフト・エヴィング商會/筑摩書房

ないもの、あります。
小川洋子による注文書・受領書とクラフト・エヴィング商会による納品書のコラボレーション。

図書館で見つけて、「あわわわ、こんな本が出てたのかー!」と興奮して借りてきました。笑。思いがけない嬉しい出会いがある図書館は、やはり私にとって大切な場所です。
小川さんはもちろん大好きな作家さんですが、クラフト・エヴィング商會さんは名前と「どうやらすごいものを作るらしい」というイメージしかありませんでした。ご夫婦のユニットで、著作と装丁を行っているそうで・・・。吉田篤弘さんってお名前、見たことがあるなあー。
「人体欠視症治療薬」依頼者の女性は、恋人に触れた部分が見えなくなる病気「人体欠視症」にかかった。この治療薬を注文される。見えなくなるのは、好きな人だけ。触れなければ見えるけれど、触れずにはいられない。なんてロマンチック!彼女は彼と別れたあとに病気が治り、薬は必要なかった、というオチすらロマンチックです。おばちゃん、切ないわー。元になった小説「たんぽぽ」(川端康成)。
「バナナフィッシュの耳石」サリンジャーのファンの集いには2つの派閥があり、物語を深く読みこむ“梯子派”と広く俯瞰する“グライダー派”がある。梯子派の会長は、サリンジャーはバナナフィッシュの耳石から物語を編み出す作家ではないか?という推論のもと、バナナフィッシュの耳石を注文する。その後、耳石熟成判定キットなるものが納品されるが、依頼者の会長は梯子を持って出たまま行方不明・・・。会長ー!梯子派とグライダー派がそこまで仲が悪かったなんて・・・。自分でバナナフィッシュを探しに行ったのかもしれませんが、もう悪い方の想像しかできません。バナナフィッシュって架空の魚なんですって。危うく信じるところでした。ですよねー。元になった小説「ナイン・ストーリーズ」(サリンジャー)
「貧乏な叔母さん」一緒に暮らしていた祖父が亡くなり、元気をなくした彼の背中に、いつの間にか叔母さんが棲みついた。叔母さんは彼に本を読むよう励まし、彼が元気を取り戻した頃に消えてしまった。他の誰かの背中にいるのか?それとも・・・。そんな彼が依頼者。実はこの依頼は、時間差郵便セットという手紙に書かれており・・・えーっと、わかりません!笑。なんか、時間差で未来に届いたのかなあとか思ったんですけど、なんか、なし崩しで読み終わりました。叔母さんがはげますシーンはすごく好きなんですけど・・・。元になった小説「貧乏な叔母さん」(村上春樹)
「肺に咲く睡蓮」男は指圧師で、治療院を開いている。顧客で人間に寄生する植物を専門に収集する、弟子丸という人物がいたが、彼は亡くなってしまった。生前、「肺に咲く睡蓮」を探していた弟子丸さんのために、これを探して欲しい、という依頼。実は、ほかの同業者も「肺に咲く睡蓮」を探しに行く途中で亡くなっていた。弟子丸さんの骨にも、睡蓮の咲いたあとがあったのだ・・・。人間に寄生する植物。妖しく、エロティックな響きです。小川さんの静かで冷たい筆致が、この妖しい雰囲気とマッチしてとても良かった。これは、映像で見たいなあ。元になった小説「うたかたの日々」(ボリス・ヴィアン)
「冥途の落丁」夫が買ってきた内田百閒「冥途」の初版本。この本は落丁本で非常に貴重なものだった。しかし、この本を読むうちに夫はおかしくなり、日課の卓球の途中で突然死した。この本を引き取って欲しいという依頼。死んだ娘が、お父さんを呼んだのでしょうか・・・。怪談のような一作。モノが本なだけに、この中で一番ありそうな商品。オリジナルがどんなお話か気になります。元になった小説「冥途」(内田百閒)
小川さんの文章はもちろんステキ!な上に、実際にありそうな存在感を漂わせる写真も素晴らしい!
さて、まだ書き残した感想はありますが、今年はここまで。


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「水族館の殺人」

青崎有吾/東京創元社

夏休み中盤に風ヶ丘高校新聞部は、取材で市内の穴場水族館に繰り出した。館内を館長の案内で取材していると、サメの巨大水槽の前でサメが飼育員に喰いつくところを目撃する。駆けつけた神奈川県警の仙堂と袴田が関係者に事情聴取していくと、すべての容疑者に強固なアリバイがあることが判明。仙堂と袴田は、仕方なく裏染天馬に応援を頼むことにする・・・。

オタク探偵、再び!・・・でも、前よりオタクのインパクトがなかったというか。おそらく、興味ないネタはスルーしてるからだと思います。喰いつき悪くてすいません。
水族館が舞台のミステリーには、たまーにお目にかかりますけど、水族館大好きな私としては、あんまり血なまぐさい事件は読みたくないっていうか・・・。特に今回は、上半身サメに食べられちゃってます。あんなの見たら、トラウマになりそう・・・。
事件当時、現場にいたのは新聞部の面々で、柚乃は卓球部の試合中。駆けつけたお馴染みのコンビは、容疑者のアリバイを崩すことができず、渋々天馬の協力を求めることに。この時点で、協力というより捜査委託。新品のクーラーに釣られた天馬だが、謎を解明することに関しては、並々ならぬやる気を見せます。柚乃もびっくり。
最初の犯行時刻とアリバイは、トリック(ペーパー!)を見破ったことにより、あっけなく崩れる。さらに、ここからモップとバケツに目をつける天馬。これはすごい!言われてみれば・・・なんですよね。自分では思いつかないです。一度推理を見直す必要があったものの、そこからは怒涛の謎解きが始まります。使用後の紙はどうしたのか?絞られる容疑者。そして決め手となったのは、腕・・・。これでもかと畳み掛ける理詰めの推理は、読んでいて楽しかったです。それだけに、最後の動機はちょっと・・・でした。個人的な恨みは無かったけど、個人的利益の追求のために・・・って感じですかね。
前回の生徒会副会長がパシリと化している!笑。こういう使い方は結構好きです。なんか、憎めないキャラに仕上がりましたね~。今回は謎意外にも、いかにも!な天馬の妹や、天馬と高校卓球界のクイーンとの関係や、家庭の事情やら色々伏線らしきものが出てきました。うーん、私はその辺どうでもいいんですが(笑)、シリーズとして定着させること自体は良いと思います。
謎解きは申し分ないのですが、次の「風ヶ丘五十円玉祭りの謎」もそうだし、これまでの2冊でも、ジャンルを問わず他作品のパロディ・引用が目立ちます。もちろん、悪いことではないのですが・・・。そろそろオリジナルのネタで勝負した方がいいような気がするなあ。


「人間は、嘘をつきますからね」


「光圀伝」

冲方丁/角川書店

父・頼房に想像を絶する「試練」を与えられた幼少期。血気盛んな“傾奇者”として暴れ回る中で、宮本武蔵と邂逅する青年期。やがて学問、詩歌の魅力に取り憑かれ、水戸藩主となった若き“虎”は「大日本史」編纂という空前絶後の大事業に乗り出す。生き切る、とはこういうことだ。誰も見たこともない「水戸黄門」伝、開幕。

今年が終わってしまう前に、最後の悪あがき・・・で感想を書いてます。
「天地明察」で華麗に方向転換をされた冲方さん。今後は時代小説だけ書かれるのかなあ、と思っていたのですが、理想は歴史小説・SF・現代ものを並行して書けるようになること、だそうです。私は「カオスレギオン」が好きだったのですが、ラノベ系はもう書かれないということなのかな・・・。残念。そういえば「スプライト・シュピーゲル」はついていけなかった・・・。
さて、今回の主人公は、「水戸黄門」でおなじみの水戸光圀です。「天地明察」の渋川晴海に比べて、知名度の高い光圀ですが、テレビドラマではなく歴史上の人物として、どのような人だったのか、ということを説明できる人はあんまりいないのではないかと思います。(たくさんいらっしゃったらすいません・・・。)
そもそも、光圀は本来は家督を継ぐべきポジションではなかった、ということも知りませんでした。彼の兄が幼少時、病気にかかって生死の境をさまよった時に、次の世継ぎとされたのが光圀だったというわけです。兄は病気に勝ったけれども、長男を差し置いて世継ぎは自分のまま・・・。道理に反しているのではないか、これは不義ではないかという苦悩。生涯、光圀の心にあり続けた思いです。自分の子供と兄の子供を交換して、兄の子供を世継ぎとして育てることで、正しい流れに戻した・・・とされていますが、今では考えられない。子供って、道具なんやなーとしみじみ思った。
「水戸黄門」でおじいちゃんのイメージが根強く残っていたために、本で語られる光圀とのギャップに驚きました。獰猛な虎のような武人でありながら、詩をこよなく愛する文人の繊細な感性を持ち、若いころはハメを外し、交友範囲が広く、家督を継いでからは精力的に事業に取り組むエネルギッシュな人。近しい人を亡くす悲しみに打ちひしがれながらも、次世代への希望を忘れなかった光圀。こんなパワーに満ちあふれた人だったのか!
最後の方で、藤井紋太夫という目をかけていた家老を、光圀は自分の手で殺害する。なぜ、自分は彼を殺したのか各章の最後で光圀は自問する。すべては大義のもと・・・。うーん、当時の人はきっと使命感がすごくあって、マジメっていうか・・・、思いつめちゃう感じだったのかなーと思いながら読み終わりました。現代の私達が使命感を持ってないとか、不真面目ってわけではなく・・・、昔に比べて逃げやすくなったのかなあと。逃げること、悪いことじゃないですから。
光圀のまわりで、親しい人たちがばったばったと亡くなっていくのですが、泰姫が死んだ時が一番悲しかった!光圀の良き理解者がやっと現れたーと思ったのに・・・。左近とのプラトニックな関係も、良いなあと思いました。
光圀が生涯を賭けて取り組んだ史書編纂。人の命は尽きる。しかし、人の営み、生と死は連綿と続いていき、その人の生きた証は史書として後世に伝えられていくのである。光圀もその1人となったんだなあと思うと感慨深いです。時代の先を歩き続けた水戸光圀の生涯を堪能させていただきました。
他にも色々あったのに、なんだか書き足りない感じです。未読の方はぜひぜひ読んでみて下さい!


「楽園のカンヴァス」

原田マハ/新潮社

ニューヨーク近代美術館の学芸員ティム・ブラウンは、スイスの大邸宅でありえない絵を目にしていた。MoMAが所蔵する、素朴派の巨匠アンリ・ルソーの大作『夢』。その名作とほぼ同じ構図、同じタッチの作が目の前にある。持ち主の大富豪は、真贋を正しく判定した者に作品を譲ると宣言、ヒントとして謎の古書を手渡した。好敵手は日本人研究者の早川織絵。リミットは七日間ー。ピカソとルソー。二人の天才画家が生涯抱えた秘密が、いま、明かされる。

確か、ものすごく絶賛されていて、いつか読もうと思っていたのでした。しかし、前評判の良い本って、それだけ期待値が大きくなるわけで・・・。諸刃の剣ですよねえ・・・。これもおもしろかったんですが、そこまでベタ褒めするほどでもないのでは、というところです。
美術作品をテーマにしたミステリーは良く見かけますが、あんまり読まないです。というのも、ゲージュツというものが良くわからないからだと思うのですが・・・。この絵を、作者がどういう意図を持って描いたかなんてのは、本人に聞くしかないわけで。本人の手記やらが残っているならともかく、色々な材料から意図を推測しても、その通りなのか確かめることができないのなら、意味ないんじゃないの?と、「モナ・リザ」なんかの論争を見てたらそう思ってしまいます。
この作品では、アンリ・ルソーの絵がとりあげられています。昔、アンリ・ルソーの研究者であった織絵は、今は日本の美術館で監視員の職に就いている。彼女に、新聞社からコンタクトがあった。その新聞社が企画している展覧会に、MoMAから作品を貸し出す窓口として、彼女を指名されたというのだ。織絵とMoMAのチーフキュレーターであるティム・ブラウンは、昔大富豪が所有するアンリ・ルソーの「夢」の所有権を巡って対決したことがあった。
・・・と、ここから、過去の勝負について語られます。大富豪が所有する「夢」は本物か、贋作か。この作品のおもしろさは、絵がホンモノかニセモノかという問題よりも、アンリ・ルソーという画家の生涯や、ティムと織絵それぞれの人生と交流、そして別れを描いたところではないかと思います。当たり前の話ですが、画家は絵だけ描いてるわけではなく、色々な人と交流し、誰かを愛して傷ついて・・・まあ、そういう感情の発露が絵なのかなーと思いました。生きてるうちに評価されないのはなんでなんでしょうね?最先端すぎてついていけないとか?うーん、私は今でもルソーの絵の良さは良くわかりませんけども。
対決は、ルソーの絵はブルーピカソの上に描かれている・・・かもしれないという結論を導き出す。古書の著者は大富豪の亡き妻であり、「夢」のモデルとなった女性・ヤドヴィガだったという点はちょっとできすぎーな感じがしたかな。
織絵の娘との関係は、付け足しみたいでもやっとしたまま終わりましたが、ティムとの再会はロマンチックで良かったのではないでしょうか。こちらも、できすぎ感がすごいありますけど。笑。


「ぬいぐるみ警部の帰還」

西澤保彦/東京創元社

殺人現場にぽつんと遺されていたぬいぐるみ。ぬいぐるみは、何を語る?イケメン警部・音無の密かな楽しみは、ぬいぐるみを愛でること。遺されたぬいぐるみから優れた洞察力で事件解決の手がかりを発見する。そしてその音無にぞっこんの則竹女史。さらにミステリオタクの江角刑事や若手の桂島刑事など、個性派キャラが脇を固める、連作短編集。

読んだことがないくせに、西澤さんの作品はキワモノが多いと勝手に思い込んでいます。ぬいぐるみを愛でる警部の変態さ加減もきになりつつ、ぬいぐるみかわいい・・・と思って借りてきたのですが、そこまでぬいぐるみぬいぐるみしていませんでした。意外に硬派な感じでした。というか、音無警部、もうちょっとハジけててもいいんじゃないかい?
印象に残ったものを・・・。
「ウサギの寝床」ぬいぐるみが謎解きのキーになっています。被害者の女性は、いつ殺されたのか?なぜ、全裸なのか?海外に行くお祖母ちゃんが、金庫の中身を被害者である孫から守るため、ぬいぐるみと入れ替えておいたところ、女性の恋人の方が金庫の番号に気がつき、開けてしまったと。そしてぬいぐるみを見てバカにされたと思った恋人は、女性を殺害。というオチでした。女性ではなく、恋人が金庫を開けた・・・という謎解きの流れは結構きれいなんじゃないかと思いました。
「レイディ・イン・ブラック」意外な犯人!画家志望の男が、アトリエで殺された。男は、憧れの女性の面影を持つ、押鐘由美子という女性にモデルを依頼するが断られていた。由美子さんは事件とは本当に関係がなく、彼女の息子がお小遣いかせぎにモデルとして通っていたことが判明する。しかし、真犯人は第一発見者のお隣さん。たびたびお金を盗みに入っていたところを見つかっての犯行だったようです。それにしても、女装バーで働く息子って・・・。
「誘拐の裏手」妻を誘拐したと犯人から電話があった。取引先に行ったが、妻は転落死してしまう。介護ヘルパーとして家に来ている女が犯人だと考えた男は、彼女のアパートに押し入り、女を絞殺してしまう。ウィスキーとセットで置かれたぬいぐるみから、謎解きするわけですが、もはやぬいぐるみである必然性がないし。笑。自殺志願者が結託して狂言誘拐に見せかけて、自分を殺すよう仕向けた・・・という真相はなかなかおもしろい方向性だと思います。うーん、でも、なんかそういうことする必要があったのか、よくわからないです・・・。則竹さんの妄想が炸裂。笑。
ぬいぐるみをきっかけに事件が動く・・・短編集にしようとされたのかな、と思ったのですが、1話目の「ウサギの寝床」以外は、ちょっと苦しい感じがしました。続編は厳しいかもですね・・・。