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読書の記録です。

「風が吹いたら桶屋がもうかる」

井上夢人/集英社

牛丼屋でアルバイトをするシュンペイは、ミステリマニアのイッカクと、超能力が趣味のヨーノスケの3人で同居している。ヨーノスケの超能力は本物だけど、何の役にも立たない。それなのに、彼女たちはヨーノスケに助けを求める・・・。

私がミステリーにはまるきっかけとなった本は2冊あるのですが、そのうちの1冊です。(ちなみに、あともう1冊は倉知淳さんの「日曜の夜は出たくない」です。)
ミステリー好きを自称する方とお話をする機会があったんですが、全く話がかみ合わなくて、「もしやモグリなのでは・・・?(モグリのミステリー好きってなんだ。笑。)」と思ったりしたのですが、まあ、私も世の中の全てのミステリーを読んでいるわけじゃなし、別に趣味でたくさん知ってる方がえらいとかないし・・・と、後日、相手を疑った自分を反省しました。原点とか言いながら、井上夢人さんの本を全然読んでないなあ・・・と思って、借りてきました。
でも、恩田陸とジェフリー・ディーヴァーくらい知ってても良さそうなものなのに・・・。
題名の「風が吹いたら桶屋がもうかる」というのは、昔の洒落みたいなもの?で、風が吹いたらほこりが舞って、目の見えない人が増え、三味線が良く売れる。そうしたら、猫が減ってねずみが大量発生。増えた鼠が風呂桶をかじるため、桶屋がもうかるという話です。ひとつの出来事が、意外なところに効果を及ぼすということです。
連作短編集なのですが、パターンはほぼ同じ。
依頼人登場→ヨーノスケ超能力開始→待ってる間にイッカク登場→イッカク推理披露→依頼人慌てて帰る→ヨーノスケほったらかし→後日依頼者登場(謎解き)→ヨーノスケ何かを視る
これだけ見るとつまんないですが、構成は同じでも、謎は違うので楽しく読めました。今から17年前の作品ですが、全然古びた感じがしません。とは言っても、電話には時代を感じるかなあ・・・。携帯電話は便利だけど、恋人たちの会えなくて切ない、声が聞きたい・・・的な距離がなくなりましたよね。それがいいのか悪いのか、わかんないけど・・・。
これを読んだときに、推理ってひとつじゃなくていいんだ!ととても驚いたのを覚えています。イッカクの推理は、毎回的外れ(しかも物騒)なんですが、彼はしれっとした顔で「理論に破綻はない。だから、これは間違いではないのだ。」というようなことを言います。謎がひとつあって、それに対するアプローチが色々あっていいんだ、ということがわかったときに、私はミステリーのおもしろさに目覚めたのだと思います。
私はイッカクの堂々とした語りっぷりに、筋道の通った論理、だけど大間違いな推理が好きなんですが、これも、後日談のなんてことない謎解きが用意されているこそだからかな、と思います。日にち間違えてただけ、とかありますから。笑。
まあ、騙されたと思って、一度読んでみてください。


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「ミステリマガジン700【国内篇】」

/早川書房

日本一位・世界二位の歴史を誇るミステリ専門誌“ミステリマガジン”の創刊700号を記念したアンソロジー“国内篇”。創刊当時から現在に至るまでの掲載作品から傑作短篇を多数収録。日本ミステリの精華を届ける。

ミステリマガジンは購読していないのですが、700号の中から選ばれた作品ってどんなのだろう?と興味がわいたので、読んでみました。全体的に昔の作品が多いなーという印象。あと、不思議な雰囲気のものも結構あったかも。前の「名探偵登場!」といい、ミステリーというカテゴリーの奥深さを感じますね。まあ、私は普通に謎解きがあるものが好きなんですけど・・・。笑。
読後から時が経過しているので、記憶に残っているものだけ・・・。
「寒中水泳」(結城昌治)これは結構昔の作品だったと思うのですが、構成がザ・ミステリーという感じで安心して読めたと思います。
「ドノヴァン、早く帰ってきて」(三条美穂)最後の仕掛けが、ミステリーといえばミステリーなのか。目が見えなくなった彼女。切ない作品です。
「クイーンの色紙」(鮎川哲也)消えた色紙を探せ!という話。途中まではおもしろかったんですがー。・・・裏かよ!まあ、そんな話です。
「閉じ箱」(竹本健治)とにかく不思議な話でした。わかる人にはわかるネタだったようで・・・。(オマージュみたいな感じ?)前から竹本さんの作品には、難解なイメージを抱いていたのですが・・・、ここまでわからんとは・・・。キララもシモな話だしなあ・・・。たぶん、これからも避けて通ります。笑。
「聖い夜の中で」(仁木悦子)子供が不憫だったけど、最後はハッピーエンドで良かった。子供の出てくる話は、後味が良い方がいいなーと思う今日この頃。
「『私が犯人だ』」(山口雅也)どこかで読んだことがあると思う・・・。大烏の「nevermore」を上手く取り入れた話。ある屋敷で教え子を殺した男は、屋敷を訪れた人々に殺人を告白する。しかし、人々は自分を無視し続け、やっと話が通じたと思ったら、話がかみあわない・・・。最後は脱力するような、少し薄ら寒い空気も残しつつ幕。
「城館」(皆川博子)皆川さんは、短編もすごいんです!幻想的な雰囲気にのまれそうになりました。私も女の子と一緒にモヤモヤしてたんで、燃えちゃって良かったです。笑。
「川越にやってください」(米澤穂信)米澤さんだー、と楽しみに読んだのに、???で終わりました。これも、わかるひとにはわかるネタだったようで・・・。残念!読書不足だなー。
「怪奇写真作家」(三津田信三)これは・・・、ホラーではないか!最後の追いかけられるところは、ハラハラしすぎて心臓に悪いったら・・・。これ、最後助かったからミステリーなのかしら?(たぶん違う)
次は海外篇。予約まだかなー。


「名探偵登場!」

/講談社

超絶難事件は解決されうるのか!?名探偵たちはいったいどんな推理を繰り広げるのか?通常では考えられない執筆陣容を誇る贅を尽くした華麗なる競演。驚愕必至の捜査と、予測不能の結末!13の難事件に挑む13人の名探偵。古今東西の名探偵たちへの超偏愛アンソロジー。

名探偵って言ったら、ミステリーだと思うじゃないですか。しかも執筆陣は、普段ミステリーのジャンルでは見かけない作家さんばかりで、こいつはおもしろそうだ!と期待していたのですが・・・。ミステリーのアンソロジーだと思って読むと、肩透かしをくらいますので要注意。
印象に残ったものをいくつかピックアップしたいと思います。
「科学探偵帆村」(筒井康隆)最初は、一体何の話なんだ?と思っていましたが、最後で脱力の種明かし。ぶっ飛んだ話ですが、処女懐胎を説明するにはコレしかない!笑。
「遠眼鏡」(木内昇)成功すると大ぼらを吹いて上京した男が、アパートで宝探しに挑む・・・話。暗号を解いて、何が出てくるのかな?と思ったら、味噌汁の作り方かーい!喜ぶの大家さんだけやん!そうか、秘伝の味噌汁という伏線はここに・・・と脱力したり納得したり。バカバカしいオチですが、私は木内さんの脱力ネタが好きなので、大変楽しめました。明智イメージを大きく覆す明智先生も登場します。しかも、何の役にも立ってない。笑。
「三毛猫は電気鼠の夢を見るか」(海猫沢めろん)喋れるようになった猫が探偵。SFだと思いますが、ミステリーとしての形式も踏襲しているので、アリかな。
「ぼくの大伯母さん」(長野まゆみ)これも途中まで、何の話?って感じでしたが、最後であらまあそうだったの、という感じで納得はしました。というか、お茶がおいしそうでした。
「a yellow room」(谷崎由依)これまた何の話やねん、という話でしたが、最後の方の余韻を覚えていたので・・・。要するに、探偵が犯人でその子供が探偵としてやってきたという話ですよね?
「フェリシティの面接」(津村記久子)これを読んでいるときは知らなかったのですが、アガサ・クリスティの小説に登場する秘書(フェリシティ・レモン)が登場しています。最後は、なんとかオチはついていますが、これを推理と言っていいのかどうか・・・。
冒頭でも書いたように、ミステリーのアンソロジーだ!という先入観のもとで読んだので、???が続く本でした。謎ときとかどうでもいいっていう。


「オーブランの少女」

深緑野分/東京創元社

色鮮やかな花々の咲く、比類なく美しい庭園オーブラン。ある日、異様な風体の老婆に庭の女管理人が惨殺され、その妹も一ヶ月後に自ら命を絶つという痛ましい事件が起きる。殺人現場に居合わせた作家の“私”は、後日奇妙な縁から手に入れた管理人の妹の日記を繙くが、そこにはオーブランの恐るべき過去が綴られていた。(「オーブランの少女」)表題作ほか、“少女”にまつわる謎を描く全5篇を収める。

表紙の乙女たちに心惹かれて、この本を手に取ったのは私だけではないはず・・・。
おそらく、表題作「オーブランの少女」をイメージした絵です。短編集とは分かっていましたが、こんなに年代も設定も異なる話だとは思いませんでした。世界観を統一しなければならないわけではないんですが、テイストが違いすぎて戸惑いました。
「オーブランの少女」謎めいた殺人事件から始まります。庭園の謎が解き明かされる・・・という話だと思っていたのですが、ちょっと違いました。前半の穏やかな学園の雰囲気が一変し、殺人鬼と化した先生に追いかけまわされる展開に呆気にとられていました。笑。逃げ切れて良かったなーと思いましたけど、結果的に殺されちゃいましたから・・・。何十年も恨みのエネルギーを保ち続けた先生の執念が勝ったんですかねー・・・。
「仮面」騙された先生がかわいそうなのか、アホなのか・・・。あんまり印象に残らなかったかな。
「大雨とトマト」っていう歌がありそう。大雨の日に男の店に女の子が来て、トマトだけ注文して、食べて帰るっていう話です。男は、女の子の出生の秘密について思いを巡らせますが(自分が父親かも・・・とか)、とんだ見当違い。彼女の目当ては、彼の息子だったのだ・・・。盛り上がりのない淡々とした話。産むのか、堕ろすのか。店を訪れた女の子の本心が気になる。
「片想い」岩様!岩様かわいい!の話(笑)。百合の要素があるので、嫌いな人は嫌いな話だと思います。私、女子高のノリが良くわからないので、友達以上!でも親友じゃなくて・・・みたいな感覚は理解できません。ただ、岩様の純情はいいなと思いました。謎は予想通りの結末。
「氷の皇国」皇女が仕組んだ皇子殺し。前半は動きが少なく話にのれませんでしたが、皇后の謎解きが始まったあたりから、俄然おもしろくなってきました。お父さんは本当にかわいそうでした・・・。お母さんがソリにひかれて亡くなったのも、事故じゃなくて故意なんじゃ・・・と思ってしまいます。トーラおばあさんが、余生を静かに過ごされますように。ミステリーの要素も含みつつ、ひとつの王国の栄光と衰退を描いたファンタジーとしても楽しめます。


「アルモニカ・ディアボリカ」

皆川博子/早川書房

18世紀英国。愛弟子エドらを失った解剖医ダニエルが失意の日々を送る一方、暇になった弟子のアルたちは盲目の判事の要請で犯罪防止のための新聞を作っていた。ある日、正体不明の屍体の情報を求める広告依頼が舞い込む。屍体の胸には“ベツレヘムの子よ、よみがえれ!アルモニカ・ディアボリカ”と謎の暗号が。それは、彼らを過去へと繋ぐ恐るべき事件の幕開けだった。

じわじわ本の感想がたまってる・・・!
前作「開かせていただき光栄です」から5年後のお話です。消化不良だと感じていた、エドとナイジェル(主にナイジェル)の過去を絡めた話で、前作を補完するだけでなく、1つの物語として楽しめる本でした。改めて皆川さんスゴイな!と思いました。最初からここまで折り込みずみで1作目を書かれたのでしょうか・・・?
採石場の坑道で見つかった死体に記されたメッセージは、ナイジェルからエドへのメッセージではないか?と言う推測のもと、その街を訪れたアルたち+ダニエル先生。しかし、そこで彼らはナイジェルの死体と対面することになる。一体、彼らはダニエルのもとを去ったあと、どのように過ごしていたのか。ナイジェルと共にいたのはアボットなのか。
一方で、ネイサンが出会った女性の恋人の行方を捜すうち、ある精神病患者を収容する施設が浮上する。そこは、かつてナイジェルが生まれ育ったところだった。
ナイジェルの死、という予想外の展開から始まった物語。正直、アボットのことは忘れていました・・・。ナイジェルの誘惑にはまってしまったアボットは、ナイジェルとともに過ごしていたようですね。アボットに好意を寄せていたアン助手は、ショックだったでしょうね。
バートンズの面々も、ダニエル先生も、2人のことを忘れることはできなくて、やっぱりすこし元気がない様子。ナイジェルとは生きて再会できなかったけれど、エドとは再会を果たします。もう罪は償ったのだから、帰ってこいと説得するも、1人でナイジェルの死の真相を解き明かそうとするエド。エドはストイックだからな・・・と納得しつつも、私は仲間のもとに帰って欲しかったなと思います。ナイジェルの手記は、衝撃的な幼少期の体験から始まり、エドへの思いも綴られていて、少し屈折したナイジェルの内面が垣間見えるようでした。エドのこと、好きだったんだねえ・・・。結局、エドにまたしてやられたな!っていう検事さんの気持ちが良くわかりました。もし仮に3度目があったとしても、さすがの検事さんも信じないでしょうね・・・。笑。
楽器の方のお話は、飲み込みにくいところもありましたが、まあそこは雰囲気で・・・。引き裂かれた2人がかわいそうでした。でも、ここは無事に添い遂げられそうで良かったです。これも、エドのおかげなんだけど・・・、エド、最後は志願して戦争に行っちゃうし!最後までびっくりさせられました。彼の罪は最後まで深いところにあり続け、彼自身の中から消えることも薄れることもないのだなと思いました。
検事の苦悩も、この時代ならではで、不正が横行している中で公平さを保ち続けることも困難だと思います。これもストイックじゃなきゃできないよなあ。っていうか、どれだけ意地汚いんだ、みんな。
もとのバートンズには戻れなくても、無事にエドたちが帰ってくるといいなー。