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読書の記録です。

「シンメトリー」

誉田哲也/光文社

姫川玲子は、警視庁捜査一課殺人犯捜査係に所属する刑事だ。主任として、「姫川班」を率い、殺人事件の捜査にあたっている。なりたくてなった刑事、三度の飯より捜査活動が好き、できれば派手な事件に挑みたい。そんな女だ。しかし、事件の真相と司法との間には、割り切れぬ闇も確実に存在して…。警察小説の愉しみに満ちた傑作。

ドラマで見た話がほとんどでした。
この前「ドルチェ(魚住久江シリーズ)」も読みました。魚住さんは姫川さんより一回りくらい年上で、どこかあきらめた感じとか達観した感じが、短編の軽い読み心地とマッチして良かったんじゃないかなーと思います。しかし、私はどうやら姫川玲子シリーズの方が好きみたいです。あの強引で、ぐいぐい行く感じが、読んでてスカッとするんだなー。
「東京」ドラマでは菊田の過去話にアレンジされていました。そんなバカな(笑)!という真相です。姫川さんは、敵も多いけど、先輩からかわいがられてるよなー。
「過ぎた正義」余韻が残る終わり方ですが、確かドラマではその後の話もあったはず・・・。これも続きの話があるのかな?実際には許されないけど、気持ちとしては倉田さんの肩を持ちたい。
「右では殴らない」これはドラマの中でも結構好きな話でした。「なめんじゃないわよ」って言ってみたいです。笑。啖呵をきる姫川さんがかっこ良い。売春はもちろん両方悪いけど、若い娘さんを食い物にする男の気が知れない。
「シンメトリー」ドラマとは少し印象の違う感じでした。犯人が左右対称に異常に執着する人かと思っていたけど、そんなことはなかった。うーん、干物に例えますか・・・。
「左から見た場合」これはドラマでは井岡の話になってました。これに関しては、井岡の方が合ってるかな。超能力を認めない姫川さんが姫川さんぽかった。笑。
「悪しき実」樒(しきみ)とかけてます。ドラマでもあれっ?て感じでしたが、本で読むとさらに肩透かしをくらった感じ。しんみりした話です。
「手紙」これはドラマ化されていなかったような・・・。事件より、手柄を立てようという野心に満ちた姫川さんが良かった。女同士が組むとコワイですねー。


「正義?馬鹿をいうな。」

「殺しに正義も糞もあるか。」

「あるのは選択だ。」


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「しあわせなミステリー」

/宝島社

亭主関白の真逆を体現する男・兜。愛する息子も恐妻も知らない、彼の本当の職業は…殺し屋!?(「BEE」)。故郷の自然と思い出を守りたい。そんな主人公・夏美の前に現れた、不思議な男。彼の正体は…?(「二百十日の風」)。大人気、佐方検事シリーズ最新作。相次ぐ郵便事故に目を留めた佐方は、ありえない秘策で事件を解決する!?(「心を掬う」)。今回の名探偵は…著者人気シリーズ「アゲハ」から飛び出した、ハラマキ捜査官の愛娘・菜月(8歳)(「18番テーブルの幽霊」)。大人気作家オール書き下ろし、“人の死なない”ミステリー。心にしみる、とっておきのアンソロジー。

確かに人は死なないのですが・・・。
「どんな癒しの物語が読めるのだろう・・・!」と期待していたので、読了後は「これ、しあわせ・・・?」と幸せについて考えてしまいました。ちょっと、一般的な幸せの概念から、ずれてるような・・・。
伊坂さん以外は、はじめましての作家さんでした。
「BEE」(伊坂幸太郎)。兜さんって聞いたことあるような。新幹線の話は、マリアビートルかなと思いつつ。登場人物がすべて頭に入っているわけではないので・・・。ファン以外にとっては、ただのハチ退治の話だよね?しかも、ミステリーでもなんでもないっていう。笑。
「二百十日の風」(中山七里)。中山さんといえば、「連続殺人鬼・カエル男」が気になっています。が、猟奇的な話だったらイヤだなあと思って読めずにいます(←チキン)。で、この話はファンタジーでした。10日間で転勤って早いな!産休の代わりなんだから、産休の先生帰ってくるまではいないとダメでしょ。いやいや、今までのは幻で、実は別の先生がずっと勤務していて、みんなの記憶は改ざんされていて・・・というオチはどうよ!とか、ファンタジーをなんとか現実的にしようと考えていた。・・・でも、これって懐かしいだけでしあわせではないよね?
「心を掬う」(柚月裕子)。幸せに一番近いのがこれかなあという気がする。しかし、下水をドブさらいするシーンを読んだあとに、ほっこりできるはずもなく・・・。あと、最後まで福村さんを疑っていた自分は歪んでるなあと、ちょっと落ち込んだ。福村さん、すごくいい人だったんです・・・。
「18番テーブルの幽霊」(吉川英梨)。爆弾騒ぎと母親と子供の話を絡めています。しあわせかどうかはさておいて、とにかくつまらなかった。話がアレなら、もうちょっと謎ときの方をひねって欲しかった。大体、子供の姿を見たいからってだけで働く店を決めて、今度はテーブルのロウソクの灯りが邪魔だからって、架空の予約を入れるって、どんだけ自分勝手なの!笑。母ならば、もっと他にやることがあるでしょ!
しあわせって、主観的なものだから、他人にはわからないものなのかな・・・。


「海賊女王」

皆川博子/光文社

16世紀。スコットランドの高地に牧童として生まれたアラン・ジョスリンは、17歳で戦士集団に加わり、アイルランドに渡る。そこで出会ったのは、オマリーの氏族の猛々しくも魅力的な男たちと、赤い縮れ毛を短く切った、10歳の少女グローニャ。闘いと航海に明け暮れる、波瀾の日々の幕開けだった。

16世紀イギリスの下調べをしておくべきだった・・・!激しく後悔。
なんせ、私はイギリスが色々な民族が集まっていて、イングランド、アイルランド、スコットランドで血みどろの戦争を繰り広げてきたことなんて、知りませんでした。ただの地方の名前かと・・・。さらに、エリザベス女王がどのような治世を行ったかも知らなかったので、最初は結構戸惑いました。
一言で本のあらすじを説明するならば、女海賊・グローニャとその従者アランの生涯を描いた物語です。しかし、これがすごいんだ!久しぶりに本を読んでいて、生命の躍動を感じました。登場人物が、こんなにも生き生きと動き回り、満ち溢れる生命力で読者を圧倒する本は少ないと思います。
グローニャが10歳、アランが17歳の時に2人は出会い、アランはオマリーの族長の娘グローニャの従者になります。この関係は一心同体で、男女の関係や血族の関係を超えています。特にアランは、子供が生まれたあとも、グローニャを優先するほど。妻のネルは2人の関係を容認していますが、後年の場面ではグローニャへの強い嫉妬が伺えます。まあ、嫁さんからすれば、旦那を道連れにされたようなもんだからなあ。この草むしりのシーンが、実は一番好きだったりします。
グローニャ自身は、2度の結婚をします。しかし、子供の父親は3人とも違うっていう・・・。しかも、長男と次男は自分より先に死んじゃうんだ・・・。1人目の旦那は自分が殺しちゃうし・・・。何て複雑な家庭環境!グローニャは、1回目の結婚の時に海軍(要するに海賊)を組織し、夫の死後、実家に海軍を率いて戻ります。父ドゥダラの死後、オマリーの族長となり、海軍を率いて海賊活動をしながらイングランド軍に抵抗しつつ、他部族からの侵攻を防ぐ・・・。女傑だ!かっこいい!
一方、イングランドを治めるエリザベス女王も、海賊業による収入を得ていたので、こちらも海賊女王。同じ年に生まれ、同じ年に没した2人の女王を軸に、イギリスの歴史が語られるのです。立場は違うけれど、人の上にたつものは、孤独との闘いや重責、はりめぐらされる陰謀・・・。息をつくひまもありません。
年月はたち、グローニャ60歳の時、末息子のティボットがイングランドに捕らえられます。グローニャは、息子の命乞いのため、イングランドのエリザベス女王に会いにいき、会談を持ちます。これは史実らしいですね!一国の王がアイルランドの部族と会談って・・・すごい!2人の間にはやはり通じ合うものがあるのかな。
60歳のグローニャとエリザベス女王、67歳のアラン。それぞれの老い方をしています。この年を経ていく者のあきらめとか達観とか、まだやれるっていう意気込みとか・・・。そういうのが絶妙な描きかただなあと思います。これは皆川さんだから表現できたんですよね。
このあたりで、殺人事件が発生!ちなみにこの本「このミス」に入ってまして・・・。この事件がミステリーか!と思ったのですが、事件自体よりもそこから発覚した、エリザベス女王の過去と、密偵・オーランド、アランの妻ネルの3人を結ぶ秘密こそが真のミステリーだな!と感心したのでした。このあたりの話も歴史ミステリーみたいでおもしろいですよ。
抵抗空しく、最後はアイルランドが降伏してしまいます。戦いの中で、グローニャもアランも命を落とします。
血なまぐさいシーンが多いですが、海戦も陸戦も臨場感たっぷりで、ノリノリで読めます。何より、登場人物がみんな魅力的なんです!全員は紹介できないけど・・・(最初の登場人物のページを見てください。笑。)。私はオシーンが大好きです!オシーンが笑うときは、「顔中を口にして」笑うんです。きっとステキな笑顔だよー。とてもおもしろいだけではない魅力が詰まった本で、オススメです。きっと、万人受けは難しいけど・・・。


「あの女なら、理解する。」

「女王の孤独を」





「さよならの次にくる<卒業式編>」

似鳥鶏/東京創元社

「東雅彦は嘘つきで女たらしです」愛心学園吹奏楽部の部室に貼られた怪文書。部員たちが中傷の犯人は誰だと騒ぐ中、オーボエ首席奏者の渡会千尋が「私がやりました」と名乗り出た。初恋の人の無実を証明すべく、葉山君が懸命に犯人捜しに取り組む「中村コンプレックス」など、〈卒業式編〉は四編を収録。

似鳥さんの本、結構積んであるんですよ・・・。
タイトルの付け方が上手いから、おもしろそうだし、文庫だからつい買っちゃうんだよね・・・。
「理由あって冬に出る」を読んだのはずいぶん前。にも関わらず、すぐに続編に手が伸びなかったのは、「理由あって~」のインパクトがあまりにも小さかったためだと思います。
今のところ前編ですが、どうも、こちらも煩雑な印象を受けます。
「あの日の蜘蛛男」果たして小学生がそんなアクロバティックなことをするものだろうか、とは思った。ところで柳瀬さんは、葉山くんのことが好きなの?
「中村コンプレックス」罪つくりなイケメン、東さんを中傷するビラを貼りだしたのは誰?葉山くんは、初恋の人を救うことができるのか?私の中でのミノの評価が少し上がりました。
「猫に与えるべからず」いつもと雰囲気が違う・・・。葉山くんぽくないと思っていたら、語り手は、やはり葉山くんではなかった。猫がかわいそう・・・。エサをあげるなら、魚とかカリカリにしようぜ・・・。
「卒業したらもういない」伊神さん、卒業。葉山くんが、伊神さんを探してウロウロする話。私なんかは、「そんな必死にならんでも、縁があればまた会うだろうし、会わなければそれまでのこと」と思ってしまうタイプなので、葉山くんの必死さがよくわからなかった。「中村コンプレックス」でも窓の鍵が~というオチでした。なんじゃそりゃ。似たようなオチなら、密室の演出なんかなくても、話は成立しただろうに。
ちなみに、伊神さんが実は女性っていう説もあるようでびっくりです。表紙って柳瀬さんでしょ?違うの?と戸惑った私。しかし、皆の衆思い出そう。渡会さんは「伊神さんって彼女いるの?」と聞いていたはず。彼女っていえば、相手は男でしょう!変則で、渡会さんがレズビアンで・・・という説もなきにしもあらずですが、その場合葉山くんの衝撃はあんなもんではないはずです。というわけで、伊神さんの性別は男です。これで実は女でしたとか言われたら・・・、わたしゃ・・・暴れるよ!笑。
断章については何も語られず。後編への伏線のようです。
後編での巻き返しを期待しています!


「もてるやつらはもてすぎだあ。不公平だ」

「そうだあ」

「畜生」

「畜生」


「そして誰もいなくなった」

アガサ・クリスティ/早川書房

さまざまな職業、年齢、経歴の十人がU・N・オーエンと名乗る富豪からインディアン島に招待された。しかし、肝心の招待主は姿を見せず、客たちが立派な食卓についたとき、どこからともなく客たちの過去の犯罪を告発してゆく声が響いてきた。そして童謡のとおりに、一人また一人と…ミステリの女王の最高傑作。

題名だけなら、誰でも聞いたことがあるだろう数々のミステリーの名作たち。
ミステリー好きの私も、もちろん大体のものは読んでいます・・・と言いたいところですが、実は全く読んだことがありません。日本の古典ミステリーは何冊か読みましたが、読んでる方に比べたら全然・・・。翻訳ものに到っては、そもそも訳された文が苦手で全く手をつけずにここまで来ました。最近になって、やっと翻訳ものを楽しめるかなという予感がしてきたので、翻訳ミステリーに本格的に挑戦することにしました。
そこで、選書の参考に・・・と買ってきたのが、「東西ミステリーベスト100(文芸春秋)」。私の大好きな「獄門島(横溝正史)」が1位だったから、好みが合いそうってことで。国内編ランキングの作品も気になるところですが、まずは海外編から、途中で飽きる可能性も考えて、1位から攻めていきます(それは、攻めなのか守りなのか・・・)。
前置きが長くなりましたが、1位がこの「そして誰もいなくなった」です。
色々な作品で、モチーフに使われたり引用されたりしているので、本を読んだことがなくても「孤島に集められた男女10人が、インディアンの歌の通りに殺されていく。最後は全員死ぬ。」のようなあらすじはなんとなく知っていました。実際そのまんまでした。笑。
この選ばれた10人は、過去になんらかの罪を犯しているけれど、確たる証拠がないため法で裁かれなかった人々。しかし、本人達は自分の犯した罪を自覚しているので、うろたえ、おびえ、追いつめられていきます。そういや、最初の被害者の兄ちゃんだけは陽気に酒をあおって死んだっけな・・・。
陸の孤島、見立て殺人、最後の犯人の告白・・・と、名探偵の謎解きはありませんが、ザ・ミステリー!という充実の内容でした。現代だったら、ネット環境から衛星携帯まで大体の通信設備が整っている時代で、このような話は成立しにくいかと思いますが、これは読了後に考えたことで、読んでいる間は全然気になりませんでした。むしろ気になったのは、真犯人は最後に自殺するんですけど、自殺の形跡は調べればわかるんじゃ・・・そしたら、自ずと犯人わかるんじゃないの?という点。
様々な趣向を凝らしたミステリーももちろんおもしろいですが、こういうシンプルなミステリーもわくわくしますね。嫌味のないさっぱりとした読後感でした。