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読書の記録です。

「植物図鑑」

有川浩/角川書店

ある日、道ばたに落ちていた彼。「お嬢さん、よかったら俺を拾ってくれませんか?咬みません。躾のできたよい子です」楽しくて美味しい道草が、やがて二人の恋になる。

落ちモノ(ラピュタのような出会いを指すらしい)ラブストーリー。
・・・ラピュタは、カワイイ女の子落ちてきてラッキー!という話ではないと思うのだけど・・・。
それはさておいて、アパートの前で行き倒れていた青年が、いい男だったため、拾って同棲しているうちに恋人同士になったという有川さんお得意のあまーいお話です。
最近の女子は、肉食が増えたそうなので、こんな展開もあり・・・?と思うように努力してみましたが、どうにもこのシチュエーション納得いきません。私がお堅いのかしら。笑。なので、どんなに相思相愛だろうが、何かよくわからんものを乗り越えたっぽい愛を見せ付けられようが、入籍しようが、お母さんはそんなの認めませんよっ!という気分でした。実際、普通の親御さんならそう言うと思う。
納得いかないといえば、イツキが消えたくだりもおかしい。いやいや、もっと説明のしようがあるでしょ。笑。今まで、さやかにこれだけお世話になっておきながら、一筆箋に「ごめん。またいつか。」だけ書いて消えるってありえないでしょ・・・。無責任にもほどがある!万が一妊娠しちゃってたらどーすんの?
さらにイツキさんについては納得のいかないことが。イツキさんは華道家の長男で跡継ぎらしいんだけど、それが嫌で逃げまわっていたらしい。しかし、さやかとの関係をきちんとするためには、家族とのゴタゴタから逃げていてはいけないということで、戻ってケジメをつけてきたそうです。それが、「相続放棄」。相続放棄したら、家族と縁が切れるわけではありません。冠婚葬祭、その他さまざまな場面で血のつながりからは逃れられないのです。いい年をした大人が、これですべて解決と言い切ってしまって良いのか疑問。就職もコネだし、結局人生から逃げていることに変わりはないと思う。
雑草料理はおいしそうだけど、岡本さん(渡鬼の)思い出して、どうにも笑けました。まあ、雑草がそんなにおいしければ、みんな食べてるわけで・・・。そしたら需要があるから、雑草農家とか出てきて、スーパーとかにも並んじゃうわけで・・・。実際そんなことないですから、まあ、それなりなのかな。
全体的に辛口になってしまいました。
これが、付き合ってちょっとしてから同棲したてのカップルの話だったら、ドラマはないけど、もっと和んで読めたような気がする・・・。


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「望郷」

湊かなえ/文芸春秋

島に生まれ育った人々が織りなす、心の奥底を揺さぶる連作短篇集。

直木賞候補になっていた作品。図書館で、借りる本としては新しめです。
読んでから気づいたのですが、雑誌「オール・スイリ」に掲載されていた短編も収録されていました。白綱島で幼少期を過ごした人々が、大人になってから当時を思い返すお話。舞台も白綱島です。
「夜行観覧車」で、かなりがっかりしたので、どんなもんだろうと思っていましたが・・・。これは、とても良かったと思います。作風も今までの湊さんとはちょっと違ってて新鮮でした。
「みかんの花」ミステリ色の強い話。すでに1回読んでたせいかもしれないけど、インパクトが無かった。
「海の星」こちらもミステリです。賞をとったようで・・・。おっさん、まだ生きてたんか!と私も思ったが、まあ死んでるよりは生きてる方がいいわな。
「夢の国」これも1回読んだものだった。含みのある終わり方ではあるけど、私はハッピーエンドで良いと思う。受け入れてしまえば、それなりに慣れていくものだと思うし。人生とは実はこんなもの、という気がする。主人公よりも、彼女の母親の方が不憫な感じ・・・。
「雲の糸」ミュージシャン、里帰り。後でどれだけフォローされても、許す理由にはならないと思う。お母さんのしたことも、同級生のしたことも。でも、お姉さんの最後の話は良かった。聞かなかったフリのあたりで、目がうるうるしました。
「石の十字架」島のいじめも都会のいじめと同じくらいひどいことをするんだな・・・と思った。うーん、まあ、これは普通のお話でした。
「光の航路」これが一番良かった。彼は生徒のために動ける先生になるに違いない。進水式の話は、親が子を思う気持ちがあふれていて感動しました。泣きそうだった。
全体的に、明るい話ではないし、なんかしこりの残る終わり方ではあるのですが、だからこそ少しの希望が美しく見えるのかもしれない、と思いました。


 

「ストロベリーナイト」

誉田哲也/光文社

姫川玲子、27歳、警部補。警視庁捜査一課殺人犯捜査係所属。彼女の直感は、謎めいた死体が暗示する底知れない悪意に、追ることができるのか。

ドラマ、はまってました!はまりついでに、映画も観にいきました。
とにかく竹内結子さんがキレイで、かっこよかったー。もちろん、西島さんの菊田もたまらなかったです。笑。しかし、原作とのギャップが大きいのもまた菊田。よく西島さんをキャスティングしようと思ったな。
2時間ドラマの原作となった作品。ドラマの方では、少女の心理がいまいちピンと来なくて、「おかしな人だなあ」という程度の認識だったのですが、本を読むとまた違った印象になりました。少女は、どうしようもなく汚れてしまった自分が、他の人と同じなんだということを確かめるために、殺人ショーという儀式を繰り返していた。一方、共犯の人物は、殺される人間を見ることで自分の社会的な優位性を絶対のものにしようとした。殺人ショーに来る観客は、次に殺されるのは自分かもしれないというスリルと、生き残ったことによる優越感により、精気をみなぎらせている。
どの人も精神的におかしいですが、これぞ人間の本能、と見ることもできます。少女の透明な狂気とか、本でなければ味わえなかったかも。
ちょっと前に読んだ「ハング」の犯人もまたエキセントリックな感じでした。最後、爆破だったな・・・。この本も、犯人の異常な面が描かれますが、ド派手な展開にはならず、まあまあキレイにまとまってる印象を受けました。私はこちらの方が好きです。そういや、「ハング」でも同僚が亡くなってました・・・。親しい人が殺される→許さない!パターンが好きなのかしら・・・。仲間が死ぬ展開ってドラマチックになりますけど、読んでる方としては、1人も欠けて欲しくないわけで・・・。特に、姫川班ってみんな好きだったもんで・・・。大塚も殺さないで、意識不明の重体とか(これもひどいか)、それで最後に意識が戻るとか、なんかそういう方向に持っていって欲しかったなー。
できれば順番に追っかけていきたいと思います。


「いいか。」

「人間なんてのはな、真っ直ぐ前だけ向いて生きてきゃいいんだよ」


「黒猫の接吻あるいは最終講義」

森晶麿/早川書房

黒猫と付き人がバレエ『ジゼル』を鑑賞中、ダンサーが倒れるハプニングが発生した。五年前にも同じ舞台、同じ演目で、バレリーナが死亡する悲劇が起きていた。ガラスアーティストの塔馬から聞いた黒猫の過去と、二つの事件の関連を気にする付き人。しかし何やら隠し事をしているらしい黒猫は、関わらないよう忠告するだけだった。仕方なく付き人は一人で事件に挑むが…。

2作目は長編。私は短編の方が良かったです。長編にしても、物語に深みがあるわけでもなかったし。それなら、短編でさらっと流した方が読みやすいです。うんちくを語れば、物語に深みが出るってもんじゃないと思います。やはり、登場人物の心情を描いてこその物語です。どこに重きを置いているかにもよりますが、私が読む限り、ミステリーより黒猫と付き人の関係を描きたいのかな?という印象を受けたもので・・・。黒猫はこんなにいい雰囲気なのに、甘い言葉の一つも言えないなんて、薄気味悪いです。これが最近の草食系男子というものでしょうか?普段は、友達以上・恋人未満の関係はやきもきするけど、読んでいて楽しいので好きなんですけど・・・。なんか、この本では、駆け引きにおける黒猫のズルさが際立っていて、いい気分ではなかったな。
今回は、バレエの「ジゼル」を主題にポオの詩篇なんかも絡めつつ・・・という感じ?正直、黒猫の解説を読んでいるときは、分かったような分からんような、もうどうでもいいやって心境でした。笑。芸術家の考えることは良くわからなんなりー。
今回、付き人は良くがんばった!最後にプレゼントももらえたし、良かったじゃない!・・・私だったら、そんなガラスの置きものよりも、一言が欲しいですけどね・・・。
3作目が短編だったら読もうかなー。長編だったら、読むのは来年にしようかなあ・・・。


「誰もいない公園に胸を弾ませて行くなんて馬鹿みたい。」

「でもいいのだ。」

「会いに行く。」


「とにかく散歩いたしましょう」」

小川洋子/毎日新聞社

締切前の白紙の恐怖。パン屋での五千円札事件。ハダカデバネズミとの心躍る対面。何があっても、愛する本と毎日の散歩ですべてのりきれる。心にじんわりしみるエッセイ集。

大好きな小川洋子さんのエッセイです。
今回のエッセイにも、小川さんの謙虚で誠実なお人柄が良く表れていました。謙虚であるということは、とても難しいことで、人はすぐに他人と自分を比べて、どこか自分に優位な点はないかと探してしまう節があるのではないかと思います。ところが、小川さんの作品に出てくる登場人物たちは、ちゃんと自分の役割を知っていて、その仕事を誠実にやり遂げることが一番大事だと私に教えてくれているような気がします。エッセイでもそれは同じで、小川さんが仕事、あるいは小説そのものに誠実に向き合ってる姿勢が感じられました。
ハダカデバネズミに会ったときのワクワクしている様子や、もうひとりの小川洋子さんをちょっと自慢げに語る様子、イタリアで赤い手袋を買う様子など、小川さんの様子が目の前に浮かぶようでした。まるで少女のようなかわいさ!笑。5000円札の件は怒ってもいいと思うけど、そこで心配するのがめんたいフランスをどこで買えばいいのか?だなんて、脱力してしまう。駅の改札を止めては申し訳なく思い(舌打ちする人の方がひどい!)、文鳥を飼うためにあれこれと走り回る。一方で自分が老いるということは、親が老いるということで・・・。老いについても考えさせられる。
涙なしに語れないのは、愛犬ラブが亡くなったことでしょう。うちの愛犬も14歳と2ヶ月で亡くなったな・・・とか思い出して泣けてきました。小川さんがラブについて書く文章は、いつも愛情にあふれていて、ラブがどれだけ愛されていたかがよくわかります。犬を看取るのが飼い主の役目とはいえ、愛犬の最期の時は辛いです・・・。うちは、よっぽどのこと(捨て犬とか貰い手がどうしても見つからなくて保健所に連れていかれるくらい)がない限りは、もう動物を飼わないことになりましたが、小川さんとこは、しばらくはブンちゃん一筋なのかな?ブンちゃん、長生きしてね!


「ひとまず心配事は脇に置いて、とにかく散歩いたしましょう。」


「散歩が一番です。」