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読書の記録です。

「ウィンター・ホリデー」

坂木司/文藝春秋

届けたい。間に合わないものなんてないから。一人から二人、そして…。父子の絆の先にある、家族の物語。父親は元ヤン・元ホスト・現宅配便ドライバー、息子はしっかり者だけど所帯じみてるのが玉にきずの小学生。冬休み、期間限定父子ふたたび。

「ワーキング・ホリデー」の続編。
前作の内容をきれいさっぱり忘れていて、登場人物も全く思い出せない!かろうじて「ハチさん便」というワードはひっかかった・・・。そうだ、宅配便の話だった・・・。夏休みから数ヵ月後、今度は冬休みのお話。
今回も、業界ふむふむ話が盛り込まれてます。おせちの宅配にはそういう苦労があるんですね・・・。おせち作り直しのくだりは、ありえない!という感じでしたがー。
ヤマトの一人称は寒いな・・・と思っていたら、前の感想でも同じこと書いてた。親バカのヤマトとお父さん大好きな進のじゃれあいが読んでてむずがゆかった。父としては、懐いてくれるのは嬉しいんだろうけど、そんなに距離が一気に詰まりますかね?と思った。母としては、悔しいだろうなあと思います。
ジャスミンが名言連発で、前の感想でもジャスミンの名言にやられていたようです、私・・・。ニューハーフって開き直らないとやっていけない部分ってあると思うんですよ。そこが、信念の強さや、潔さ、はっちゃけておもしろいところにつながってるんでしょうね。だから、すごい!と思っても到底マネできやしない。
ヤマトの後輩として新登場したチャラ男くんが、いかにもな新世代キャラでおもしろかった。教育する方は大変だけど・・・。
とりあえず、この話もここで終わりかなー?


「両手は、誰かを抱きしめるためにあるの」


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「百瀬、こっちを向いて。」

中田永一/祥伝社

2股をかけている先輩に依頼され、百瀬陽という少女と偽装カップルになった僕。薄暗い電球のように、地味で目立たない僕は、女の子と手をつなぐことなんて生涯ないと思っていたのに・・・。表題作「百瀬、こっちを向いて。」他4編の短編集。

今はすでに周知のことらしいですが、乙一さんの別名義らしいですね。私は、毎日新聞の記事で知りました。私みたいに、情報源がネットじゃない人は、僕の作品を読まなくても結構結構コケコッコーとそういうわけですか、という気分になりました。じゃあ、もう一度トラブルがあったり書く環境を変えたくなったら、また別名義で作品を出すのかな?
グチグチはこのあたりにしておきましょう。
乙一さんの作品の魅力は、透明感だと思います。作品の内容はどうってことないんですが、無色透明の印象が世界観を特別なものに見せているような気がします。GOTH、ZOOも中身は真逆ですが、無機質な文体が世界観にマッチしているというか。
「百瀬、こっちを向いて。」映画化するらしいけど、2時間もつ?田辺くんが素晴らしい。
「なみうちぎわ」先生と生徒、と読むと禁断の香りがするが、なんだ4歳年下ってだけかと気がついた。
「キャベツ畑に彼の声」こっちが本当の教師と生徒!キャベツと恋心をかけるとは・・・、強引だけど嫌いじゃない。笑。あんまり教師と生徒のカップリングは好みではないのだけど、この2人はいい感じ。妹が実は・・・とか、そういう小細工はいらなかったと思う。
「小梅が通る」文章の間から、主人公の自尊心がぷんぷん漂ってくるようだった。友達に責められたのは、外見だけが原因?まわりの人だけが悪い?本来の自分を理解してもらいたいのならば、まずは自分が相手を理解しようとしなければならない。自分に都合のいい人間ばかりを求めていることが問題なんじゃなかろうか。まずはそのメイクを「ブスメイク」と呼ぶことをやめてはどうだろうか、と思った。友達がステキな人たち。彼女たちを見習うべき。結局、一番外見にとらわれているのは彼女自身。
うーん、なんだか作品もナナメ目線で読んでしまってるような・・・。しばらく、乙一さん関係の本は手に取らないでおこうと思います・・・。


「あんなやつ、知らなけりゃよかった。」

「ずっと他人だったならよかったのに。」


折り返し地点

ブログを始めた時に、本の記事を1000アップできるようにがんばろう!
って思ったことを思い出しました。

とうとう折り返し地点に来たぜ!

お休みの時期も含めて、8年ぐらいかかりました。
復路は、何年かかるかな?

というか、10年後生きてるのかな?
とりあえず、10年後生存していることを目標に頑張りたいと思います。

「開かせていただき光栄です」

皆川博子/早川書房

18世紀ロンドン。外科医ダニエルの解剖教室から、あるはずのない屍体が発見された。四肢を切断された少年と顔を潰された男性。増える屍体に戸惑うダニエルと弟子たちに、治安判事は捜査協力を要請する。だが背後には、詩人志望の少年の辿った稀覯本をめぐる恐るべき運命が…。解剖学が先端科学であると同時に偏見にも晒された時代。そんな時代の落とし子たちがときに可笑しくも哀しい不可能犯罪に挑む。

お久しぶり~の皆川さんの作品。これは、いつかの「このミス」で見かけて、題名と設定が気になっていたもの。題名がうまい!
舞台は18世紀ロンドン。まだ外科医の地位が確立されていなかった時代。解剖学教室で、ダニエルが弟子たちと妊娠6ヶ月の妊婦の遺体を解剖中に捜査が入り、混乱の最中、ダニエルが買い取った覚えの無い死体が2体発見された。これは一体誰なのか・・・?犯人は誰なのか?冒頭の掴みがおもしろい。
・・・と思っていたら、田舎からロンドンに出てきた詩人の少年の話がところどころで挟まります。ネイサン君の話はもういいんだけど・・・と思っていたのですが、これも最後につながってくるんですよねー。
私の想像では、ダニエル先生と愉快な弟子たちが事件を解決するという展開でしたが、後半は、想像していたのとは別の方にお話が転がっていって、引きずられるように読みました。まさか弟子たちが、事件の核心部分に触れる役割を担うとは・・・。そう持ってくるのであれば、ネイサンよりも、エドとナイジェルの内面に踏み込んだ描写を入れて欲しかったです。最後はなんだかあっけにとられているうちに終わってしまったので・・・。特にナイジェルは謎の人物になってしまいました。下手すると、エドより腹黒いのかな・・・。だってみんな嘘の証言ばっかりするもんだから、誰の言ってることが真実なのやら・・・。
いやいや思い返せば、エレイン嬢はかわいそうな被害者だけど、ハリントン、エヴァンズにロバートもみんな悪ばっかだったからな!むしろ、殺人に手を染めなければならない状況に追い込まれた、彼らこそが被害者といえるかもしれない。
当時の町並みや風俗なんかも織り込まれていて、ミステリーだけでなく、昔のロンドンってこんな感じかーと雰囲気も楽しめました。意外にも、なかなか読みやすかったです。
皆川さん、これからもお体に気をつけて執筆頑張って下さい!


「愛している」


「黒猫の遊歩あるいは美学講義」

森晶麿/早川書房

でたらめな地図に隠された意味、しゃべる壁に隔てられた青年、川に振りかけられた香水、現れた住職と失踪した研究者、頭蓋骨を探す映画監督、楽器なしで奏でられる音楽。日常のなかにふと顔をのぞかせる、幻想と現実が交差する瞬間。美学・芸術学を専門とする若き大学教授、通称「黒猫」は、美学理論の講義を通して、その謎を解き明かしてゆく。

表紙のかわいさと題名がおもしろうそうだったので、借りました。最近は、節約も兼ねて専ら図書館本ばかりです。
なので、アガサ・クリスティー賞第1回受賞作とは知らなかったです。というか、そんな賞があったのか、という感じ。「~賞」っていっぱいあって、よくわかんないや・・・。
24歳で大学教授の黒猫(あだ名)と、付き人の私(大学院博士課程)が謎を解き明かしていく連作ミステリー。主人公の私が、ポオ研究者という設定で、各話でエドガー・アラン・ポオの小説がモチーフにされています。私はポオの本を読んだことがないし、その他文学的な知識も乏しいので、黒猫が語る話の内容がわかったようなわからんような感じでした。やはり、有名な作品くらいは読んでおくべきかな・・・。でもなー、なかなかきっかけがつかめないんだよなー・・・ごにょごにょ・・・。
謎解きは、一番最後の骨ネタが妙にインパクトがありました。先生、怖いよー。ミステリーのロジックというより、その謎の背景にある人間関係、いわゆる男女間の愛に重きを置いている印象を受けました。「水のレトリック」と「秘すれば花」の雰囲気が良かったと思います。「水のレトリック」盲目の調香師っていう響きが何となく色っぽいなあ、と。あと、「秘すれば花」は、雨とお寺ってすごくマッチすると思ったので。全体的に、謎解きはやや強引で、解かれたあとも、すっきりするというよりは「これに何の意味が?」と釈然としない感じ。秘めた愛を伝えるため?・・・わかりにくいっ!雰囲気勝負の作品かな、という印象でした。
黒猫さんは毒舌という設定だけど、言動がまわりくどいだけで、普通に親切でいい人・・・?


「女の泣き声に似た雨の音も、今はもう聞こえない。」